複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.212 )
- 日時: 2014/04/12 22:15
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uQH0nqZ2)
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扉の中へ入ると水晶の階段がずっと奥まで続いていた。その階段をひたすら降りて行くと大きな扉、これも宝石で出来ている。
その扉を開け、中へ入ると水晶の床がキラキラと反射する美しい部屋にたどり着いた。
一体誰がこんな所を作ったのだろう? グライトは疑問に思い、遠くに立っている人物を見る。そこには三人、中一人は少年だった。
グライトとリュウ、そしてユーノとソラは顔を見合わせてそちらへ歩く。
「あらぁ? また新しいお客さん? もぉ疲れちゃう」
第一声そう言った女性は美しく淡く輝く薄水色のドレスに身を包んでいた。グライトはそのキラキラとしたドレスの糸は何で出来ているのだろうと気になる。だがその前にここはどういう場所か聞いておかねばならない。リュウは年上としてその役を受けた。
「えっとここは……?」
リュウが質問すると女性はフンと鼻で笑う。なんとなく愛想の悪い印象を受けたのはつんとつり上がった鋭い目からだろうか。
女性は面倒だと言う雰囲気を醸し出したが、答えてくれた。
「知らないの? ならなぜ此処につながる扉が見えたのかしらぁ? 面倒ね」
冷たい氷の色をした瞳で一瞥する。その瞳はキラキラと宝石のように輝いているのに、どこか威圧感の様なものがあった。
ユーノはそんな様子を敏感に感じ取ったのか頬を膨らませて睨む。
「ちょっと、そんな言い方無いんじゃない? ボク達は別に悪さをしようってここに来たわけじゃないんだから! そっちに立ってる金髪のごつい人よりましなんじゃないの」
ユーノは女性の隣に立っていた男を指差す。そんなユーノを慌ててグライトは止める。
「ちょっとユーノ、そんな事言ったら失礼だよ! 迷い込んできて申し訳ないんだけどよかったらここがどういう場所か教えてもらえないですか?」
ユーノを制したグライトはそう言って三人を見た。
「ふん、君達はこの推敲な場所を知らないのか? 愚かだ。実に愚かだな。そう思わないかな、軽井沢くん」
「……そ、そうですね……?」
軽井沢と呼ばれた少年は不安げに頷く。金髪で筋骨隆々な男はそれに満足したのか得意気な顔だ。
ユーノはそんな彼らを見てべっと舌を突き出していた。それを止めさせたグライトは金髪の男に尋ねる。
「というと、どう言った場所? 名前も知らない、ただ扉が見えたから入ってみただけなんだ。それに扉の外は土地がだんだん変形して行っているみたいだし」
そう続けると金髪の男は「教えてしんぜよう」と説明をしてくれた。
どうやらこの洞窟は秘宝があるらしい。秘宝、連想される単語は守護神……まさかとグライトは目の前に居る美しい女性を見やった。女性はほほ笑む。
そして金髪の男「スター=ロッカ」は続けた。どうやらこの洞窟は金銀財宝で出来ているらしい。全てが正真正銘、天然のダイアモンド、水晶、金、銀などらしい。
それはすべて守護神「マリアネット」の趣味だ。ついでにスターの隣に居るのは「軽井沢隼人」。スターの弟子らしい。
それからスターの美しい物、芸術的な物について熱い語りが続く。そんな彼の目的はこの洞窟切っての宝石、伝説の秘宝を求めてやって来たそうだ。
秘宝に反応したグライトは目を輝かせてマリアネットを見た。
「俺も秘宝集めてるんだ! 譲ってくれないかな?」
そう言うグライトにスターは首を横に振る。
「残念ながら君の様な価値もわからない人間に秘宝は渡せない。秘宝は私の元にあってこそその輝きを増すのだ。私はそう信じている」
勝手にそんな事を言ってグライトを睨みつける。グライトは負けじと睨み返した。
そんな二人の様子を見てマリアネットは面白そうな顔だ。そこでリュウが顎に手をやり何か言いたげだ。グライトはそんなリュウの言葉を促した。
「グライト、秘宝集めてるって……集めてどうするんだ? 今何個持ってるんだ? 確か秘宝は七つあったはずだが」
リュウは首を傾げてそう言った。グライトはそう言えばリュウには自分の旅の目的を話していなかったと思いだす。
「今手元にある秘宝は二つ。一つはエース君に負けてもらえなかったけどまたおいでって言ってたから今度勝ったらもらえるはず。それまでに集めておきたいんだ」
グライトはニコニコと笑って胸を張る。リュウは普通に驚いていた。伝説の秘宝が身近に、それも弟のように慕っているグライトの手元にあると聞いて興味が尽きない様子だ。
グライトの話を聞いて大いに喜んでいたのはスターも一緒だ。彼は美しい物をこよなく愛している。グライトにその中の一つ、秘宝があると聞いてそう言う反応するのは当然だろう。スターは居てもたっても居られず質問した。
「秘宝とはどんな宝石なのか、見せてもらえるかな? 私は先ほども言った様に美しい物が好きなんだ! 秘宝なんて言うんだからそれはきっと美しいはずだ!」
鼻息を荒くそう語りだすスター。グライトは少し困り顔だ。それもそのはず、秘宝と言えどどのような形をして自分の元にあるのかは把握していなかったからだ。
「ごめん、見せてあげてもいいんだけど俺にはどんな形で俺の元にあるのかはわからないんだ。もしかしたら美しくない者の形をしているかも知れない、そうグレイシア様がいってたよ」
そう言うとスターは盛大に肩を落とす。軽井沢は慌ててスターを気遣う。
「そうか……だがますます興味がわいた! どうすればいいと思う? 軽井沢くん」
スターは体を起してそう問いかける。軽井沢はすこしどもっていたが妙案を思いついたのか顔を上げた。
「あの、そのぉ……戦ってみては……? スター様は戦いも得意、きっと彼に勝てると思います。……ってはぅご、ごめんなさい……ぼくなんかが意見して……」
慌ててそう謝るが、スターは「それはいい」と同意した。そしてグライトに正式に申し出る。
「私はレスリングと言うものをやっていてね、きみでは力不足だろうけど……秘宝を賭けて勝負をしてもらえないかい? 負けた方が引きさがると言う事で」
グライトはスターの申し出を聞き、少しうろたえる。
目の前に居るのは見るからに力の強そうな、筋肉質な男。きっと真っ向勝負では勝てないだろう。素早さまでは計り知れないが、レスリングと言うものは聞いた事があった。確かごつい体の人達がもみくちゃになる競技の一種。そう思い出し、村でレスリング好きだったおじさんを思い出す。
「あ、スターさんは前の年優勝していた……よね?」
疑問を投げつけてみるとスターは「その通り」と頷く。
「前の年、その前の年と私は優勝していたよ。きみ、見てくれたのかな? どうもありがとう。私にはこの美貌と美しい筋肉を兼ねそろえられている。神は不公平なものだ……」
しみじみそう言うスターからは自身があふれ出していた。
「レスリングは俺、できないけど……武器使っていいなら秘宝を賭けてもいい。いいかな? マリアネット様」
グライトの言葉にマリアネットは頷く。許可は降りた。
そんなグライトをユーノは心配そうに見ていた。
「また怪我して死にかけるとか……ない? 本当に大丈夫? あの人強そうだよ?」
不安に揺れるユーノの赤いぼんやりした瞳。最近は光を取り戻す事も多くなってきたと思っていたが、やはりユーノの瞳はぼんやり揺れていた。
グライトはそのユーノの瞳に罪悪感の様な物を覚えた。だが「大丈夫」と言って安心させてみる。ユーノは「もしものときは助けるから!」と言われ苦笑いが漏れた。
そんなユーノに続き、ソラも不安そうだ。遠慮がちに励ましてくる。
「頑張れグライト。……エースには負けたけど、あれから少し鍛えたのか?」
「まぁ夢の中で。まさに睡眠学習」
「頼りない……まぁせいぜい死ぬなよ」
ソラはそう言ってため息を吐きだした。
「じゃあ審判は俺とマリアネット様でする。二人もいれば公平に勝敗を決めれるはずだからな! じゃあ準備が出来たら広い所に出ろ。周りを巻き込むのは禁止、殺しも禁止、あくまで競技として勝負することが条件だ。問題無いだろ?」
「私もさんせぇ。ここで死なれたら貴方達の血で美しい床が汚れてしまうから、絶対守ってよね!」
マリアネットとリュウはそのまま安全な方へとユーノとソラ、軽井沢を移動させる。
グライトは軽く準備体操を、スターは動きにくい高級なスーツを乱暴に脱ぎ捨て、その美しい筋肉を晒す。
グライトはそのでき上がっている筋肉を見て今更ながら不安を覚えた。