複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.224 )
- 日時: 2014/04/27 18:47
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: CzWb5kfF)
第二十五話 船の上の生活
朝、目が覚めたグライトはベッドが揺れている事に軽く動じた後、此処が船の上だと気付く。
時計を見れば午前3時45分。何故こんなに早く起きてしまったのだろうとベッドにもぐりなおした。
耳を澄ませてみると朝早くだと言うのに廊下の方で人が行き来している。
乗組員達だろう。きっと交代の時間、今から寝る人がいると思うと不思議でたまらない。
グライトはフワフワする頭でその足音を聞いていた。瞳は徐々に徐々に閉じて行く。
(二度寝で決まりだなぁ……)
そう思い、力を抜いた。睡魔はそこまで来ていたようだ。グライトが目を閉じるとともに意識は睡魔に奪われて行った。
◆
台所——早朝4時頃。朝日に導かれるようにそこは賑わい出す。
「おいてめー! つまみ食いすんじゃねぇよ!!」
「うるせぇー! 腹減ってんだよ!」
「あっ!! お前もかッ」
乗組員の男たちはそんなやりとりをして台所で毎朝争うのだ。元々血気盛んな彼らはそれを好んで毎日行う。所詮退屈と言った様子だろうか。
そこへ女の子が現れた。綺麗に身なりを整えたユーノだ。短い金髪を可愛いヘアバンドで止めて髪を落とさないようにしている。
ユーノは恐る恐ると言った様子で厨房へ足を踏み入れた。それに気付いた乗組員の1人が「腹減ったのか」と尋ねる。
ユーノは首を振り、遠慮がちに答えた。
「手伝う事、無いかなって思って……皆まだ寝てない人もいるんだよね? ボク、こう見えても料理の腕はあるよ。頑張って旅先で磨いたんだぁ」
へへっと笑ってそう言うユーノ。男達はそんなユーノをでれっとしたしまりのない顔で見る。元々船に女が乗っている事自体少ない、それに乗っている女ときたら男より男らしく、ユーノの様なタイプは居ない様だ。
そんな乗組員の一人、大きなバケツにジャガイモを入れていた男が身を乗り出す。
「じゃ、じゃあ俺のジャガイモの皮むき手伝ってくれよ! 手が足りなくてさぁ」
ニコニコと手招く彼、ユーノは頷きそちらへ足を進めようとする。
そんなユーノの歩みを遮るよう、また声が上がった。
「はぁ? お前んとこ4人もいるじゃねぇか! それより俺んとこ手伝ってくれよ。包丁でサラダ切るだけの簡単な作業だからさ!」
今度は大きなマナ板の上でサラダを斬っていた男だ。ユーノは戸惑う。
そこへまた声が上がる。
「おいおい、お前のサラダは二人で十分だろ。スープ作ろうぜ譲ちゃん! 腕の見せ所だよ!」
スープをかきまぜていた大きな鍋の前に立った男はユーノに「なっ」と笑顔を向ける。
そうして次から次へと上がる声。ユーノは完全に困った。
そんな事をしている間にどんどん呼びかけの声は広がり、ついには争いまで始まった。
「うるせぇ! そんな事言ってしゃべりたいだけだろ!!」
「何だとッ! やンのかてめぇ!」
「上等だ!」
ユーノの申し出にあっちこっちが騒がしくなってくる。その騒ぎを聞きつけて後から後から湧き出る乗組員。ユーノはうろたえた。
そんなユーノに助け船を出したのはコック長だ。昨日の昼ごはん、夜ごはんを食べたユーノは彼の料理のおいしさを知っていた。
コック長は争う男達に一括、そしてユーノを迷惑そうな顔で見る。
「五月蠅い男どもがさらに五月蠅くなるから帰ってくれ。手は足りてないのが事実だが……」
少し眉をハの字にしてそう告げたコック長。ユーノは「そっか」と肩を落とす。そんなユーノの姿にコック長も肩を落とした。なんとなくだが悪い事をした、そんな罪悪感の様な物が込み上げてきたのだろう。
「……どうしてもやりたいって言うのなら、俺の傍に居ろ。俺の傍が一番大変だけどな」
そう付け足してユーノをちらりと見やる。ユーノはパッと顔を上げて元気よく頷いた。
それから一層にぎやかになる朝の厨房。こんなに五月蠅い朝は初めてだとユーノは笑った。