複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.23 )
- 日時: 2014/01/27 21:52
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)
第一話 不思議な黒猫〝リーブル〟
フィユ村、それはモート大陸の端の方にある小さな村だ。この村には年老いた者が多く住んでいた。その中で一人まだ十四歳の男児が定住している。彼の名前は「グライト」、生粋のソレイユの民だ。毎日店や畑の手伝いをして平和に暮らしている。
グライトは村人ととても仲が良く、村人はそれぞれ自分の息子に接するように親しみを込めてグーシャやグレイ、グラなど色々なあだ名で呼んでいる。グライトはあだ名に関しては特に気にも留めず、好きに呼ばせていた。
「レイタ爺さん、畑はこれ以上やることある〜?」
「うんにゃ、ないなぁ。どっか他に行く所があるのかい?」
「うん! お昼からは市場の方で魚屋のフィレットさんを手伝う予定なんだぁ」
「なら昼めし食って行っといで」
「やったぁ! お昼ごはん!」
グライトはそう言って畑の中で飛び跳ねる。そしてレイタと呼ばれた老人と共に室内へ移動した。昼ごはんは魚に白ご飯、煮物、そして今朝畑で採った野菜達。グライトはたらふく食べてからあわただしく市場へ走って行った。
◆
市場は村の中心にある。そこには魚屋のほかにも果物屋、総菜屋、立ち食い屋に喫茶店と言う様々な店が揃っている。
グライトはここであっちこっち走りまわり、好意から来るボランティアの様な活動をしていた。
今日は魚屋だと言っていたので早速魚屋へ向かう。
「フィレットさん、こんにちは! お手伝いに来たよ〜」
「おうグレイ、よくきたなぁ。さっそく手伝ってもらうか」
「店番だっけ? まかせて〜。あ、そうだ村の入り口付近に旅商人が来てたよ。魚もたっくさん新鮮なものがあるらしいから、行ってきたら?」
「それは行かなきゃなんねぇなァ。じゃあちょっと行ってくるな。頼んだぞぉ」
「いってらっしゃ〜い」
大きく手を振ってグライトは店の奥へ、エプロンをつけて再び出てきた。店先で立っていると、隣の果物屋のフレーティ夫婦の奥さんが顔をのぞかせた。
「グーシャちゃんはよく働くねぇ」
そう言ってニコニコ笑っている愛想のいいお婆さんはかなりの年齢になるが、まだまだ元気だ。夫の方はきっとまた店の奥でパイプ煙草をふかしているのだろう。
「こんにちはお婆ちゃん。売り上げは上々?」
「まぁまぁかんなぁ? お互い頑張ろうねぇ」
「はぁい!」
元気よく挨拶をしたグライトの視界の端に、何か動く物が入った。それはガタガタと魚を入れている木の板を揺らし、その中の魚は地面へばら撒かれる。
「あ!」
回り込んだグライトの目に入ったのは小さな黒い猫。この猫はグライトもおなじみだった。なぜならいつもグライトの周りをちょこちょこ動き回っては面倒事を増やす猫だからだ。何故この猫がいつも自分の邪魔をするのか、グライトの疑問は日々募るばかりだ。
「この悪戯猫! 魚返せ!」
グライトがそう叫ぶと、黒猫は面白そうに尻尾を揺らし、魚を咥えて走って行った。グライトは思わず追いかけようと足を動かす。そして店があった事を思いだし、一旦止まった。
「フレーティのお婆ちゃん、ちょっと黒猫から魚取り返してくるから、お店見といてくれない?」
返事を聞かず、再び走りだしたグライトにお婆さんは「元気だねぇ」と呟いて見送った。
◆
グライトが黒猫を追いかける姿は村の中ではよく目撃された。
黒猫の名前は「リーブル」と言い、グライトに「暇を持て余している猫」という意味でつけられた。
リーブルは不思議な猫でグライトが追いかけている途中、いつも突然青い光を発して消える。それに興味を引かれたグライトは見つけるたびに追いかけるようにしている。いつか謎を解いてやろうと思っているのだ。
今日も追いかけまわしてリーブルをやっと村の裏口に追い詰めたと思った時、黒猫はピタリとその足を止めた。
「なに? また消えるの?」
首を傾げて猫を見入るグライト。リーブルはそんなグライトを嘲笑うかのように鼻を鳴らした。少しムッとしてグライトはリーブルを捕まえようと飛びつく。身軽に避けられてため息を吐きだした。
「もーなに? どこに行くの? ……ってあれ?」
グライトは立ち上がり辺りを見渡す。確かにさっきまで村の裏口だったはずなのに、今立っている場所はこのモート大陸に存在する伝説の大きな木の下だった。
この木は「樹齢百万年は超えている」と囁かれている「始まりの樹」だ。歴史が始まるその時から存在したそうだ。
一体何故こんな所にグライトがいるのだろうか?
首を傾げているグライトを先導するかのように、黒猫はその神々しくも美しい緑の木の根元へ近づいて行った。
そして——木に溶け込むようにその姿をくらませた。