複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.232 )
- 日時: 2014/04/29 21:26
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: CbmxSfx3)
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正午になった。甲板の近くをうろついていたのはリュウだ。何故うろついていたかと言うと、単純に暇だからだった。
船の上は穏やかに時間が過ぎて行く。いつも土の上ばかり歩いていたリュウはふと板の上を歩きたくなったのだ。
リュウは甲板の海がよく見える場所へと立った。青く澄んだ海が広がっている。その海のずっと遠くを良く見ると陸が見えた。ふと自分が捨てた母国を思い出す。そして静かに首を横に振った。
「なぁんか退屈すぎてらしくないなぁ」
アンニュイな気持ちをかき消すようにそう叫んでみた。答える者は居ない、代わりに頭上から「なにいってんだ」と言う声が返ってきた。どうやら乗組員が上に居るらしい。どうせお互い暇なんだ、そう思ったリュウはその声に「なんでもねぇ」と言葉を返す。
笑い声が聞こえた。
楽しそうだ、ここに乗っている人は皆本当に楽しそうだった。何がそんなに楽しいのか、きっとずっと乗っていたら海だって見あきるだろう。そう思ったが、リュウは口に出さない。
そんなリュウに一人の女性が近づいてきた。その女性は、この船の船長レイ・セルディアスだ。
レイはリュウに一杯どうだと酒を掲げた。一杯ぐらいならとリュウは頷く。
「……で、何を思い出してたんだ?」
レイはリュウに酒を注いだ後、そう問いかけた。リュウはなんでもないと言う。
「まぁ人に話したくない過去ぐらい皆持ってる、か……お前この船に乗ってる乗組員が楽しそうだと思っていたろ?」
レイについ先ほど思っていた事を当てられたリュウは軽く感嘆する。
「やっぱりな」
「なんでわかったんですか?」
「視線でわかる」
短くそう言ったレイは酒樽から直接酒を飲む。ゴクゴクと喉を鳴らし、実にうまそうに飲むレイを見てリュウも渡された酒に口をつけた。少し口をつけて癖のある味だと床にそれを置く。
それからレイと目があった。なんだろうかと相手の言葉を待つ。そんな雰囲気を感じ取ってレイは間を置いてから口を開いた。
「まぁ……あんな楽しそうな奴等にも辛い過去があるんだ」
「え?」
レイは続ける。
「あいつらははぐれ者。世間様に見放されたゴロツキさ。凶暴ですぐ頭に血が上る……でもあいつらも人間だからさ、仲間を探すんだよ。いろんな場所へ行って、船を渡り歩き、時には裏切り……そしてやっと見つけたのがここ。だから楽しいんだ。一人で居るより、気の合わない人間と居るより、気の合う奴らと居た方が楽しいだろ? お前だってグライトやユーノ、ソラと居て楽しいと感じるだろ、それと一緒なんだ。……お前に居場所はある。だから先の事は考えんなよ」
レイはそう言って飲み干した酒樽を片手に立ちあがった。
「若いんだから、足りない頭で考えるより行動に移した方が最善の方法なんじゃないのか? まぁあたしはあんたの過去なんてこれっぽっちも知らないけどな」
レイはそう言って笑った。白い歯が綺麗に映る。リュウはその笑顔につられてつい口元を緩める。
「そうッスよね……えーっとおばさん?」
「……チッ、歯ぁくいしばれ」
レイはそう言ったと同時に右ストレートをリュウにお見舞いする。リュウは受け身を取る間もなくそのまま飛ばされた。甲板の先まで。上の方で事の成り行きを見ていたのか、笑い声が聞こえた。
リュウなんだか晴れ晴れとした気持ちになり、つい噴き出す。そうか、行動に移すのか、そう思い上を見た。綺麗な青い空が海を映したように広がる。
(こんな日もありか……)
渡された杯を拾い上げ、酒を飲み干すと、リュウは甲板に寝ころび、昼寝を始めた。潮風が妙にすがすがしい気持ちにさせた。
それから目が覚めるとそんなに時間がたっていなかったらしい。見張りの男は降りてきて、リュウをポーカーに誘った。何度か挑戦するもぼろ負けしたのは言うまでもないだろう。