複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.233 )
- 日時: 2014/04/29 21:37
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: CbmxSfx3)
◆
夜、星が降る様に空に広がっている。ソラは一人、そんな星を見上げていた。
「綺麗に見えるなぁ……」
そう言って少しの間ぼーっと見上げていると人の気配を感じる。
気配のある方へ視線を送るとレイが立っていた。ソラはこちらへ向かって歩いてくるレイをみて、後ずさる。
「なんだ? 近づいたらだめなのか?」
レイはそう言って面白がるように歩みを進めた。
「フン、信用ならねぇ。そのうえ女……」
ソラは警戒心と共に愛刀を構える。
「近づいたら殺す」
そう低く唸るように告げるソラ。レイはそんなソラを見て得意気な顔で笑う。
「殺せるか? お前、震えてるぞ」
レイはソラの愛刀を握る手を指差した。ソラは舌打ちする。
「これは癖なんだ。お前ぐらい斬り殺せるさ、なれてるもんでね」
フッと笑ったソラは本当に慣れているのか、怯えと恐怖と共に殺意を沸き立たせる。
殺意を感じ取ったレイはそれ以上近づかない。きっとここから一歩でもソラの範囲へ踏み込めば、本気で斬りかかってくるだろうと思ったからだ。
「ずいぶん酷い人生を送っているようだな。それはそんなにつらいか?」
「お前に、わかるもんか……ッ」
ソラは実に憎々しげな視線をレイへ向けた。それは初めてグライトと会ったあの日の目とそっくりだ。光を失いかけたソラの瞳、踏み込めばきっとソラは殺しにかかるだろう。レイは冷静にそう考える。
「なにもしない。じゃあな」
レイはその場を立ち去る。振り返らなかった。
ソラはそんなレイがこの場からいなくなるまでずっと刀を構えていた。弱さを見せまいと意地を張るソラ、レイがいなくなり、ほっと一息ついた。そんな彼女にまたも後ろから声がかかる。
レイがこちらへ戻ってきたのかと刀を振りあげた。
鉄の擦れる音が小さく響く。そこにいたのは驚いた顔のグライトだった。グライトは自分の折れた木刀を青く光らせてソラの刀を受け止めていた。
「なんだ……グライトか」
「び、びっくりするだろ! なんでそんな気が立ってるの?」
グライトは驚きのあまり後ろへ倒れる。なだれ込むようにソラも上へと倒れた。
「いったた……ちょ、ソラ、危ない、刃物危ない! 俺の頸筋おもっきり血でてる」
「わ、わるい……あいつが戻ってきたのかと」
そう言ったソラは起き上がろうと体を起こすが、運悪く船がガタンと揺れた。座り込んだグライトに再びソラは雪崩れる。グライトは慌ててそのソラを受け止めた。
「大丈夫?」
グライトがそう尋ねるとソラは黙って頷く。そしてなんだか恨みがましく見上げてくる。
なにか悪い事でもしたのかそう思ったグライトだが、生憎心当たりは無く、しばらく沈黙が続いた。
「ま、まぁ大丈夫だよね……ね? 立てる?」
グライトは取り繕ったような笑顔でソラを起こそうと肩に手をやる。グライトが肩に置いた手を払ったソラだが、まだ立ちあがらない。どうしたのか、まさか捻挫でもしたのかとソラの足を見るがそうではないらしい。
グライトは困った。ソラが立ち上がらなければ自分も起き上がれないからか、それとも態勢的な問題からだろうか、それは掴めないがとにかく起き上がりたい。
勇を鼓してグライトはもう一度ソラに呼びかけてみた。
「ソラ……本当に大丈夫?」
ソラはグライトの顔を黙って見上げている。それから苦々しく答えた。
「……力が入らない」
「え」グライトはそんな声を上げた。力が入らない、と言う事は腰が抜けたのか。それなら確かに立てない。困ったな、このままグライトが立ちあがるとソラは前のめりに倒れてしまうだろう。グライトはそう思い、眉をハの字にしてソラを見る。
そこへドタドタと荒々しい足音が聞こえたのは数秒後の事だ。
「ちょ、ちょっと!! ソラ、グライト! 何してるの!?」
やってきたのはユーノだ。ユーノは慌てた様子で、顔を真っ赤にして二人に駆け寄る。
「どう言う状況? ねえ、なんで見つめあってたの? 何の話をしてたの?」
どうやらユーノはとんでもない勘違いをしているらしい。
グライトは弁解しようと声を発するが、そんなものユーノの耳に届いているわけもなく……ユーノは一人百面相をしていた。
そんなユーノにソラの声が静かに響く。ユーノはぱっとソラの方へ顔を向けた。
「勘違いするな。ちょっと力が入らなくて……で、さっきの揺れはなんだ?」
冷静な声はユーノの頭を冷やしたのか、ユーノは「そうだ」と手を打つ。
「グライトの言ってた島、ヒストリア島だっけ? その島に着いたから知らせにきたんだよ。どう言うわけか、後で聞くからとりあえず皆の所行こ!」
ユーノはそう言ってパタパタと走って行く。
後でユーノの質問が弾丸のように飛び交うかと思うと、グライトは気が遠くなった。
ソラも同じだったらしく遠い目をしている。
「もう大丈夫?」
「うん、悪かった。迷惑かけて……あと首、大丈夫か? 落ちてない?」
「なんとかね……とりあえず行こうか」
二人はげんなりしつつも立ちあがり、皆の元へと走って行った。