複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.236 )
日時: 2014/05/04 21:44
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: CbmxSfx3)

第二十六話 幻の島ヒストリア島

 先ほどからグライトとソラはユーノに睨まれていた。きっと船上での事が気にかかっているのだろう。

グライトとソラがいくら見つめ合っていたわけでも、込み入った話をしていたわけでもないと説明してもユーノは納得しなかった。
グライトはそんなユーノの鋭い視線を感じながら太陽に目を向けていた。キラキラと輝く大きな丸い物はどうも普段より近くに感じる。島とはこういうものなのか、そう思い感動していた。
船から準備を済ませて降りてきたレイはそんなグライトの思いを察してか否か、ほほ笑む。

「ここがヒストリア島だ。かつてここら一体が全部島だったんだが、黒雲がで出来た頃ちょうど99%が海の藻屑となった。藻屑って言ってもこの下にはまだ都市部や何やらが沈んでいるらしいが……あたしはみたことない」

レイがそう説明して歩きだした。

「何処へ行くの?」

グライトはレイに駆け寄り尋ねた。レイは得意気に笑って「村の長の元」と短く告げる。

レイに続いて歩いたのはグライト、ソラ、ユーノ、リュウだけだ。他の乗組員達はそれぞれ自由に動き回っている。
と言ってもあまり島の村の方へは行きたくないのか、船の回りをウロウロしたり、船を掃除したりしているだけだ。
なぜ皆はいかないのかとグライトは尋ねると、怯えるからと笑われた。そんなものなのかと疑問に思ったが、何も言わずグライトはレイに続いた。



 島をしばらく歩くとこの島がどれだけ小さいのかと思い知る。
なぜならどこまで歩いてもレイ達の乗っている大きな船は見える。この様子じゃあきっと村人にも見えているだろう。
島全体は基本的に大きな建物は無く、どことなく故郷を思わせる。どうやらこの島全体が村になっているようだ。

「ここだ」

そう言ってレイは指を差した。前方にはこぢんまりとした家々がある。その中に一際大きな家があった。
あれかと尋ねるとレイは頷く。どうやらあそこに村長がいるらしい。どんな人だろうかとグライトは少し胸躍らせた。



 大きな家の扉を開けるとパタパタと走ってくる足音が聞こえた。グライトが覗きこむとそこには小さな男の子がいる。柱から顔をのぞかせ、こちらを探っているような顔だ。

「お邪魔するぞ、あたしの名はレイ・セルディアス。この村の小さな少年に昔助けられた。その恩を返しに来たんだ。少年、ここの村長は?」

レイが堂々とそれを告げると、少年はビクリと肩を震わせる。

「……が村長です……」

間もなくしてか細く響く声が聞こえた。どうも聞き取れない。しかめっ面をするレイに、少年はもう一度大きな声で告げる。

「僕が村長です……!」

そして恐る恐ると言った様子でこちらへ歩いてきた。

「え」

言葉を聞いたグライト達は単純に驚いた。
この小さな体躯の少年が、気弱そうな彼が村長だなんて誰が思うだろうか? 彼には村をまとめるような器量は残念ながら見当たらない。
そんな思いを察してか縮こまる少年。また探るような視線を向けて名乗る。

「僕はアルネイル・グランツァー。ようこそヒストリア島へ」

少年はアルネイルと言うらしい。
そこでふとレイも驚いていた事にグライトは気付く。

「レイさんは彼の事、知っているんじゃなかったの?」

尋ねるとレイは「まさかこんな小さいとは」と空言の様に呟いた。
そう言う事かとグライトは納得して再びアルネイルに向き直る。自分より年下の彼に戸惑いを隠さずもこの島へ来た訳を告げた。