複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.243 )
日時: 2014/05/14 19:51
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: CzWb5kfF)



 森の奥へ進むたびに嫌な予感がふつふつとたまって行くような気がする。気のせいかもしれないが、グライトは見をこわばらせて歩いている。
チラリと横目に三人を見るとそれぞれ不安を感じているようで……四人は自然と無口になって行った。

森の奥、丁度開けたところに原因はあった。

「洞窟……?」

そう、渦が巻くような黒い洞窟。よくよく覗き込んでみると何かがそこに居る。
グライトが洞窟に近づく。
それにならってリュウやソラ、ユーノ、アルネイルも遅れながらも続く。

刹那——

グギャアアアァァァ

そんな雄叫びがグライト達の鼓膜を刺激するように辺り一帯に響く。
思わず腰を抜かしてグライトは後ろへへたりこむ。リュウ達は耳をおさえて目を白黒させていた。

「……ねぇ、こんな大きな声、村人が知らないわけないよ」

そう呟いたのはユーノだ。何だか久しぶりに彼女の声を聞くなァとグライトは思ったが、今はそれどころでは無い。
ユーノはさっとグライトに駆け寄り、手を伸ばして引き上げつつも顔は苦い。
そこで一番後ろに立っていたアルネイルはユーノの言葉を聞き、弱気に答えた。

「でも、村の人に最近おかしな声を聞かないかって聞いた時、知らないって……」

どう言う事だろうか? 村人が怖がるアルネイルをかばって嘘をついているとも思わない。というか、嘘をついているならすぐわかるだろう。
首を傾げるリュウとソラ。
「とりあえず」とグライトは洞窟の奥を覗き込んだ。

視界に入ったそれはおおよそこの禍々しい洞窟とは似つかない純白で、大きな体、大きな翼、鋭い牙と爪を持った歴史の裏の怪物——その巨体は一言に美しい。暗い洞窟の中でも十分に存在感を放っていた。
グライトはその怪物を見たとたんあんぐりと口を開けて呟いた。

「白竜族……」

リュウ達はその言葉に心当たりがないらしく、首を傾げている。
そんな三人を非難するわけでもなく、ただ単純に驚いた顔でグライトは説明した。

「……しらないの? 影ノ皇を崇拝していた黒竜族を倒した幻の使者。今はその姿は天空の大地へと誘われたらしい……けど、なんでこんな所で? それも……あ!!」

グライトはそこまで言って険しい顔になる。
白い巨体から流れる赤黒い液体に気付いたからだ。
グライトは駆け寄る。そしてその傷の具合を見て少し安堵の表情を見せた。
いきなり駆けだしたグライトを気遣うようにリュウは呼びかけた。もしかしたらあの竜は気が立っているかも知れないと言うのに、無防備なグライトを心配して後ろから近寄る。いつでも飛び出せる態勢だ。
だが案外白竜は大人しく、静かな瞳でグライトとリュウを見下ろすだけだった。
リュウはグライトを見る。グライトは食い入るように白竜を見ている。

「どうしたんだよ」
「怪我してるんだ。浅いけど、はっきりした切り口……何者かにやられた証拠。でも治癒能力が高いのか、もう治りかけてる。大丈夫だと思うけど……」

グライトはそう言って心配そうに白竜を見上げた。

「白竜様、言葉はお持ちでしょうか?」

グライトの言葉はいつものゆるい雰囲気は無く、恭しい敬意が込められている。
問いかけられた白竜はグライトの言葉を理解したのか、静かに目を閉じ、その白い体を発光させる。
次に見えたのは白いロングコートに黒いマフラーをつけた大きな羽を持つ少女だった。

「初めまして、レイラ・ローレラムと申します」

透き通っているようなよく響く声が洞窟に流れる。
遅れて入ってきたユーノ、ソラ、アルネイルはその少女の姿に驚く。当たり前だろう、グライトの隣に立っていたリュウだって唖然と少女、レイラを眺めていた。
それから数秒、一番初めに口を開いたのはアルネイルだ。

「え? ど、どうなって……?」

ビクビクとソラの後ろに隠れながら目をパチパチと瞬かせるアルネイルに、レイラは優しく微笑む。レイラの足からは血が流れていた。心なしか顔も青白い。
グライトは気遣うように視線を送る。レイラはそんなグライトにも微笑んだ。

「彼方の村に迷惑をかけてしまったみたいね……ごめんなさい」

レイラは続いてそう言った。そして頭を下げる。

「いや、そんな、滅相もない……!」

アルネイルは目に見えて焦っている。元々人と対話するのが苦手な彼だ、きっとグライトから聞かされた話しが頭をよぎって逆に申し訳ないと思ったのだろう。
慌てるアルネイルをソラは背中を叩く事により落ち着かせた。叩かれたアルネイルは背筋を伸ばしてしゃんとして見える。よほど驚いたのか、パクパクと口をさせて言葉を絞りだそうとしている様子がうかがえた。
そんなアルネイルを見て少し笑ったレイラ。

「え、ふぇ、えぇっと……! あ、ぼ、僕は、この島の村長をしているアルネイル・グランツァーと申します!」

やっと出てきた言葉を言い終えて視線を漂わせるアルネイル。緊張した面持ちでソラをちらりと見ている。ソラはしらんぷりだ。

「そう、村長さんなの……よく私の声が聞こえたね。私の本来の姿の時の声は人には聞こえないはずなのに……」

レイラは呟いて首を傾げる。よくみるとレイラの目は何故か赤くはれているような気がした。
グライトはそこで「あっ」と何かに気づいたように声を上げた。

「……もしかして、泣いていたの?」

グライトの言葉に肩を鳴らすレイラ。困ったような、恥ずかしがるような笑顔でグライトを見る。

「やっぱり、わかっちゃうか……ごめんなさい、その、少し哀しい事があって」

それ以上は口を開かない。代わりにあははと乾いた声で笑う。
何があったのか、気になりはするも踏み込んではならないような気がしたので四人は口を噤む。

「声を聞いてくれてありがとう、心配してくれてありがとう。之は私の問題だから詳しい事は話せないけど……迷惑をかけていたみたいだし、もうこの島を出て行く事にするわ。本当にごめんなさいね」

そう呟くように言ってレイラは洞窟の出口の方へ歩きだす。

「あ、まって!」

思わず止めたのはアルネイルだ。アルネイルは怪我を心配そうに見て穏やかに微笑んだ。

「怪我、治るまでここに居ても大丈夫だよ。なんなら、食べ物だって沢山あるから僕が持ってくるし……村の方へ行っては目立つからここでの生活になるけど、それでもいいなら」

そう言ってアルネイルはレイラを見る。レイラは困ったようにうろたえる。
アルネイルの言葉に後押しをつけたのはリュウだ。彼のお人好しな性格は種族を越えるらしい。

「そうだな、俺もそれが良いと思う。まぁ俺はこの村の人間じゃないから同行できないけどさ、怪我したまま出るのは危ない。ただでさえ魔物が増えているってのに……どれだけ幻だ最強だとはやし立てられた種族だって手負いじゃ話は変わってくるだろう?」

リュウは神妙にそう言って心配そうな視線をレイラに向ける。

なかなか折れないレイラに少しの説得が続いた。
迷惑になるからの一点張りで早々と引き上げようとするレイラ、このままでは危ないと言うアルネイルとリュウ。グライトとユーノ、ソラはリュウ達の言葉に深く頷いていた。
とうとう折れたレイラは「なら少しだけ」ともう少しここに留まるそうだ。
その答えに満足そうにアルネイルとリュウは笑顔を向けた。そしてリュウは疑問になっていた事を尋ねる。

「そうだ、なんで俺達には声が聞こえたのに、村人には聞こえないんだ?」

レイラはその質問に快く応じてくれた。

「私達白竜族は、魔力や霊力と呼ばれる能力が高い人間としか会話が交わせないの。だから村の人には聞こえないと思ったのよ。この地には強い力を感じるけど、村人からは感じなかったから。だからあなた達が私の声を聞いた時は驚いたわ。まさか、若い彼方達に私達白竜族と言葉を交わせるなんて、思いもよらなかったから」

そう言ったレイラは少し嬉しそうにほほ笑んだ。
四人は「ふうん」と納得して同時に驚いた。まさか白竜族がそんな種族だなんて思わなかったからだ。
レイラはそれから色々な話をしてくれた。そのほとんどは世間話だが、明るいレイラと話していると楽しい。
アルネイルはそんなレイラを憧れるような瞳で見ていた。内気な彼にとってレイラは理想なのだろう。
気付けば外はオレンジ色に染まっている。取りあえず食べ物を持ってくるため四人は洞窟から引き上げる事にした。