複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.252 )
- 日時: 2014/05/24 21:34
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: kOmP6qDh)
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森の奥へ続く道を再び歩いていたソラとアルネイル。会話はほとんどない。アルネイルは何故ソラが付いてきてくれると言ったのだろうか? そんな疑問を持って歩いていた。
「……なんだ? 言いたい事があるのか?」
そんなアルネイルの様子を察知してソラは口を開いた。唐突の会話にアルネイルが「え」と声を上げている。ソラはそんなアルネイルの戸惑いを感じ取り、彼が口を開くまで待つ事にした。
数秒後、アルネイルは口を開く。ソラは静かにアルネイルの言葉に耳を傾けた。
「その、ソラ……さんはなんで僕についてきてくれると言ったのか……きになりまして」
「何で敬語なんだ?」
「い、いや! その、えっと、ごめんなさい……」
頼りなさげに笑う隣を男に、ソラはチラリと視線をやった。どうもそれが怖かったらしく、アルネイルはもう一度謝る。
どうやらアルネイルはソラが苦手らしい。
ソラはそれには気付かず、ただ無言に歩いた。ソラの無言を怒りと取ったアルネイルはソラの顔色を窺うように少し覗き込む。
「あの、機嫌……悪くした?」
ごめんね、アルネイルがそう言おうとした時、ソラが今度は睨みつける様にアルネイルを見た。
アルネイルは鋭いソラの目に耐えきれず、俯く。それから怒られると思って眉をハの字にした。
「何故謝るんだ? 俺がなにか悪いことしたのか?」
だがソラから聞こえてきた言葉はただ純粋な疑問だった。
あまりにも純粋な声色にアルネイルは思わずソラを見る。黒いフードを深くかぶったソラの雰囲気は、一瞬和かい物になった気がした。
アルネイルは「だって」と再び口を開く。
「僕の質問に機嫌悪くしたみたいだったから……」
そう言ったアルネイルは困惑ばかりだ。ソラが何を考えているのか、全くわからないと言った様子が見て取れる。
「いつ、俺がそんな事言った? 別に、機嫌悪くないし……」
拗ねたように答えたソラ。むすっとして視線を合わせない。
ソラの答えにアルネイルは「ふぇ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「なんで? だって見るたび不機嫌そうだったよ? 口数だって少ないし……」
「失礼な奴だな。それに、俺よりユーリの方が機嫌悪いし」
「えぇ? そうなの? ああいう子かと……」
「……はぁ……」
「ご、ごめん」
焦るアルネイルに呆れるソラ。それから一瞬、間が出来た。
二人はその間を居心地悪く感じたのか、心なしか歩くスピードを速めた。
洞窟の前まで来た二人。洞窟の中へ呼びかけるとレイラは姿を現す。相変わらず大きくて白い羽は美しく、月の光に反射して惹き立てられていた。
「ありがとう」
レイラはそう言って食べ物を受け取った。アルネイルは笑顔で渡す。
「お腹すいてるだろうと思っていっぱい持ってきたけど……いらなかったら置いといてくれたら明日朝、回収に来るよ。朝ご飯持って」
その言葉にレイラは柔和な笑みを浮かべた。それにつられてアルネイルも頬の筋肉がゆるむ。
「本当にありがとう。この恩は忘れないわ。いつか、必ず恩を返すから」
グライト君とリュウ君、ユーノちゃんにもよろしくね、と続けてレイラはまたにっこりほほ笑む。
綺麗な人だな、アルネイルはそう思って少しレイラに見惚れた。ソラはボケっとしているアルネイルの小脇を突いて先を促す。アルネイルは慌てて言葉を紡いだ。
「今日はつかれているだろうから、僕達はもう帰るね。おやすみなさい、レイラさん」
「ええ、おやすみ。いい夢を」
レイラと短いやり取りを終え、二人は帰路に就く。先ほど来た道は一本道なので迷う事もないだろう。
レイラは二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。二人もそんなレイラに手を振り返しつつ、引き返して行った。
帰宅途中、また無言が続いた。
だがアルネイルは行きほど息苦しくは感じなかった。きっとソラの気持ちが少しだけ聞けたからだろう。
「あの、ソラさん」
「ソラでいい」
間髪いれず答えたソラ。アルネイルは少し笑って「じゃあ」と続ける。
「……ソラ、その、本当にごめん。それから付いてきてくれてありがとう。ほんとは一人だと暗い森は怖かったんだ」
「……そう。別にいい。勝手についてきただけだから」
そう言うソラを見てつい笑い声を上げるアルネイル。ソラに睨まれたが、今度は怖くない。
「ソラって意外と優しいね」
「意外ってなんだ。心外だ。失礼な奴」
フンと鼻を鳴らしてそっぽを向くソラ。アルネイルはやっとソラの性格がわかった、気がした。
そこでふと思い浮かんだ。一度しか声を発しなかったユーリの事だ。ソラと何か喧嘩でもしたのだろうかと疑問に思う。
喧嘩はだめだ、自分に何かできる事はあるのだろうかと少し親しくなったソラに気軽に問う。
「そう言えばなんでユーリちゃんは機嫌が悪いの?」
首を傾げるアルネイルにソラは「あぁ」と呟いて船の上での出来事を掻い摘んで話した。
アルネイルはそれを興味深そうに聞いていた。そして目を大きく見開く。
「ユーリちゃんってグライト君の事好きだったんだ……気付かなかったなぁっていうか、ソラって女の子だったの!?」
驚きの声を上げ、まじまじとソラを見るアルネイル。驚くのも無理はない。ソラの見た目は完全に男の子、口調も荒い。
アルネイルは改めてソラをまじまじと見た。よく見れば確かに男より肩幅が狭い、体も薄い気がすると勝手に思う。
そんな視線を居心地悪く感じたソラは話を戻した。
「俺の性別なんてどうでもいいだろ。それより、ユーリとグライトが仲直りしてくれたかどうかが問題だ」
心配そうに村に視線を落とすソラ。そんなソラを元気づけるようアルネイルは励ましの声をかける。
「きっと二人は仲直りしてるはずだよ。もしかして、僕についてきてくれたのも二人が関係してたりするの?」
「まぁ……」
言葉を濁すソラ。彼女なりの気遣いだったのだろう。アルネイルはそれを汲みとり、笑顔になる。
「じゃあ大丈夫。ソラが気を使ってくれたんだから、どちらかはその意図に気付くよ。僕はそう思うなぁ」
根拠はないけど、そう言ってあははと笑うアルネイル。
ソラはそんなアルネイルの言葉を聞いて少し心が軽くなったのか、少し口角を上げると、軽快に歩きだした。まもなくしてアルネイルの家の扉の前までたどり着く。
アルネイルは扉を開けてソラを促す。
「ただいま」
二人の言葉が重なった。
「おかえり!」
奥の方から四人の言葉が重なった出迎えの声が聞こえた。
それとともに部屋中に充満するとても美味しそうな匂いにソラとアルネイルの腹が悲鳴を上げる。
ソラとアルネイルはそれを聞き、二人して笑って足早にリビングへと向かった。
机の上に広がっていた豪華な料理の数々、元々無かった素材も使われている。ふと顔を上げるとレイがにやっと笑った。彼女が持ってきてくれたのかとアルネイルは考え、礼を言った。
レイはもうすでに酒が入っているらしく、顔を赤くしながら豪快に笑った。
そんな室内をソラはさりげなく視線を這わせる。ソラの視線の先にうつったのはすっかり元通りになったユーリとグライトの姿。(あぁ、よかった……)ソラは黒いフードの奥で密かに笑った。そう言えば最近笑う事が多くなった気がする。ソラは自分の心の変化に驚いた。