複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.255 )
- 日時: 2014/05/25 21:35
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: kOmP6qDh)
第二十七話 いざ行かん、戦争の地へ
戦場、人々の悲鳴が飛び交い、命乞いが聞こえ、まるでそれは地獄絵図。
力を持った軍人たちはその間を駆け周り、あたかも声が聞こえないかのように人々を切り刻む。
売れそうな女や男は捕虜にされ、逃げ出そうとすれば即殺される。物騒、そんな言葉がぴったり当てはまった。
今戦場となっているのは、ゴンドラ大陸東の小さな村が少しある野原。野原と言っても現在は荒野に近い。何も無くなったそこに軍人たちは穴を掘り、自分たちを守る壁を作る。
中央では歩兵が特攻しているのが見えた。なんだかやけくその様な顔で敵地へ飛び込んでくる歩兵たちは滑稽に見える。
そんな戦地のさなか、黒い霧が一帯を覆った。
兵士はその霧にいち早く気付き、自分の陣地へ戻ろうと慌て出す。黒い霧は敵味方関係無く兵士を自分の領域へと引き摺りこんだ。
哀れな兵士は悲鳴を上げる間もなく姿を消した。それを見ていた兵士たちはなおのこと慌てて動き出すのだ。
この謎の黒い霧の正体——それはクウゴ・O・デスサイズと言う死神の大鎌。
彼の領域、黒い霧の中は何があるのか誰も予想ができない。
クウゴは黒い霧の中央に居る。
真っ暗な霧に囲まれて前も後ろも横も上も下もわからないはずだが、なぜか彼は道があるかのように悠々飛び回るのだ。
そして引き込んだ兵士を視界の端に捕えるたび、嫌そうな顔をして大鎌を振り下ろす。兵士はそのまま崩れ落ちた。死んではいない。ただ、呆けたような顔で涙を流すのだ。
大鎌はすぐに消える、霧に溶ける様に姿を消すのだ。身軽になったクウゴは再び飛ぶ。導かれるようにその行為を繰り返すうちに、美しい音色が彼の耳に届く。
「……ミキ? なんで……?」
小さく呟くように発せられた声は音色の中央へと伝わった。音色がパタリとやむ。
「あぁ、クウゴさん、やっと見つけた。姿は見えませんが、そこに居るんですよね?」
ミキの声は音の無い黒い霧の中でよく通る。クウゴは短く返事をした。
「あの、僕の前に姿を現して、目的を教えてもらえないでしょうか? 僕を呼んだ貴方の声はどうもいつもの様子とは360°ほど違ったんですけど、それとも僕の思い過ごしでしょうか?」
優しいミキの声にクウゴは唇をかむ。何故彼が此処に居るのか甚だ疑問だが、姿を見せないわけにもいかない。
悩んだ挙句、間を置いてクウゴは姿を現した。最後に見たクウゴの姿形のままでミキはほっとする。
クウゴは黒々とした細い垂れ目をさらに細めてミキの前に立つ。その顔は申し訳なさそうに歪められている。
「……ごめん」
クウゴから発せられた言葉はいつもの快活な感じは無く、細々とした何とも頼りない声で響き渡った。先ほどまで兵士を切り倒していた姿からは想像もできない。
「呼んだつもりは無かった。巻き込むつもりも無かった。これは俺の仕事だから、危ないし、ミキ達人から見たら無意味な行為に見えるだろうけど、俺にとっちゃ大事な事。こんな所まで飛ばして……本当に申し訳ないと思っている」
クウゴは真面目腐ってそう言った。クウゴの様子にミキはため息を吐きだす。
ミキは何故自分がこの黒い霧の中に居るのか、やはりわからなかったが何だか悩んでいる様子のクウゴを見て放っておけなくなった。
「別に気にしてません。僕だってそれなりに戦える、どうやってここまで飛んできたのかは想像もつかないんですが……とりあえず貴方は助けを求めている、僕に。そう言う事でいいですよね?」
有無を言わさない、威圧感の様な物があった。あぁ、怒っているのかな、そう思ったクウゴはもう一度頭を下げて謝った。
「そこまで謝るのなら、お詫びをしてもらいます。簡単な事ですよ、貴方は何故僕に助けを求めたのか、包み隠さず白状していただくだけで結構です。……あまり謝らないでください、別に怒ってませんから。友人として貴方の話を聞きに来ただけですし」
優しく微笑むミキ、「心配したんですよ」と小さい声で呟いてクウゴを見る。
クウゴは困ったように笑った。いつものゆるい雰囲気に戻ったクウゴを見て、ミキは二度目の安心を感じた。
「これ終わってから話すから、それまでちょっと待っててくれねぇか? あぁ、大丈夫。俺のテリトリーに居る間は誰も襲っちゃこねぇから安心してくれ。ここで自由に動けるのは俺だけだ。ミキはそこに立っているだけでいい、すぐ終わらせる。あそうそう、むやみに足を動かすと抜けられなくなるから、そこんとこよろしくっ!」
元気よくそう言ったクウゴはまた黒い霧に消えた。
ミキは「はい」と返事をして暇つぶしにフルートを吹く。綺麗な音色は黒い闇でもよく響き、クウゴに斬られて呆けていた兵士たちの心に強く響いた。ミキはおいおいと泣きだす兵士たちの声を聞きつつ「このフルートの音で心を埋められるのなら」と和かい、温かい音色を吹き続ける。
それはクウゴの耳にもしっかり聴こえた。クウゴはさっきとは打って変わって元気よく仕事を再開する。悪意を斬る事はそう簡単なものではないのだが、クウゴにかかれば朝飯前の事だった。