複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.264 )
- 日時: 2014/06/02 20:05
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uSm8EB/f)
第二十八話 放浪の末
ゴンドラ大陸に降り立ったグライト達は自分達の無計画さに腹を立てた。
このゴンドラ大陸、広いし国なんて沢山あるだろうと軽く思っていたのだが、ほとんどの国はドラファー帝国とパルメキア王国の戦争によって破壊しつくされていた。
何とも言えない地獄絵図が永遠と続いている。
グライト達はその景色を見ながら、自分達の無力さを思い知らされていた。
世界はこんなにも広かった。
自分達の想像なんて及ばないぐらいにこの大陸は悲惨な状況に置かれている。
何かできないか、ただ、ここで一人を助ければ後に続く沢山の人間を助けなければならなくなる。それは自分達には手に負えない。
だからどれだけ苦しんでいる人がいても手は差し出せない。
自分達は無力だ。見捨てることしかできないのか?
歩けば歩くほど感じるとてつもない圧迫感。ピリピリと肌に感じる緊張感。
歩きながらこの大陸で見てきた人たちは皆グライト達を敵か味方かでしか判断しなかった。
話しかければ刃物を向けられ、この大陸がどうなっているのか聞こうにも聞ける状況では無かった。
国は今や廃れて大きな門でさえ崩れている。どうにでもなれと言う諦めの光しか宿さない人達。
そんな人達を見るたび、グライト達は心を痛めた。
何日歩いただろうか、もう海は見えない。
「ここどこらへんか、地図でわかるかな?」
グライトがそう呟いてリュックから地図を取りだす。広げてみると、周りで歩いていたリュウやユーノ、ソラも覗きこんだ。
だが大まかな地図では正確な現在地はわからなかった。
真っ直ぐ行けば国がある。そう信じて歩いてきたのだが……グライトはため息をぐっと飲み込んで再び歩いた。
もう歩く力が出てこない。
そう思い始めて何時間たっただろうか。グライトはそれでも気遣うようにリュウ達に視線を置くる。
リュウ達はそれぞれままならない足取りだったが、しっかり軸をぶらさずグライトの後に続いていた。
グライトはふとそこで一瞬気を抜いてしまった。ふらりと揺れる視界。膝から力が抜けて立っていられない。グライトは宙に浮かぶようにゆっくり、意識を手放しかける。
「おい! グライト! しっかりしろ!! おい!!」
グライトはフワフワする頭の中、リュウの声が響いた。苦々しく眉根にしわを寄せるグライト。そんなグライトを覗きこむようにソラとユーノも立っている。
グライトはリュウに支えられていたみたいだ。
「ごめん、ちょっと力抜けた」
ハハ、と乾いた笑い声を上げグライトは自力で立とうと足に力を入れる。
「しかたねぇよ、俺ら何日歩いてるかわかったもんじゃねぇからな。そのうえ気の狂った人達に襲われたりしたんだ。……ほんと、しかたねぇよ……」
グライトに続いてリュウも弱々しく笑った。
そんなリュウとグライトの様子を見かねてユーノが口を開く。
「どうする? このまま歩き続けても仕方ないよ。安全な場所は無いけど……」
ユーノの言葉にリュウとグライト、ソラは顔をしかめる。
どうする? どうする、と話し始めたグライト達。その場に座り込み、無い知恵を絞っている。
すると、一人の人影がグライト達に近づいてきた。
「おい」
無愛想にそう発せられた言葉、グライト達は一斉に振り返る。
そこにたっていたのは帰り血に染まった黒いコートを着た男だ。幅の広い剣を軽々と持っている姿を見てグライト達は一斉に警戒する。
「おいおい、そう警戒すんじゃねぇよ。俺はシリウス、まぁ別に覚えなくてもいい。お前達困ってるんだろう?」
シリウスと名乗った男は剣を背中に仕舞い、両手を上げて近づいてくる。
グライト達はまだ警戒を解かなかったが、その男の様子を見て話しはできるみたいだと少し安心し、武器を下ろした。
シリウスの前に立ったのはリュウだった。
年下のグライト達をかばうように前に踏み出たリュウは、シリウスの言葉を継ぐ。
「困ってる、ここら辺に国とか無いのか? 安全な場所とか……」
そう言うとシリウスはうーんと気軽に考えて一つ思い当たったのか手を叩く。
「この先に旧エルヘラ国領って言う今は滅びた国が一個あったぜ。辛気臭くてきな臭いけど休憩する所ぐらい貸してもらえるだろう。俺についてこい。連れてってやる」
そう言って歩き出したシリウス。
優しげな言葉をかける彼だが、どうも信用が置けないのは、きっと彼の返り血の浴びた黒いコートのせいだろう。
黒いコート、グライトは一瞬クウゴを思い浮かべる。
彼も最初助けてくれた、面倒そうな物言いだったがいい人だった。
そう思い、グライトはこのシリウスと言う男を信用してみようと言う気になった。
それにこのさいなんだかんだ言っていられないことも確かだ。疲労困憊した体を引き摺るようにシリウスの後に続く。
それにならって躊躇していたリュウやユーノ、ソラも後に続いた。