複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.270 )
日時: 2014/06/05 20:58
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: EpPczols)



 シリウスに連れられてやってきた旧エルヘラ国領と言う場所は、戦争の被害を最も受けている国だ。
ドラファー帝国がここを侵略したらしい。エルヘラの国民は徹底抵抗を行ったが、圧倒的な力の差で今や地獄絵図そのものの様な場所になってしまった。
ここに住んでいたエルフ族はドラファー帝国に強制的に厳しい労働を強いられたり、奴隷として各国へ売られたりしている。

シリウスはそんな話を淡々としながらグライト達を安全な宿へと案内した。
少しほこり臭い木造の宿に上がったグライト達はそれぞれ部屋へ入り、死んだように眠った。
シリウスはそんなグライト達を見てから表へと足を動かした。


 すっかり寝こけていたグライト達が目を覚ますと日は暮れかけていた。今日はここに泊まる事になりそうだ。
この宿でしっかりした計画を練ろうと思ったグライトとリュウはゴンドラ大陸の地図を手に入れようと外へ出た。ユーノとソラはまだ寝ている。
外へとつながる扉を開けるとシリウスが軽い様子で挨拶をしてきた。グライトとリュウはシリウスに丁寧に礼を告げ、地図が手に入る所は無いかと尋ねる。

「うーん……この大陸今ぐちゃぐちゃだから、地図なんて役に立たないと思うな。……あぁ、そうだ。コンパスでも買ったらどうだ? 正確なコンパスが売ってある場所なら知っている。連れてってやるよ」

シリウスはそう言って歩きだす。グライトとリュウはそれに従った。


 しばらく歩くと市場の様な所が出てきた。食べ物や衣類、生活必需品などが売られている。ここは人が多かった。
シリウスは人だかりをかき分けながらどんどん奥へ進んで行く。グライトとリュウは狭いこの道でどうやったら人にぶつからずにあんなに早く歩けるのかと疑問を持った。

必死でついて行く事数分。

シリウスは一つの小さな店の前で立ち止まる。

「ここだ。ここの店長は信頼が置ける」

そう言って乱暴に扉を開ける。奥に居た眼鏡をかけた老人はシリウスの姿を捕えるなり軽い挨拶をよこした。

「コンパス、コンパス……あ、地図もあるぞ」

シリウスは手早くそれらを集めるとグライトとリュウに手渡す。

「じいさん、これ買うから。おい、お前等金を出せ。いくら持ってる?」

シリウスはそう言ってグライトとリュウに指示を出した。二人は慌ててポケットを探る。
ポケットに押し込んでいたなけなしの金を二人は手に広げて、眉根を下げた。

「こんなけしかない……これじゃ買えないよねぇ?」
「はは、お前ら貧乏旅してるなァ。まぁいけるだろ、それ全部よこせ」

シリウスはグライトとリュウの手に乗っていた数枚のコインを持って奥へ行く。
なにやら話し込んでいる様子だ。
それをみてグライトは心配そうな視線をリュウに送る。リュウも同じような表情をしていた。

「リュウ、大丈夫だと思う?」
「いいや、あんな少ない金じゃあ何ともならないと思うけど……」

慰め程度の会話をしていると、シリウスはご機嫌で戻ってきた。

「買えたぞ。大事にしろよ、コンパスと地図は必須だからなァ」

そう言って袋に入ったそれを手渡すと元気よく奥の眼鏡の爺さんに挨拶を済ませ、店を出た。
あの情け程度の金でこれを買ったと言うのか、二人は顔を見合わせ目を丸くする。

「……どんな交渉技術を習得したらあんな風になれるのかなァ?」
「さぁ、俺には分からねぇ」

二人はひそひそとそんな言葉を交わし合った。
シリウスと言う人物は二人にとって不思議でたまらないと言った様子だ。
突然助けてくれて、宿まで紹介してくれた、その上安くて地図とコンパスを手に入れてくれた。もしかしたら過去に会った事があるか? そう考えたが、首を振る。そんなはずはない、彼はこの大陸で初めてみたのだからと思いなおし、首を捻った。