複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【7/20更新】 ( No.277 )
- 日時: 2014/07/20 16:44
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: no72hslI)
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倒れて来た女の人は「セレリー・クロクワーズ」と言うらしい。
目が覚めてグライト達を見るなり機敏な動きで距離を取った。そして「何者だ」と敵意を剥きだして聞かれてグライト達は扱いに困ったが、自分達の事を話した。
一先ず信頼してくれたのか、セレリーは再び近くまで来て小さく腰をかけた。
ずっと面倒を見ていたユーノが大丈夫かと尋ねると小さく頷いた。
落ち着いたセレリーに、恐る恐るグライトが歩み寄る。
「どうしてこんな所に?」
セレリーは答えなかった。
そんなセレリーにシリウスは遠慮なく近づくとじっと彼女を見た。
「お前、奴隷だろう? 主人は居るのか?」
シリウスの言葉にセレリーはわかりやすく顔をしかめた。セレリーはそのまま背負っていたハルバードを取り出し、尖った先をシリウスの頸へと当てる。
シリウスは驚かなかった。代わりに再び口を開く。
「逃げてきたのか?」
セレリーは低いうなり声を上げ、ハルバードを横へと勢い良くふるう。
グライト達はそれを唖然とした表情で見ていた。
グライト達が見る限りセレリーのハルバードはしっかりシリウスの頸を斬り裂いた、だがシリウスは傷一つない姿で立っていた。
あの一瞬で避けたのか? シリウスの戦闘能力をまだ知らないグライト達はそう思い、二人の成り行きを見守った。
「……逃げてきた、と言ったらどうする?」
セレリーは口を開いた。静かな声だ。それにこたえるようシリウスも口を開く。
「別にどうもしない。確かめているだけだ。そうかっかするな」
二人の間にしばらく緊張が流れた。
グライトはあまり大事にならないうちに止めようと思ったが、そんな事はしなくてもよさそうだ。
なぜならシリウスから殺気が感じ取れなかったから。攻撃されてもなお武器も抜かないシリウスを見て、妙な安心感がよぎる。
セレリーはまだシリウスを睨みつけるように見ていたが、武器をしまった。そうして再び座りなおし、うなだれる。
「私は……エルヘラ国の国民だった。名前はさっきも言ったが、セレリー・クロクワーズ。現在はドラファー帝国の皇城で奴隷をしている。だが、逃げ出してきた……」
セレリーはフンと言ってまた黙ってしまったが、それだけでも十分な情報だったので質問はしない。
それから今度はセレリーがグライト達に質問した。
「……お前達はどこに向かってる?」
「エターナル王国だけど」
そう答えたグライトに目を大きく見開いてセレリーは詰め寄る。焦っているみたいだった。
「あそこはいくなッ!」
セレリーの力強い言葉に、グライト達はたじろいだ。平和と愛の国、なのにセレリーを見ている限りそうは思えない。
なにがあるのだろうかと思い、どうしてなんだと尋ねて言葉を待つ。
セレリーは力無く座り、体を震えさせる。
「危険だ……エターナル王国はドラファー帝国と手を組んでいる。どういう意味かわかるか?」
「わからない」
「……奴隷売買が行われていると言う事だ。お前たちみたいなよそ者、誰が狙ってくるかわからない」
「でもエターナル王国は愛と平和の国だって……ドラファー帝国と手を組んでいるとしても国民性は変わらないんじゃ?」
「生物なんてすぐ変わる。油断しているととんでもない事になる」
セレリーはそう言って俯いた。
「昔はこうじゃ無かったのに……」
弱々しく、悔しそうにそう言ったセレリー。
グライトはリュウ達にどうしようかと視線を送る。リュウ達は首を横に振るばかりだ。
困りきった四人にシリウスは助言を与えることにした。
「でも行く場所が無いんだろ? だったらやっぱりエターナル王国へ向かうしかないんじゃないか? グライト、お前も探し人がいるらしいじゃないか。もしかしたらエターナル王国に居るかもしれないだろう?」
それからセレリーに向き直る。
「セレリーとか言ったな? これから国に帰るんだろう? おまえはまず自分の事を優先に考えるべきだ。俺が送って行こうか?」
セレリーは答えなかった。シリウスはため息を吐きだして頭を掻く。
「……まぁ日も沈んできてる事だし、今日はこの洞窟で寝るぞ。さっさと寝支度を始めろ。俺はちょっと安全を確認してくる」
シリウスはそのまま日が沈みかけた森へと消えた。
グライト達はシリウスに言われた通り寝支度を始める。セレリーは項垂れて動かなかったが、グライトが声をかけると倒れる様に寝入る。
よっぽど疲れたらしい。
しばらくするとシリウスが戻ってきて安全を伝えた。グライト達はそれを聞き、少し安心して寝る事にした。