複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【7/20更新】 ( No.279 )
- 日時: 2014/07/20 16:57
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: no72hslI)
◆
再びセレリーに向き合ったソラ。もともとあまり口はうまくない。仂話しかければいいのか、グライトを引きとめたらよかったと今更後悔する。
「セレリー」
とりあえず名前を呼んでみる。セレリーは小さく振り返った後、ふと遠くを見た。
ソラは同じように視線を動かして、ぐっと生唾を飲み込んだ。
「俺と手を組まないか」
真剣な声でそう告げた。セレリーはうるんだ瞳でその理由を訴えてくる。
「奴隷制度を廃止したいんだ」
「これは革命だ、大犯罪だ」そう続けたソラ。セレリーは驚いて声も出ない。
革命? 奴隷制度廃止? 夢の様な言葉だ。手を組もう、そう言って真剣な顔で見てくるソラ……本気だろうか? そんな言葉が頭をめぐる。
たった二人で起こす革命、そんな夢物語が現実に敵うわけがないんだ。
ソラはそんなセレリーの雰囲気を感じ取って、だが続ける。
「俺は母親からの虐待の末奴隷商人に売り飛ばされた。今も女……大人の女が怖い。前に立たれたらどうも母親とダブって足が震えてくるんだ。でもグライト達と旅をしている間、色んな人に会っていろんな経験をして……色んな思想の人間と関わってきた」
セレリーはソラの横顔を眺める。心なしかキラキラとしているように見える。セレリーにはその経験の尊さはわからなかったが、ソラの様子を見ていると希望が見えるような気がした。だから話しを聞こうと何となく思い、静かに耳を傾けた。
「世界にはいろんな人がいるんだ。酷くて外道な人間だけじゃない。俺は主人から逃げてきた時、絶望していた。俺の見て来た人間はどれもこれも汚く醜い人だった。だから外に逃げてもどうせそんな人間しかいないと思っていた。でもグライトがいた。ミキもクウゴもユーノも皆優しくて……驚いたんだ、正直。あぁ、まだ腐って無い人がいるって思ったんだ」
むしろ、とセレリーを振り返るソラはいつに無く透き通るような瞳で、セレリーは羨ましく思った。
「自分の見ている世界はまだまだ狭いんだ。……だから、きっと理解してくれる人が沢山いるはずだ。奴隷制度なんて廃止した方がいいって豪語してくれる人がいるはず。だから、一緒に革命を起こそう。俺達が第一人者になるんだ。犯罪でも何でもいい。これはおかしい、そう言って何が悪いとおもわないか?」
ソラが手を出した。小さくて細い手だ。だがその手がセレリーにとってはとても頼りがいのあるたくましいものに見えた。
それに、奴隷制度を廃止すればゼルフへの復讐も叶う。ドラファー帝国は奴隷商売で成り立っているようなものだからだ。
「世界に、復讐だ……!」
セレリーはそう言ってソラの手を握り返した。それから誰にも見せなかった、あの頃で止まっている自分を振り切るように自然と満面の笑みを浮かべた。
◆
朝、グライトは目を覚ますとリーブルがまた消えている事に気付く。他の皆は起きただろうか? そう思い、あたりを見渡す。どうやら自分が最後らしい。慌てて眠気を振り切り、洞窟の外へと出た。
「おはよーグライト! 遅かったなァ!」
まず手を振ってきたのはリュウだった。グライトは苦く笑って手を振り返した。
次に挨拶をしてきたのはユーノだ。軽く走って二人に近づき、キョロキョロとあたりを見渡す。
「あれ、ソラとセレリーさんとシリウスさんは?」
ユーノに尋ねるとユーノはちょっと苦い笑いで応えてくれた。
「あのね、シリウスさんは朝早くからセレリーさんとソラを旧エルヘラへ送って行ったの」
「え? ソラも?」
「……ソラはセレリーさんと手を組んだって朝から突然言い出して、そのままセレリーさんと一緒に行っちゃった。グライトが起きるまで待たないのって聞いたらごめんって……」
おどおどとそう言ったユーノはまだ事実を呑みこめてないらしい。
グライトはリュウを見た。リュウも困ったように笑うだけだった。
「ありがとうって言ってたよ、ソラ。なんかやっと目的が出来たんだって。ソラは……」
言いかけてぽろぽろと涙を流しだしたユーノ。グライトはどうしたらいいのか分からずうろたえるばかりだ。
リュウもなんだか元気がない。自分のいない間に、そんな事が起きていたなんて思いもよらなかったが、ソラは自分の目的のために進みだした。
グライトは二人に笑いかける。
「よかった」
そう言うと心の底からほっとしている自分がいて、グライトは驚いた。
二人も驚いたらしく、グライトを見る。
「ね、よかったんだよ。喜ばなきゃ。だってソラがやっと自分のために動くようになったんだから。自分の意志で出て行ったのならそれを応援するのが俺達友達の役目だよ。」
ね? と言うグライトにユーノとリュウは納得したように笑った。ユーノは涙をぬぐっていつも通り笑う。
「それもそうだね! ボク達を助けてくれたんだから、今度はこっちが助けるべきだよね。自分勝手にソラを縛ってたらだめだもんね」
笑うユーノはまだ何処か寂しそうで、でもグライトは見て見ぬふりをし、とりあえず朝ご飯でも食べようと言う。
リュウがもうすぐシリウスが帰ってくるだろうと言っていたのでゆっくり旅支度を再び始めた。
リュウの言った通り、数分後にシリウスは帰ってきた。朝ご飯と言ってパンやら肉やらを買ってきてくれたらしい。グライト達はそれを胃にたらふく詰めた後、覚醒した頭で森を抜ける道につく。
もうすぐ外が見えてくる。
エターナル王国まで後わずか。すっかり元通りに戻ったユーノと話しながら特に危険も無くエターナル王国までたどり着いた。