複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.28 )
日時: 2014/01/27 22:46
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)



 グライトは眩しさにより目を瞑ってしまったようだ。恐る恐る開いた目には黒い一本の道がある。洞窟らしかった。ところどころ置かれている松明は、そこに人の手が加えられた気配を感じさせる。
グライトは一体何が起きたのか、自分でもわからなかった。肩を見ると黒猫がいない。

「リーブル……?」

心細そうに呟いたグライト。ここからどう動けばいいのか、同じ場所でうろうろとしていると、奥の曲がり角に人影を感じた。人影は二つの曲がり角のうち、右へと曲がる。

「人がいる! あの人に聞こーっと」

思い切って足を進めると、もう一つカサカサと言う何かが動く音がした。再び尻込みしてしまったグライト。大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かし、辺りを見渡しながら一歩一歩足を進めた。

 少し歩いて人が見えた曲がり角を曲がると、目の前にぽっかりと穴があいたような場所に出た。その奥に道が見えない。どうやらこれ以上進めそうになかった。

「確かにここに人がいたんだけどなぁ」

グライトはそう呟いて辺りを見渡す。
ものの見事にその影を隠した人間は、もしかしてあの黒猫の様な不思議な生物なのだろうか? そんな思考を巡らしている時、もう一つの音が近づいてくるのを感じた。
今度はなんだと振り返るがそこには何もいなかった。
そろそろ本気で寒気がしてきたグライトは元来た道を戻った。曲がり角はあの時二つあり、もしかしたら間違ったのかもしれないと思ったからだ。

 二つある曲がり角に再び出てきた。右へ曲がれば入口に、左へ曲がればまた違う場所に出るだろう。グライトは左に曲がった。

左の道を突き進んでいると、再び行き止まりに出てしまった。ここもぽっかりと穴のあいたような場所。グライトは周りを見渡した。

「おっかしいなぁ〜ここまで来るのに他に曲がり角とかなかったよね?」

一人でそう言い、後ろを振り返る。確かに松明の照らす道は分岐していない。正面に向き直り、壁の方へ歩いて行った。何となく壁を触っていると、後ろからカサカサと言う音が再び聞こえる。ぎょっとして振り返るとそこには黒い、虫の様な、目の沢山ある魔物が一匹入り口をふさぐように立っている。

「なんだ、一匹か。なら逃げれるかぁ」

グライトは不気味な足音が小さな魔物だった事に、心底ほっとしてその魔物へ近づいた。だがその考えは早々打ち消されることになる。

「魔物さん、ちょっと道開けて〜? 俺こっから出なきゃなんないんだよね。今村が大変なことになってさぁ」

グライトは気軽に手を伸ばす、そして気付く。その一匹の魔物の後ろに何十匹と言う同じ形をした魔物がいることに。
グライトはさっと顔色を青くし、静かに後ろに数歩下がった。

背中が壁にぶつかった時、瞬きをした。先ほど見たより数が増えているような気がする、そんな思いを打ち消すように目を瞑り、再び開いた。
次に見た魔物の数は二十は超えるだあろう数になり、皆がグライトを敵と認識したのか威嚇している。

グライトは泣きだしたくなったが、ぐっとこらえてとりあえず通り道が無いか壁を探った。

「助けて助けて! 怖い! もう誰でもいいから! 俺丸腰なんだよぉ!」

いつもはマイペースな彼だが、さすがにこの危機に取り乱す。
道は左右二つ、どちらも奥が無く行き止まりになっていた。だが何らかの仕掛けでどちらかの道が開くだろう。そう思ってグライトはその何かを探す。その間にも魔物は一歩一歩グライトに近寄ってきていた。

ギリギリまで囲まれたグライトはとうとう動けなくなり、大量の虫型魔物を見る。よくよく見れば気持ち悪い。グライトはあの黒猫を心底恨んだ。

その時——突風が吹き荒れた。

一瞬にして周りを囲っていた虫達が吹き飛ぶ。一本の道が出来た。その道の先に立っていたのは黒いロングコートを着た何故か手にフルートを持った青年だった。

青年はグライトより年上だろう、整った容姿をしていて、いかにも弱そうだ。そんな青年から、どうやったら魔物を吹き飛ばすような強い風が出てくるのだろう? そう思ったがグライトはとりあえずほっと胸をなでおろした。

「君は……こんな所で何をしているのですか?」

青年はよく通る声でそう言ってグライトに近寄ってくる。魔物はさっと道を開けてまた影へ身を潜めた。グライトは底知れない青年を前に一瞬警戒したが、助けてくれるいい人と思いなおし、差し出された手につかまって立ちあがった。

「ふへ〜……いやぁ怖かった。うん、ありがとうお兄さん」

質問を全く無視して呟くグライト。もう一度青年は同じ言葉を繰り返す。グライトは思い出すように視線を動かして今度は答えた。

「リーブル……黒猫についてきたら木の中に入っちゃって迷子になってたんだ。まったく恨むよねっ」

楽観的にそう言ってへへへと笑うグライトに、青年は眉間にしわを寄せた。

「君、言っとくけど此処は普段暮らしている国や村と違って危ないのですよ。わかっているのですか?」

厳しい口調でそう言った青年にグライトはバツの悪そうな顔になる。

「し、しかたないよ。だって気付かないうちにここに居たんだもん。それよりお兄さん名前は? ここら辺の人じゃないよね?」

「気付かないうちに」という言葉に引っ掛かったのか青年は少し眉を動かした。そしてグライトの質問に応えるべく再び口を開いた。

「僕はミキと言います。ミキ・フィアルト。笛吹きをやりながらソレイユを旅しています」
「へぇ、笛吹き……そのフルートの事? そうだ、さっきの風! どっから吹いてきたの?」
「このフルートですよ。僕は魔力をこのフルートを媒体として発する事が出来るんです。主に能力は風、隙間風程度から突風まで起こせますよ」
「え……ってことはその笛吹いたら風が……」
「ちゃんとコントロールしているので、普段は普通に吹けますよ」

その言葉にさらに興味を引かれたグライト。興味ぶかそうに「ミキ」と名乗った青年の手の中にあるフルートを見ている。よっぽど大切なものなのか、フルートを持っている幹の手は優しい。微笑ましく思いグライトはほほ笑んだ。
そんなグライトをよそにミキは辺りを見渡した。

「とにかく、此処は危ないんですよ。一緒に出ましょう、ね?」

ミキの申し出にグライトは少し考えた。そもそも、ここに来た目的を見失っていた事に気付いたグライトは首を横に振った。

「目的があるから、この奥に行きたいんだ。奥に行く道、しらない?」

そう尋ねるグライトにミキは困った。そんなミキに追い打ちをかける様グライトは付け足した。

「さっきミキ……さん? が右の角で消えたの俺見たんだ。知ってるんだよねぇ?」

身長差により見上げる形になるグライト、その目は逃がさないと言った様子だ。ミキは答えるか迷った挙句、苦い顔で頷く。

「やっぱり! やったね、これで先に進める! で、どこから行ったらいいの?」

純粋に喜ぶグライトにミキはため息をつきたくなった。

「僕もついて行きます。どうせ奥まで行くつもりだったので……その代わり魔物の気配とか感じたら教えて下さい。先ほどお見受けしたのですが、戦えないのでしょう? あとその黒猫について少し聞きたい事が……もしかしなくても君がここへ来たのはその黒猫が原因かもしれない」

何かを思い出すようにそう言ってミキは来た道を戻る。やはりあの時、右で正解だったようだ。真っ直ぐそこへ向かう途中、グライトはリーブルについてこの青年は何か知っているのだろうかと言う疑問が生まれた、それと同時に何か知れるかもしれないと言う予感がしていた。