複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【7/20更新】 ( No.294 )
- 日時: 2014/07/23 19:39
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: no72hslI)
第三十一話 女王と国王
翌朝、さっそく朝食を済ませたグライト達は城の方へと歩きだした。朝の街は夜と違いなんだか新鮮だった。
城へとたどり着いたグライト達は門番に入れてもらえるかどうか尋ねた。
「大丈夫ですよ! 王は民を大切にしておいでです。話しがあるのなら客間へ通しましょう」
門番はそう言ってグライト達を城へと入れた。
案外すんなりどこでも入れて、どうもこの国は掴みにくい。戦争をしている国と同盟を組んでいると言うのだから、後ろ暗い事がありそうなのだが……。
それとも同盟と言う言葉にとらわれ過ぎて色眼鏡で見ているのだろうか? ぐるぐるとする思考を停止するようにグライトは首を振った。
客間で少し待っているように言われ、数分。王と思わしき男が現れた。後ろには王女もいる。どうやら兄弟らしい。案外若いな、そう思っていると丁寧な物腰で挨拶をしてきた。
「わざわざ御足労ありがとうございます。私がエターナル王国の王、ラルス・エルシリアと申します。こっちが第一王女のリリー・エルシリア。どうぞよろしくお願いします」
そう言ってもう一度頭を下げるラルスとリリー。グライト達も慌てて頭を下げた。
「で、ご用件と言うのは?」
ラルスはそう言ってソファへとグライト達を促した。遠慮なく腰をおろし、一息ついてからグライトは口を開いた。
「あの、質問があって尋ねてきたんです」
「質問?」
「戦争について……どう思っているのかなと」
グライトの言葉に、ラルスは正直に顔を歪めた。痛いところをつかれたと思っているのだろうか?
ラルスはゆっくり言葉を探す。
「難しい質問をしますね……それはドラファー帝国との同盟について尋ねていると言う事ですか?」
察しのいいラルスに、グライト達は正直に頷く。
苦い笑いを浮かべてラルスはどうこたえるべきかと考えているようだ。それを見たユーノが詳しく自分達の胸の内を話す。
「その、ボク達は旅人なんだけどね、旅人としてこの戦争に関わらない方が良いってわかってるんだよ。でも、友達が沢山関わっていて……そこでこの国はこの大陸で唯一愛と平和の国だって聞いたんだよ。なのにここに向かう途中仕入れた情報がドラファー帝国と同盟を組んでいるって言う話しで、矛盾しているよね。どうしてドラファー帝国と同盟を組んでいるの? 信念も国民性も違うのに何故?」
ラルスはそれでもまだ渋っている。
最後にリュウが後押しとばかりに身を乗り出した。
「正直に答えてくれないか、俺達は友達を助けたい。国の事はよくわからない、きっと色々あるんだと思う。俺も一国の王だったんだ、それぐらいわかる。国民に安全を保証するためには戦争をしている……それも戦争の渦中にいる国と同盟なんて俺はどうかしていると思う。それとも、この同盟は国民の事を考えた末の結果なのか? もしかして脅されているのか?」
ラルスはそこまで聞いて少しリリーに目配せをした。リリーは頷いてあくまで言葉を発しない。
リリーはそのまま出された紅茶に口をつけた。それを見守ってラルスはお手上げの意を表して手を軽くあげる。
「なかなか熱心な旅人さんですね。友情に熱いって言うのですか? 私もそう言う事なんですよ」
「え? どう言う事?」
キョトンとするグライトにラルスはくすりと笑う。
「私とドラファー帝国のゼルフは友人なのです」
三人は「え!?」と声をそろえて驚いた。まさか、この平和の国の王と残虐だと噂の国の王が友人同士とは思わなかったからだ。
「友人のよしみで彼と同盟を組みました。でもただ友人だからという理由で同盟を組んだわけじゃないんですよ? ちゃんと利害が一致したから同盟を組んだんです」
「利害の一致? 戦争に勝ったら戦利品の半分をもらえるとか?」
「いいえ、そう言うわけじゃないんですよ。そもそも彼が何故戦争を起こしているのか知っていますか?」
しらない、と口々に言うグライト達。何か理由があるのだろうか? 気になるという雰囲気を出すとラルスはあっさり教えてくれた。
「彼は秘宝を探しているんです」
「え!? 秘宝を? どうして?」
「さぁそこまでは……ゼルフは言っていました。とある商人がこの地域に秘宝があると言ったと。ほんとかどうかわからないのですが、最近それがあると言う噂を聞いたのです」
「どこに?」
思わず身を乗り出してしまったグライトは慌てて座り直す。
「それがパルメキア王国です」
またも「え!?」と言う三人の声が客間にこだまする。
秘宝、グライトも探しているそれが、何故パルメキア王国にあるのだろう? ゼルフは秘宝を手に入れてどうする気なのだろう? 色々質問はあるが、聞いて良い物なのかとグライトは言葉を紡ぎあぐねる。
「ゼルフが秘宝を使ってしたい事はなんだろうって言う顔ですね。答えてあげましょう、それは世界を手に入れるためです」
「世界を……?」
「はい。ゼルフは全国を支配下におき、自身の国を繁栄させる事を願っています。そこで私達の国が出てきます。私達も自分の国が繁栄する事を願っている。利害一致というわけです」
にこりと笑うラルスに、リュウは「でも」と口を開いた。
「もしゼルフの国が負けたら? 勝ったとしても秘宝が無かったら? どうするんだ? 戦争に必ずなんてない。それはわかっているのか?」
「はい、わかっています。だから戦争にはかかわっていません。この国を危険にさらしたくありませんし、ゼルフも参戦しないで良いと言っていました。もしドラファー帝国が負けたとしても私どもには何も影響はありません」
「おかしいだろ。ドラファーが負けたらその同盟国も一網打尽にされる。戦争ってそういうもんだ」
「はい、それもわかっております。なので他の国、パルメキア王国とは不可侵条約を結びました。これで私の国には誰も攻めてきません。ただ、不安もあるんですが……」
「どういうことだ?」
「貴方たちなら知っているでしょう? もう一つ大きな国がこの国に関わっていると言う事を」
「バラネアス魔神国か?」
「そういうことです」
ラルスはそう言って肩を落とした。
バラネアス魔神国、この大陸に来て初めて聞いた名前だ。まだ目立ってはいないもののもうすぐ行動を起こすと言う事をだれしもが予想している。
「ねぇだとしたらこの国の戦争を止めることはできないの?」
ユーノは話を戻した。
そうだ、グライト達はここへ戦争を止める相談を持ちかけに来たのだった。忘れていた、と言うか一気に物事が進み過ぎて解らなくなっていた。
ユーノの質問にラルスは「そうですね」と簡単に返事をしただけだ。
「私達の国は軍事力を持っていません。他国に敵うわけがないのです。私達は今バラネアス魔神国へ平和同盟を持ちかけています。あの国はよくわからない国ですが、どうも頭が回る様子ですが、淡い期待をして待っている所です」
言い終えたラルスは弱々しく笑うだけだ。
グライト達はこの国に期待はできないと思いなおし、客間を後にしようと腰を上げる。
そこでリリーがやっと口を開いた。
「……許可をとってあげようか?」
何の許可だろうともう一度グライト達は腰を下ろした。
「ゼルフに……面会の許可をとってあげようか?」
まさかの申し出にグライト達は唖然と驚いた。
言ってはいけないが、この少女は王女だけどあまり力がなさそうだったからだ。
ゼルフは聞く限り難しい性格の様だし、確かに直接話したらもしかしたら戦争を止めてくれるかもしれないとは思ったが……。
色々考えた末、グライトは頷いた。賭けてみようと思ったのだ。
「会えるなら会いたい。よろしくお願いします」
「……わかった」
短く返事をしたリリー。ラルスを見ると愛想笑いを添えて何を考えているのかわからない。
騙されているのか……? そう考えたが、騙されていたとしても会えるなら会いたいという思いが勝った。
そうして王女は手紙を持たせてくれた。これを見せればいいらしい。連絡も届けてくれると言う。グライト達は王と王女に深くお礼を言い、客間を後にした。この事をクウゴとミキに報告するためだ。
彼らが今どこに居るのかは分からないが、丁度腹も減ってきた頃だし、三人は歩きながら探すことにした。