複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【7/20更新】 ( No.300 )
日時: 2014/08/01 15:58
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: o.w9FXPe)

第三十二話 列車の旅

 夜、高まる鼓動をおさえる様にグライト達三人は路地裏を歩いていた。
出来るだけ人に見つからないようにとクウゴに言われたからそうしているのだが、どうも悪い事をしているような気持ちになり、つい気弱になってしまう。
不安が胸の内にせり上がってくる頃、ついに馬の銅像が姿を現した。その下にはクウゴとミキも立っている。グライト達に気付き、手を振って合図を送った。

「よう、ちゃんと人に見つからないようにこれたか?」

そう言うクウゴにグライトは「まぁ」と曖昧に言葉を濁す。
自分では気をつけているつもりなのだが、人はどこで見ているのかわからないから断言できない。
クウゴはそんなグライトの心理を読みケラケラと笑った後、「まぁ見とけ」と馬の銅像に手をかけた。

「ここを引っ張って、押すと……」

クウゴはそんな事を言いつつ馬の尻尾を引っ張る。尻尾は簡単に引っ張られ、少し長くなる。クウゴはそれを確かめ、レバーの様に下へと引っ張った。よほど力を入れて引っ張っているのか、少し厳しい顔をしている。
鈍い音を響かせ、馬の尻尾は下へと降りた。そして鉄の軋むような音を鳴らしながら、その下にある階段をさらけ出した。

「うわぁ、こんなになってんだ? すげぇや」

リュウは素直に感心してその奥を覗き込む。階段の下は暗い。本当にこの先に列車が通っているのだろうかと心配になるぐらいだ。

「ついてこいよ」

クウゴはそう言って迷わず階段を下りて行った。その後にユーノ、リュウ、グライト、ミキと続く。
グライトは少し不安になり、あたりをきょろきょろと見渡したり、落ち着き無くそわそわとしたりしていた。



 暗い何も見えない階段を下りていくと、いつの間にか駅のホームの様な所へ出ていた。
目をパチパチさせて突然出て来た光を拒む。
だんだん目が光になれてきた頃、グライト達は息を飲んだ。

「でっかい列車!」

グライトが興奮気味にクウゴを見ると、ニコニコと笑って頷いていた。
列車は赤く、アンティーク調で、いつからあるのか分からないが、時の流れを感じさせない列車だった。
興味深そうにミキやグライトは見入っている

「こんなところに列車があったんですね……音とか全くしなかったので驚きました」

ミキがそう言うと、リュウやユーノ、グライトもそれぞれ感想を述べる。
クウゴがその言葉に得意気になり、胸を張って前を歩く。

「すごいだろ? ちゃんとしっかり動いてるから安心しろよ」

クウゴはそう言って駅長さんと思わしき顔に傷のある男に金を渡す。
駅長は切符も何も渡さず、ただ指だけを列車に向けた。グライト達もクウゴに習い、同じように金を渡した。


 列車の中に入ると高級そうな椅子がずらっと並んでいた。
クウゴはその椅子と椅子の間にある赤いカーペットを引いた廊下を歩いて行く。

「ここはファーストクラス。俺達はエコノミーだから、この奥だぞ」

そう言ってクウゴが指差す奥にある扉を四人で見て、そちらへ向かった。
グライトはキョロキョロとあたりを見渡しながら、クウゴの後ろを歩いていた。ファーストクラスには金持ちそうな男の人や女の人ばかりだ。ところどころ胡散臭い男や、みるからに怪しげな男が乗っていた。
グライトは鼻につく葉巻の匂いに顔をしかめながら、自分達の席へと足を急がした。

 グライト達の席はいたって普通の椅子が並んでいる、どこにでもありそうな景色だった。
個室もあるらしく、そちらへ移動する。個室は広々としていて、五人入っても余裕があるぐらいだ。
クウゴはその一室を陣取り、荷物を早々に降ろした。

「とりあえずドラファー帝国に着くまで此処で生活するからな。食べものや飲み物は駅員が一定時間だけ回ってくる。ほしけりゃ買えばいい。まぁ列車は広いし、好きに行動すればいいぞ」

続いて荷物を置いたグライト達に、クウゴはそう言ってさっそく自分は寝入る。
グライト達も自分のスペースを確保した後、少し休憩する。きっと外はまだ真っ暗だろう。睡魔もそこまで来ている。グライトは身を任せた。


 数時間、いや数分だろうか? ふとグライトは目を覚ました。まだみんな寝ている。自分ももう少し寝ようと思ったのだが、どうも寝にくいグライトは列車を探検してみることにした。
立ちあがり、そろそろと廊下の方へと足を進める。
そしてやっと廊下に立った時、ちょうど廊下側の席に座っていたユーノが目を覚ました。

「……ん? どうしたの、グライト」

ユーノの言葉にビクリと肩を鳴らしたグライトは、苦い笑いを添えて振り返った。

「いや、寝れないからちょっと歩こうかなって思って……」

そう言うグライトにユーノは頷いたのち、立ちあがり廊下へ出てきた。

「ボクも一緒に行っていい?」

ユーノの申し出にグライトは頷いた。
こうして二人で列車を探検する事になったのだった。