複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/1更新】 ( No.304 )
日時: 2014/08/03 23:03
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: o.w9FXPe)



 一両目が見える窓を覗きこむと、爆発の犯人であろう人間が複数見えた。銃やナイフで武装している人間だ。

「ハイジャック……?」

グライトが呟くとユーノは同意した。
このご時世、というかこの列車でハイジャックなんてどういう意図があるのだろうか。
一両目に座っている客は窓から見える限り一般客が多かった。

「まずいな」

そう呟いてユーノを見るグライト。ユーノは不安そうにグライトを見返す。

「ねぇどうするの?」

そう言って顔色を悪くするユーノに、グライトは安心するよう笑いかけた。
その時、もう一度大きな爆発音が響いた。
近かったこともあり、思わずふらつき、耳をふさぐ。そのまま列車は軌道を変えたのか急カーブを始めた。
そのことに、今まで落ち着いていた客も顔を歪め始める。殴りこみに行こうとしている人も数人いた。
列車で乱闘なんて御免だ、そう思ったグライトは策を練り始めた。

「ねぇユーノ、ちょっと危険だけど協力してくれるかな?」

ガタガタと激しく機体を揺らす列車の中、グライトは持ちかけた。

「俺が前から敵の注意を引くから、窓から外の屋根に登って上から突入してほしいんだ。ユーノは素早いからきっとうまくいくと思うんだけど……あ、ちゃんと指示は出すから」

グライトはそう言った後、後ろでガタガタと武器を取り出し始めていた客を振り返った。

「お客さんの中で爆弾持っている方いませんかぁ!! 僕達に協力して下さい!!」

グライトが数回そう呼びかける。客は「ガキに何が出来る」と騒ぎ出す。
数秒呼びかけてみたが、「やっぱり無理か」そう思いかけ一両目が見える窓を覗いた。
そこには引き摺り出され、抵抗できない様多少痛めつけられた機長が見える。機長を引き摺っていた男の手には拳銃がある。

「や……やばい!! 機長さんが殺されそうだ!!」
「え!? ど……どうするの? 協力してくれそうにないよ、このバカな大人たちは」
「ユーノ、そんな事言っちゃだめだ。中には短気な大人がいるんだから」

でも、と文句を続けようとするユーノを片手で制してグライトは次なる案を考え出す。
そんなうちにも機長に向けられた銃の引き金はおされかけていた。
そんな時、一人の男がグライト達の前に来た。

「しかたねぇ! 俺の爆弾貸してやるよガキ共!」

そう言って麻袋をグライトの両手に持たせる厳つい男。この男は指名手配の中で見た事があるかもしれない。
そんな事を思っている場合じゃないのだが、どうも意識してしまう。

「さっさとしやがれ!」
「……ありがとうございます!! ユーノ、やるよ!」

グライトがそう目配らせをするとユーノは力強く頷いた。
そう言って準備を始めるグライト達にまたも声がかかった。インテリ風の男だ。

「中に居るのはせいぜい六、七人。全員銃を装備している。ただの拳銃だ、そう威力は無い」

そう言ってフンとそっぽを向く男。人数まで把握していなかったグライトとユーノは驚きに振り返る。
男は一両目の窓からは程遠い席に腰をおろしていた。

「中、見えないのに……?」
「そんな事はどうでもいい。さっさと片付けてくれ。俺の仕事がはかどらない」
「あ、ありがとうございます」

不思議に思いながらも礼を述べたグライト。スーツの襟を正し始める男を見て、幾分か冷静になったかもしれない。そうだ、焦っても仕方ないんだ。そう言い聞かせ、屋根に上ったであろうユーノを窓から見上げた。ユーノは視線だけをよこして準備万端だ。渡した爆弾も取り付け終えたみたいだ。それを確認したグライトは、作戦開始の合図である閃光弾と手榴弾を一両目に投げ込んだ。