複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/3更新】 ( No.308 )
日時: 2014/08/04 23:04
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: o.w9FXPe)

第三十三話 パルメキア王国の策略家

 男の予想通り裏列車はパルメキアの国領に差し掛かるあたりで地雷により大半がダメになってしまった。注意を聞き、なおも中に居た人々は多大な被害を受けた。
ほぼすべての人間は一瞬にして死に絶えたが、無惨な姿のままのたうち回った人達は自分の不幸を呪った。



 グライトが列車放送を行っている最中、丁度クウゴ達も慌ただしく一両目に現れた。
一両目の様子を見て息を飲んだ後、グライト達の姿を確認し、忙しなく怪我は無いかと確かめた。怪我がないと確認したクウゴ達はほっと安堵の息をついて状況の説明を促す。
グライトはわかる限りで応えつつ、横目であのインテリの男と爆弾の男を探した。だが彼らの姿は無い。どうやって列車を止めるのか聞いていなかったグライトは不安を覚えた。が、数分後、丁度グライトが放送を終え、息をついている頃だった。耳をつんざくような不快な音を立てて列車は突然止まった。どうやったのかは当然分からない。
あの人達は何者なのだろうか、二人は知り合いだったのだろうか、逃げたのだろうか、そんな推測がグライトの頭の中で飛んだが今になっては知る術もなく。
とりあえず自分の席の方へとクウゴ達と歩いて行った。

席に着き、何とも言えない沈黙が個室を覆う中、ミキが列車は何日後にパルメキア王国へと着くか計算した。5日後らしい。
逃げられるのは今の内だと言っていたが、グライトは逃げる気は無かった。どうせパルメキア王国にも行ってみたかったのだし、どう攻撃してくるか、もしかしたら攻撃なんて杞憂かもしれないかもしれないとか、そんなかすかな希望を抱いていたからだった。

だが、後々そんな淡い希望は打ち砕かれることになる。


 列車がパルメキア王国に差し掛かるころ、丁度4日目の深夜の事だった。前のビップ席辺りが騒がしい。なんだと起き上がるとリュウが青ざめた顔で席へと走ってきた。

「お……おい! ビップ席が大破したぞ!!」

その言葉に驚きクウゴやミキも飛び起きる。グライトとユーノは眠い目をこすって今一つ状況が把握できていない様子だ。
そんなグライトとユーノに気を使いつつ、クウゴとミキはビップ席へと走った。

そこに広がっていたのは穴のあいた床と血塗れになった壁や天井。床に寝転がって呻いていたのは片足を失ったり、手を無くしたり、命を無くしたりしている乗車客だ。

クウゴやミキはそんな状況を見て呻いた後、後ろからやってきたグライトとユーノの目を反射的にふさいだ。

「ちょ、見えない。ミキさん、俺もう十分えぐいの見たから!」
「ボクだって人殺したりしてたし」

二人は好奇心のままそう言いながら抵抗し、それもそうかと納得しかけ、緩んだクウゴとミキの手から逃れた。
難を逃れたグライト達は得意気になりクウゴ達を見た。そして目を車内へ移したとたん「うっ」と顔を歪める。
ミキはその様子にはぁっとため息を吐きだすと後ろへ戻るようグライト達の背中を押した。

「二人は戻っていて下さい。ここの状況は僕達が確認しますから。リュウ君二人を連れて戻りなさい。くれぐれも気をつける事」
「わ、わかった……いくぞ、グライト! ユーノ!」

立ちすくんで唖然としているグライトとユーノの腕を引きリュウはそのまま奥へと歩いて行った。
ミキとクウゴはそれを確認した後、その車両を歩く。できるだけ死体や肉片を踏まないように細心の注意を払って。

「クウゴさん、まだ爆発すると思いますか?」
「いや、今霧で調べてみる」
「そんな事も出来るんですか?」
「わからない。でもきっと気配ぐらいは感じるはずだ。霊力も少し入ってるからな」

そう言ってクウゴは大鎌を作り出し、勢いよく床へと突き刺した。大鎌の形を無くして広がる黒い霧は室内に充満する。そのおかげで死体はあまり見ないで済むようになった。
ミキは出来るだけ耳を澄ませてまだしっかりしゃべれる人間を探した。ただ機内は狭い。爆風の洗礼を受けているだろうからあまり期待できないのは確かだった。

「……ん?」
「ありましたか?」
「後一個。一応機内全部を調べてみたけど一つだけこの先にまだ爆発していない地雷がある。このままいけば機動室が今度こそ潰れるだろうな」
「どうすれば……!」
「俺が霧の中を行く。間に合うかどうかはわからないが、この列車がそれを踏む前に爆発させる事ならできるかもしれない」

そう言って自身も霧の中に溶けてしまったクウゴ。ミキは心配だったが、そこを任せて自分は生存者を捜した。

(やはりパルメキア王国はこの列車を潰すつもりらしい。今地上で言えばどこら辺かは分からないけどもうすぐそこに国があるんだろうな)

それまでになんとか安全を確保しなければならない。自分が出来ることは何か、そう考えグライト達の元へと戻った。