複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/10更新】 ( No.321 )
日時: 2014/08/14 22:46
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)



 やっと逃げ切ったと思った矢先、まだ軍の人間はいた。森の中で伏兵をしていたようだ。
大砲を遠慮なく打つ所を見ると、どうやら自分達を完全に敵と判断したらしい。
一体何をしたって言うんだとグライトは戸惑った。だが戸惑っている暇もない。魔力がなくなってきたミキは青い顔で、それでもまだ瞳には諦めの色は無かった。
グライトは周りの景色を窺う。森の色はどんどん濃くなっているのがわかった。

「どんどん奥に入ってるよ? どうするの?」
「どうしようもねぇ! とりあえず幸運を祈っとけ」

クウゴはそう言って運転に集中する。そう言えば兵士の数も多くなってきた気がした。
そろそろ本気で危ないと思いだしたグライトは、何かないかとオロオロするばかりだ。
そんな事をしている間にも、また砲弾が飛んできた。森に生えている太い木が一瞬で吹き飛ぶ。そして他の木達もドミノ倒しに倒れて行った。
リュウは多少晴れた視界で目を細める。そしてぎょっとした。

「囲まれてる……! もしかして、ここは軍の基地に近いんじゃないか?」
「なんだと……!? チッ……! 誘導されてるってことか」

リュウとクウゴのそんな会話を聞き、グライトはやはり誘導されているのだと確信する。

「ねぇどうするの!? こっちにはそんなに戦力は無いし、束になってかかってこられたらたまったもんじゃないよ!」
「わかってる!」

クウゴの厳しい口調にグライトはぐっと言葉を詰まらせた。
そんな時、もっと最悪な出来事が起こった。ミキの魔力が尽きたのだ。
ぐったりと助手席で顔を青くするミキを見て、全員の血の気がさっと引いたのがわかる。慌てて車を止めたクウゴは、ミキの体をゆすりつつ周りの様子に警戒する。

「おい! 大丈夫か、ミキ!」
「……すみません……大丈夫そうでもないです……ちょっと、意識が……」

そう言って荒い息のまま目を瞑るミキ。そのまま意識を手放した様だ。ピクリとも動かなくなった。

「クソッ!」

完全に沈黙した車を叩きつけ、舌打ちをするクウゴにリュウが申し出る。

「俺の魔力を使うか?」

だがその申し出にクウゴは首を振った。この状況で車移動は、きっとマイナスにしかならないと判断したからだろう。

「降りるぞ。どっか隠れる所があるはずだ! 今、兵隊たちは見えない。今の内だ!」

クウゴは車を飛び降りた。ミキを抱えてそのまま森の深い方へと足を動かす。その後にグライト達も続いた。今はこれしかできることが無い。そう感じたからだ。
グライト達は隠れ場所を探し、どんどん森の奥へ奥へと入って行った。だが、奥へ進むたび不安は募るばかりだった。



 「軍師! 例の奴らが森の奥へと入りました!」

慌ただしく入ってきた兵士は扉を開けるなり、嬉々としてそう叫ぶ。その言葉を聞いて軍師——もといセレンは納得するように頷いた。

「単純な手に引っ掛かってくれる奴らでよかった。で、今どこら辺にいる?」
「森の奥、我が軍の基地付近にある、岩でできた小さな洞窟の中だと思われます」
「よし、そのまま見はっとけ。動き出したらうまくこちらへ移動させろ。……そうだな、人数を増やそうか。こちらの基地へと運ぶよう必要のない道に目立つように立っているだけでいい。あいつらは攻撃してくるのか? どんなやつらだ?」
「いいえ、そのような行動は見られません。一人消耗して意識を失っています。ですが、他は子供三人に大人が一人。こちらから仕掛けても勝てそうですが?」
「いや、それはよくない。もしそいつらに実力があったらどうする? 今回の作戦は無駄な争いをさけ、速やかに誘導する事。油断して警戒を怠るなよ」
「はい!」

事は順調に運ばれている。セレンは満足気に頷き、森の地図を広げた。どこに人を置けば有利に進むだろうか? 相手はもう自分のテリトリー内に入っているも同然だ。だが、油断はよくない。
セレンはそこで今森に居る五人の特徴をもう一度詳しく聞く。もしかしたら、いや、もしかしなくてもこの五人の中に自分の軍に刃向かった奴がいる。

 パルメキア王国の領土に一般人はいないはずだった。一般人は最近パルメキア王国内か、各自、自国へと強制送還した。この土地は激戦区になる事がしばしあるからだった。土地にはあちらこちらに兵を仕組んでいる。だがその兵士達が目撃していないとなると考えると、突然現れた彼ら5人は言わずもがな怪しい。
その5人がどこから現れたというのだろうか、それは至極簡単に思いつく。あの裏列車からだろう。
どこに向かっていたかは分からないが、あの列車はあまり良い噂も聞かない。もしかしたらドラファー帝国に雇われた備兵か、潜伏兵かもしれない。
こちらが少しでも不利になる情報漏洩等は避けたい。そのためには少しでも怪しい芽は摘む。

「もうちょっとだから頑張れ。ここへ入ってきたら私が引き受ける。頼んだぞ」

無線機越しにそう言うと、兵達からは元気な声が返ってきた。今のところ欠けた奴はいないらしい。それについても満足だった。

「よし、じゃあ配置を説明する。耳の穴をかっぽじってよく聞いておけ。少しの誤差も許さない」

セレンはそう前置きをしてから、森の地図を各隊の隊長へと送信した。そして説明を始めた。