複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/14更新】 ( No.323 )
日時: 2014/08/15 22:33
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

第三十五話 対面

 「クソッ……! あっちこっち兵士が立ってやがる」

クウゴはそう言って悔しそうに顔を歪めた。時折背中に背負っているミキを気にして振り返ってはまた舌打ちする。

「あっち人いないんじゃない? あっちの方に移動しようよ」

クウゴの様子を気にしてユーノはそう言った。ユーノが指をさす方向は確かに人がいない。だが森の奥へとつながるであろう場所だ。
しかしそちらへ進む以外5人に道は残されていなかった。仕方なくそちらへ進むが、どうも迷いそうで不安になる。
グライトは先ほどから嫌な予感を感じていた。こちらは間違った道だ、本能がそう告げているが、そっち以外道が無いと言っても過言では無かった。兵士は先ほどから誰かの指示で自動的に動く。何処へ行ってもグライト達の視界へ入ってくるのだ。
グライトは前を歩くクウゴに呼びかけた。振り返ったクウゴは相変わらず焦ったような、怒ったような顔だ。

「クウゴ、誘導されてるよ」

グライトはそう言うが、クウゴは「わかっている」と短く返事をするだけだ。もう策が無い、そうもとれる。
やはり森の奥へと進むほか道は無いらしい。
自分達はいったいどこへ出るのだろうか? もしかしてパルメキア軍のど真ん中だったりするのだろうか? それはまずい……。
そう言った所で本能は嫌な方向へしか動かない。
結局見えてきたのはパルメキア王国直属の陸軍本拠地だった。



 「かかった! 捕えろ!!」

そんな声が無線機を通じて響いた。そして周りに居た兵士達は一斉に、グライト達を取り押さえるため動き出した。

 グライト達はあまりに統率された動きについて行けず、目立った反抗できずに抑えられた。
クウゴは背中に背負っていたミキが落ちそうになるのを必死で耐えるが、両手をふさがれている今の立場ではきっと逃げ出せはしないだろう。

 それからすぐの事だ。基地から一人の人間が兵士に守られながらも出てきた。緑の長髪を自慢気に揺らしながら、その表情は余裕そのものだ。
クウゴはまさか統率しているのが女性だと思わなかったため、驚き、だがすぐにしかめっ面になる。

「誰だテメェ」
「口のきき方を知らないのか? お前は今、私より弱い立場に居る。自覚を持て」

軍人らしい厳しい声で女性はそう言う。その女性に周りを囲っていた兵士の一人が近づいた。きっと隊長格なのだろう。報告も兼ねて、兵士は口を開く。

「セレン軍師、こいつらが犯人ですか?」
「……おそらくな」

軍師セレンはそう言ってグライト達をじっと見た。セレンはゆっくりとグライト達五人を眺め、見比べる。
値踏みされているのだろうか、グライトはそう思い気を引き締める。

「わかったぞ。お前だな、私の軍に手を出した輩は」

セレンはそう言ってクウゴを指差した。クウゴは諦めたように舌打ちする。どう言う事だろうか? グライトとリュウ、ユーノは同時に首を捻った。セレンは続けざまに質問を繰り出した。

「お前の目的はなんだ?」

その質問にクウゴは自嘲気味に笑うだけだ。
セレンはそんなクウゴの態度に腹が立ったのか、クウゴの腹を思い切り蹴った。苦い顔でクウゴは崩れて行く。
咳き込んだクウゴにもう一度、セレンは同じ質問を浴びせた。クウゴはそれでもうすら笑いを浮かべるだけだった。

「ゴホッ……なかなか、重い蹴りだな……俺の目的だっけか? フン、お前等にとっちゃくだらねぇ事だ。気にするな」
「そのくだらない事で私の軍は、兵士は殺されたのか? そんなんで納得すると思うなよ? さっさとそのくだらない理由を答えろ」
「ハハッ、目的達成のためだ。お前達もよくやるだろう? 捨て駒って奴だよ。お役御免、そいつらには引いてもらった。それだけだ」

クウゴが言い終わるや否や、セレンはもう一度クウゴを蹴った。鈍い音を立てて倒れるクウゴを、グライト達は抑えつけられながら見ていることしかできなかった。

「おい、もう一度問う。これに答えなければお前のツレ、そうだなぁ、とりあえずその背中の男でも殺すか。恨むなよ? お前の言うお役御免って奴だ」

セレンは厳しい表情でそう言った。すぐさま一人の兵士の男にミキを抑えられた。ミキは気を失っていて、まだ目が覚めないらしい。
クウゴは慌ててミキの名前を呼ぶが、反応が返ってくるはずもなく。兵士の持っている剣は今にもミキを貫きそうだった。
クウゴはその状況に悪態付く。悔しそうに歪められた表情に、セレンは冷笑を浴びせるだけだった。

「チッ……このアバズレ野郎! そんなに聞きたいなら聞かせてやる。そのかわりミキ達を放せ。俺達はお前の敵じゃない」

クウゴはそう言って膝をつき、立ちあがった。

「俺は……俺の目的は、戦争を無くす事だ。こんなくだらない、何の利益も無い戦争はやめるべきだ。お前等も知っているだろうが、ドラファーの目的はお前の国の秘宝らしいな? お前の国、本当に秘宝があるのか?」

クウゴは服の端を払いながらそう言った。先ほどの蹴りの痛みはひいたらしい。まだ腹をさすっているが、問題なさそうだ。グライトはそんなクウゴの様子を見てほっと息を吐いた。
クウゴの前に立っていたセレンは、目でわかるほどうろたえている。何をそんなにうろたえることがあるのだろうか? セレンはパクパクと何度か口を動かした後、やっとの事で声を紡いだ。

「な……何を言っているんだ、お前は? パルメキア王国に秘宝? そんなもの、聞いた事が無いぞ」

そう言ったセレンに、今度はクウゴが首を捻る。

「おかしいな、そう聞いたんだが?」
「だれに?」
「エターナル王国の王と姫、正しく言うとグライト達が聞いてきたんだが……」

おかしいなぁそう言うクウゴに、先ほどまでの緊張は感じられない。
クウゴはそのままミキの方へと歩いて行く。少しも躊躇わない足取りに、兵士の方が少し躊躇ってしまった。
クウゴはそんな兵士の心情を察してか、乱暴にミキをひったくった後、兵士の体を思い切り投げ飛ばした。
セレンはそんなクウゴの動きを瞬時に察した。

「動くなッ!!」

他の兵士に指示を出そうとして、クウゴがそれを止めた。にやっと笑ってセレンを見やる。

「だから俺はお前等の敵じゃねぇ。お前等も戦争は嫌だろ? 取引しようぜ。俺らをお前の国を治めている奴まで連れて行ってくれれば、俺がこの戦争を止めてやる。どうだ? 悪くないだろ?」

ミキを背負いなおしつつ、グライト達を解放させるためそちらへ歩くクウゴ。セレンは唖然と声も出ない。
しばらく沈黙の後、兵士を下がらせたセレンは、やっと絞り出した弱々しい声でクウゴの取引に答えた。

「……お前が、本当に戦争を終わらせれるのか?」
「あぁ、俺の目的はソレイユから戦争を消す事だからな」

自信に満ちた顔でそう言いきったクウゴ。セレンはそんな彼を見て、ふと笑った。バカらしい、そう呟いてニヤリと笑う。何だか彼女のその表情は妙にしっくりしていて、悪意は感じられなかった。

「なら賭けてみよう。お前がこの戦争を終わらせられなかったときは……お前の命を奪ってやる」
「……あー怖い怖い」

面倒そうにそう言ったクウゴ。セレンは笑って兵士達に次なる指示を出した。