複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【8/15更新】 ( No.324 )
- 日時: 2014/08/16 21:23
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)
第三十六話 パルメキア王国の王女
あれからグライト達は基地に一日泊めてもらった。ミキが目を覚まさないからだ。心配してうろうろと落ち着かなかったクウゴだが、よっぽど疲れたのか、そのまま眠りについた。
次の日の朝、ミキは目を覚ました。初め基地に居たと言う事で驚いていたが、慣れたのか今は荷物を確認したり、魔力を確認したりといつも通りの行動をしている。
セレンは「戦争を止めろ」と言った。そんな彼女も協力をしないわけではないらしい。実際、セレンももう戦争なんてしたくなかったらしく、クウゴと話しが意気投合し、とうとうパルメキア王国の王女にまで会わせてくれると言ってきた。
その申し出を受けたグライト達は荷物を持ち、現在軍用車にゆられていた。
「もうすぐ国が見えてくる。振り落とされるなよ、スピードを上げる」
セレンはそう言ってエンジンを思い切り踏んだ。車は砂をまきちらしながらどんどん進んで行く。
勢いよく門を通過した。門番は驚いていたが、いつもの事らしく簡単に通らせてくれた。
初めて入ったパルメキア王国はあまりに重苦しい雰囲気に呑まれていた。グライトはセレンを見る。先ほどまで軽口をたたきながら楽しく会話をしていたと言うのに、今は険しい顔で前だけを見つめていた。
そんなセレンにユーノが後ろの席から話しかける。
「ねぇ女王……エレーナ・サドミリア女王だっけ? どんな人なの?」
ユーノの質問にセレンは少し考えているようだ。
「……とても哀しい人だ」
「え?」
それ以上は何も言わなかった。そうこうしているうちに第二の大きな門を通り過ぎた。どうやらここが城へと続く道らしい。
入るとすぐ一人の兵士がオドオドと言った様子で駆け寄ってきた。まだ若い青年の様な佇まいで、彼はセレンを見るなりビシッと敬礼をする。
「……セレン軍師、どうかしましたか?」
「あぁアルト。ちょっと客人がいてな、エレーナ女王に会わせてやりたいんだ」
「どう言った客人ですか?」
「旅人だ。怪しい奴らじゃない。ちょっと女王と話しがしたいそうだ。内容はしっかり私が確認した。どれも問題のない物だった。通してくれるか?」
「わかりました。なら城門を開けます。橋を下ろしますので、そこをお通りください」
アルトと呼ばれた黒い鎧の青年はそう言って駆けだしていく。緊張した面持ちを見る限り、セレンより立場は低いらしい。
それからすぐ城門が開き、橋が降りた。セレンはその橋の上をゆっくり渡る。
中はそれほど広くは無かった。庭があり、車が何台も泊まっている所がある。どれも戦車だった。
セレンは軍用車から降りた。続いてグライト達も降りる。そこへ先ほどのアルトと言う青年が門から戻ってきた。
「御帰還お疲れさまでした」
「あぁ。……こいつらが私の言っていた客人だ」
セレンはそう言ってグライト達を紹介する。アルトは休めの態勢でそれを一つ一つ漏らさず聞いた。
「ご紹介承りました。僕はアルト・ガーディアスと申します。現在はエレーナ女王のもとで護衛をさせていただいています。以後、お見知りおきを」
アルトはそう言ってにこりと笑う。その笑顔は何処か頼りのない笑顔で、本当に護衛が出来るのかとグライト達は少し疑った。
「よし、私は先に行こう。アルト、客人を客間へ案内しろ。私はエレーナ様をお連れする」
「わかりました。では僕の後に続いて下さい」
アルトはそう言ってグライト達を率先する。真っ直ぐ客間へ向かい、適当にお茶を入れた後、アルトは部屋の隅でグライト達を監視するように見ていた。
◆
現れた女性を見て息を飲んだのは何回目だろうか。
グライト達の緊張の糸が切れないうちに、セレンは一人の女性を連れて現れた。女性は金髪に、黒く大きな羽を携えた、何とも言えない不思議な雰囲気を持っていた。
グライトはこの雰囲気を一度感じた事があった。それはヒストリア島で出会ったあの女性、レイラの、似て非なる雰囲気だった。
たじろぐグライトを置いてクウゴは立ちあがる。
「こいつがエレーナ・サドミリアか?」
「……女王様をつけなさい、もしくは様だけでもいい。百歩譲って敬語は求めないで置いてあげる」
エレーナはそう言って顔を歪ませた。クウゴはそんなエレーナの態度に、失礼と一言述べた後、丁寧にお辞儀をする。
エレーナが座るころ、クウゴも座った。セレンは部屋の隅、アルトの立っている方向と逆の方向へと立つ。
重々しい雰囲気の中、エレーナは「で?」と続けた。
「私に話って何?」
ゆったりとしたしぐさで紅茶を一口飲み、グライト達の言葉を待つ。
真っ直ぐと見据えてくる瞳に光は無かった。これは長期戦になりそうだ、そう覚悟してグライト達は姿勢をただした。
「話、の前に……俺はクウゴ・O・デスサイズ。死神をしている。エレーナ女王、貴方はどう言った種族で?」
クウゴの軽い質問に、エレーナは淡々と答えた。
「私は黒竜族。貴方達……白竜族は御存じ? 彼らの対なる種族、いわば影ノ皇の気に共鳴した選ばれた種族よ。……まぁ、私はこんな種族、どうでもいいのだけれども」
フンと鼻を鳴らすエレーナは何か心に引っ掛かりでもあるのか、それ以上は言わなかった。
「……そうか、まぁいい。本題に入る。俺らが話をしに来た理由、それはこの戦争の事だ。ドラファー帝国との戦争、どうやら秘宝が絡んでいるらしいが……本当にこのパルメキア王国に七つの秘宝の内、一つがあるのか?」
クウゴの言葉にエレーナは眉を上げ、にこりと笑う。
「どうかしらね……クウゴさん、貴方はどう思うの?」
エレーナはそう言った。あくまで真実は漏らさないつもりらしい。
クウゴはそんなエレーナの質問に首を振る。
「俺はこの国には秘宝は無いと思う。誰かがそんなデマをでっち上げ、戦争を起こさせたんだ。何故だかは分からないが……」
「そう……話しはそれだけ?」
エレーナはそう言って立ち上がる。
「くだらない。それを知って貴方達はどうすると言うの? 説得でもする気? いい? 話し合いが通じれば戦争は起きないの」
くだらない、最後にもう一度そう言ってエレーナは部屋を出て行こうとする。そんなエレーナの腕をクウゴは掴んだ。
「まて、まだ話は終わっていない」
凄むクウゴに、エレーナは怯えるわけでもなくただ淡々と振り返るだけ。
「放しなさい」
冷たい言葉と視線をクウゴに向ける。彼女は何をそうまでして隠そうとしているのだろうか?
エレーナはなかなか放さないクウゴの手を睨みつけ、ぐっと奥歯を噛みしめる。
「放して!!」
クウゴの手を振りほどこうと手を振るエレーナ。だがクウゴの方が断然力が強く、その抵抗も空しく終わる。
エレーナはそんな状況を不快だと言いたげに顔を歪めた。
「こんな事をしてただで済むと思っているの? セレン、アルト……さっさとこの客人を放り出しなさい。私はもう話したくないの!」
エレーナの命令にアルトは素直にクウゴに掴みかかったが、セレンはためらう。
クウゴをアルトだけの力で止めることは無理だ。アルトは助けを求める様にセレンを見るが、セレンは俯いて何か考えているようだ。
「何をしているのセレン。私の命令が聞けないって言うの? まさか、また裏切るつもり?だから……だから人は嫌なのよ! セレン! いい、もう一度言うわ。この客人を放り出しなさい。早く、今すぐに!!」
「……お言葉ですがエレーナ様、もう少し、もう少しだけ……この客人の話を聞かれてはどうでしょうか? もしかしたら、貴方の求めている答えが見つかるかもしれません。もう少しだけでいいのです。そのあと、何しようが私は命令に従うだけ。どうぞ気を鎮めてください」
重々しくそう言ったセレンは、窺うようにエレーナをじっと見る。エレーナはムッとしているが、アルトを止め、クウゴを見た。
「貴方が何を考えているのか、ここで洗いざらい吐きなさい。これは命令。……アルト、紅茶のお代りを頂戴。さっきのは温かったわ。もうちょっと温めなさい」
エレーナはそう言って颯爽と黄色のドレスを翻して椅子へと戻る。アルトは慌てて紅茶の変えを用意するため部屋を出て行った。
不機嫌なエレーナを見て、クウゴは皮肉ににこりと笑う。
「ありがとうございます。では、命令通り俺の考えを吐かせてもらおう」
エレーナはそんなクウゴの態度に嫌な顔をした。