複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/16更新】 ( No.327 )
日時: 2014/08/17 22:48
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

第三十七話 合間

 グライト達はセレンの言った通り早朝にパルメキア王国を出た。軍用車で行くと餌食になってしまうので、セレンの自家用車でパルメキアの土地を横断する。
何日か泊りがけになるかもしれないと言う事で、自家用車と言ってもキャンピングカーだ。
キャンピングカーは大きく、ベッドが四つと水道、トイレなどがついていた。本当の家みたいだ、グライト達はそう思い快適な空間で……しかし、緊張を走らせていた。
なぜならクウゴに託された役割があまりにも重い物だったからだ。それに、先ほどから気がかりになっていたのだが、ユーノの調子がわるい。身体的には健康なのだが、何処か浮かない顔だ。
グライトはそんなユーノの雰囲気から逃れる様に、ソファに座っているリュウの所へ移動した。じっとリュウの方を見ているとリュウはグライトの視線に気づいたようだ。視線が合った時、グライトはリュウに耳を貸してくれと頼んだ。何かを決意したような顔に、重要な事なのかとリュウは一瞬気を張る。

「ねぇリュウ……ユーノの調子が悪い、と言うか醸し出す雰囲気が一段と重いんだけど……何かした?」
「え? 俺が?」
「うん、だって色々あり過ぎて忘れてたけど、リュウってロリコン……いや、年下が好きだったよね? 俺は常にユーノと一緒だったわけじゃないし、というか最近めっきり一緒になれないんだけど……その間にリュウがユーノにおそッ……い、イタズラでもしたのかなぁって」
「オイオイオイッ!!? 俺はロリコンじゃねぇよ! いや、厳密に言えば……って違う!! ただ小さい物とか子供とかが好きで……て言うか、一緒に旅してる仲間に手出すほど腐っちゃいねぇよ!? お前の中の俺ってどんな奴だよ!」

おずおずと切り出されたグライトの話しに、拍子抜けしたリュウはうなだれた。
何故グライトがそんな事を言いだしたのかは分からなかったが、それはリュウの名誉にかかわる問題だ。リュウはそう考えると、一段と肩を落とす。「俺に信用ないのか?」落ち込みつつそんな事を言うと、グライトは慌てて取り繕うように首を振った。

「そう言うわけじゃないよ! りゅ、リュウはいい人だと思うよ、うん。だってよく助けてくれるし、人の事を一番に考えれるし……ただ……いや、人の趣味趣向に口出そうなんて微塵も考えていないんだけどね! もしもっていう事がこの世には存在してて……魔が射したのかなァって……いや疑ってるわけじゃないよ、うん。疑ってるように言っちゃってごめん。ほんと疑って無いよ!」

目を泳がせるグライトにリュウは「ダウト!」と叫んだ。そのままムスッとしてそっぽを向いてしまったリュウに、グライトはあははと乾いた笑い声を上げるだけだ。

「ま、まぁリュウが関係ないならいいんだ! きっとユーノにも色々悩み事があるんだろう。思春期だし、色々あるんだね。力になれないかなァ?」
「……お前が聞きゃあ答えてくれるかもしれねーぞ?」
「何を?」
「悩みだろ! な・や・み!」

キョトンとするグライトに、リュウは「え」と一瞬固まった。

「お前、まさかユーノの気持ちに気付いてないのか? え、露骨なのに? そんな事ってあるか?」

リュウの言葉にグライトは少し考える。気持ち? なんだろう? そこまで考えてやっとハッと閃いたように顔を上げた。

「あぁ、ユーノが俺の事好きって奴? 気付いてるよ」

ハハハと笑うグライトに、今度はリュウがキョトンとする番だ。

「な、え? 気付いてたの?」
「そりゃあれだけ露骨にアピールされて気付かない男はいないよ。俺だって戦争とか平和とか毎日考えてるわけじゃないからね」

じゃあなんで、リュウはそう言いかけて、ふとグライトは困ったように笑っているのに気付く。
その真意を探るためじっと見てくるリュウの視線に、グライトは応じた。

「今はユーノの気持ちに応えられないから。たとえ応えたとしても中途半端な気持ちでしかないと思うよ。だって目の前にもっと重要な問題がわんさかあるからね。そっちに気を取られている間は当分無理かなァ。それに……今私情なんて必要ないでしょ?」

ニコッと笑うグライトは妙に大人びて見える。そんなグライトを前に、リュウは唖然と口を開けたままだ。
いつの間にそんな考えをするようになったのか、そう考えているうちもグライトの話しは続いた。

「全部終わってから、それでもユーノが俺の事好きって言うなら、全力で幸せにしてあげたいけど……今のままじゃあ役不足だし。きっとユーノと戦ったら俺負けるし……女の子って強い男の子に守られたいって思ってるんでしょ? クウゴが言ってたよ! 包容力が鍵だって!」

それで何人もの女の人を——と無邪気に言いだしたグライトに、リュウは呆れた風に肩を落とした。
コロコロと雰囲気が変わる奴だ、そう思ってリュウは声に出して笑う。

「なに、バカにしてんの? 言っとくけど、俺だって旅をしてきた中で色々見てきたんだよ! 皆だけが成長してるわけじゃないんだ! そりゃ今だってリーブルがいなかったらちょっと不安だなァって思ったりとかもするけど……そんなの慣れたし!」

強がってそう言ったグライトに、リュウはニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。

「べっつにぃバカにしてねぇよ。……あーあ……お前そんな事言ってたら何年かかるかわかんねぇぞ。子供は子供らしく自分の事だけ考えてればいいんだよ。前までリュウにぃちゃんなんて言って雛鳥みたいにピーピー鳴きながらついてきてたのにさ」

リュウはそう言った後、思い出したように吹きだした。グライトはそれを見てすね始める。
最後あまりに笑うリュウに、少し腹を立てたグライトは思い切り横腹をつねった。痛がるリュウをグライトはフンッとそっぽを向き、さらに力を強めた。

「いてーよッ! いつの間にこんな子に……!」
「リュウがいない間だよ。何年だっけ? 行方不明生活さぞ色々な経験を積んだ事でしょーねぇ、恋愛面でも」
「う、うるせぇよ! つ、積んでるさ……積んでるともさ! お前も困った事があれば俺を頼ってくれてもいいぜークウゴさんじゃなくて! このリュウにぃちゃんが力になってやるよ!」
「ふぅーん……クウゴさんの方が頼りがいありそうだけどなァ……リュウより」

ムスッとしながら告げられたグライトの言葉に、リュウは悔しそうに奥歯を噛みしめた。

「こうなったら俺がクウゴさんより頼りがいがあるって事思い知らせてやるからなッ!」
「がんばってね〜」
「何だその明らかに興味無いですって態度! ホント、いつの間にこんな意地の悪い弟分に……!!」

本気で落ち込みだすリュウに、グライトは溜まらず笑い声を上げた。
「冗談だよ」そんな事を言いながら、リュウをなだめだすグライト。久しぶりにこんな会話したなァと感傷に浸っている間もなく、リュウはトランプで決着をつけると言いだした。望むところだと好戦的にグライトは身を乗り出す。

数分後、結果的にはグライトの圧勝だったのだが、リュウは納得いかないと騒ぎ出し、最終運転しているセレンさんに怒られた。
そんな二人の雰囲気につられて奥で寝ころんでいたユーノが笑顔を見せる。グライトはそんなユーノに気付き、今度は三人でトランプしようと笑顔を向けた。
こんな日が続けばいいのに、グライトはそう思ってクウゴに頼まれた事を何が何でも成し遂げようと密かに決心した。