複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【8/17更新】 ( No.330 )
- 日時: 2014/08/20 19:40
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)
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パルメキア王国の軍隊になって一日目。クウゴとミキは訓練の厳しさに根を上げそうになっていた。
「軍隊って……こんな厳しいんですね」
「いやぁ俺も久しぶりでついて行けねぇ……」
げっそりと生気を吸い取られたかのような顔をしている二人は今、休憩と言う名のサボりを行っている。
そもそもパルメキア軍に入ったのは女王エレーナを口説くため、こんな厳しい訓練をするためではないのだ。
クウゴとミキは何でもないような風を装いつつエレーナの部屋へと向かっていた。この事がバレたらきっと教官に怒られるだろう。だがそんな事は二人にとってはどうでもいいのだ。
「この先だ」
クウゴの合図と共に少し早足になるミキ。そんなミキを見て自分もペースを速めたクウゴは曲がり角を曲がったところでゴツンと鈍い音を立てて誰かとぶつかった。後ろに続いて歩いていたミキはその巻き沿いを食らってしまった。
「痛いですクウゴさん。突然立ち止まらないでもらえませんか?」
そう言って後ろからミキは苦情を言うが、ぶつかった人物を見たとたん顔をひきつらせる。
「何をしているの、二人とも? 訓練は?」
ぶつかった人物はアルトだった。アルトは単純に疑問に思っているらしい。それを感じ取ったクウゴがとっさの判断で言い訳を考えた。
「俺達は今休憩中なんだ。休憩の合間にエレーナ様と話をしようと思ってな」
そう言ったクウゴにアルトはさっと身構える。前の客間での事を思い出しているのだろう。
厄介だな、ミキがそう思って見るとアルトは訝しげに見返してくる。
「俺も……ついて行く。お前達が何をするか見届ける義務があるから」
「おうじゃあ一緒に行くか。その方が部屋に入れてくれるだろうし」
クウゴはそう軽く言って、アルトの背中を押し慌ててエレーナの部屋へ向かった。ミキは何を慌てることがあるのかと周りを窺うと教官が目にとまった。どうやら二人を探しているらしい。それに気付いたミキも慌ててクウゴ達の背中を追う。
今見つかったら面倒な事になる、そう思いさらに早足になった二人にアルトは首をひねるばかりだ。
部屋へとたどり着いたミキとクウゴはアルトのあいさつの後、静かに挨拶をした。
エレーナは声で人物を特定したのか、振り返り心底嫌な顔をする。
「私に何か用?」
冷たい声は前より幾分も和らいだ気がする。自分の部屋と言う事もあるのだろう。
クウゴはエレーナの前に遠慮なく出て、仰々しく敬礼をした後「少し話をしよう」と切り出した。
エレーナはどうせ戦争の事だろうと思いため息を吐きだす。
「何度来ても構わない。許してあげる。だけど戦争はやめない。……そう言ったでしょ?」
話しは終わりとばかりに自分の作業へ戻るエレーナ。見る限り、国の問題や治安などの資料を片づけているようだ。
仕事するんだ、ミキは失礼ながらもそんな事を思った。同時にエレーナの態度に、隣に立っているクウゴの様子が気になった。ちらりと横目で見るとクウゴは思案している様子で首を斜めに傾けている。
アルトはそんな二人の後ろでジロジロと遠慮なく監視していた。
「……そうか、話しはしたくないんだな。まぁまたくるよ、許可もらったし。後はアルトと二人だけで楽しい時間でもすごしたらいい」
クウゴが下衆な笑顔でアルトを見るとアルトはすぐ顔を赤くして反論を行う。
「僕とエレーナ女王陛下はそんな穢れた関係では無い! からかっているなら、う、受けて立つぞ」
そう言って震えるアルトにクウゴはさらに楽しそうに笑う。
「誰もそんな事言って無いぞ、何を想像したのやら……ってかまだ手ぇだしてねぇの? 男としてどうよ、それ。エレーナ様は美しい。それなのにお前って奴は……一周回って失礼だぞ」
「う、うるさい! そんな目で見ていないと言ってる。エレーナ様が美しく気高いのは十分わかってる! 僕だって……」
そう言って顔をさらに赤くしたアルトは慌てて口を抑えた。
それを傍で聞いていたエレーナはじっとアルトを見る。アルトはその瞳に気圧され、慌てて前に踏み出し、頭を垂れた。
「し、失礼しましたエレーナ女王陛下! けしてそんな目で見ているわけでは……ただ、僕も一人の男でして……申し訳ございません!」
そんな事を言うアルトをクウゴは後ろで笑いながら見ていた。見てみろよ、そう小さく耳打ちしたクウゴにミキは足を踏むと言う返答を行った。
「いてぇ」
「クウゴ、からかうのもほどほどにして下さいよ」
ミキはそう言って横目にクウゴを睨むが、クウゴはお茶らけた様子で相手にしない。
はぁっとため息を吐きだすミキは早々に諦めたらしい。アルトの災難をただただ憐れむだけだ。
アルトは一通り謝った後、クウゴに向かって「部屋を出るぞ」と引っ張って行った。それを見送るエレーナは何処か物足りないようなそんな目をしていたような気もしない事は無い。
クウゴはそんなエレーナをまじまじと見て、エレーナから睨みを貰った。
部屋の外に出たクウゴとミキは、アルトに睨みつけられる。アルトはまだ顔が紅い。
「お前達は僕をからかうためにここまで連れてきたのか!? もしエレーナ女王陛下に嫌われでもしたら……僕はどうしていいか……!! もうこう言ったことはやめてほしい!」
強くそう言うアルトは、必死で気弱な自分を隠そうとして、むしろ浮き彫りだっている。
クウゴはそんな彼の本性を見抜いてか、頷きながらも反省の色を見せない。
「アルト君よぉ最後のエレーナ様の顔見たか? 寂しそうにしてたなァ。あれ完全にお前が思った様な事、思ってるはずだぜ」
クウゴはそんな事を言ってアルトを見る。その姿はまるでタチの悪い不良のようで、ミキはクウゴの横腹をとりあえず殴っておいた。
「いてぇよ。おいミキ、さっきから何すんだよー喧嘩なら後の訓練で買うぞ」
「目的を忘れてはなりませんよクウゴ。貴方がその調子じゃエレーナ様は口もきいてくれなくなるでしょう? それは説得以前の問題です」
ミキから説教を食らったクウゴは少し落ち込むみ、腹をさすりながら「悪い」と短く謝った。だが、まだ好奇の色は隠していない。アルトはそんな視線に気づき、涙目になって睨みつけている。最悪だ、そんな事を考えているのだろう。
この後、二人は教官に見つかりみっちりお叱りを受けた。アルトはその二人の様子を横目に「ざまぁみろ」と心の中で小さく毒づいたのは至極当然のことだった。