複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/20更新】 ( No.331 )
日時: 2014/08/20 21:04
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: n5JLvXgp)

 それから五日目、日差しのいい日だ。穏やかな時間が流れている。ミキとクウゴは訓練にも慣れて、最近は余裕を見せる様になった。
速い成長だと教官に声をかけられ、すっかり気分の良い二人はまたエレーナの元へ向かっていた。エレーナの元にはここ最近通い詰めている。とはいえ、エレーナも忙しい身、城に居ない日も多かった。

アルトはあれからさらにエレーナの周りを固める様になった。心配しているのか、クウゴ達の姿を見つけると、駆けより監視するぐらいだ。
クウゴとミキはそんなアルトをたいして気にも留めない。今日も今日とてエレーナに和解を申し出るのだった。

「さて着きましたよ。ここへ来るのも慣れてきましたね」
「そうだなぁ。アルトの睨む目にも慣れてきたし、エレーナ様の冷たい声にも慣れてきた」
「クウゴ、一応アルトさんは僕達の上の立場なので、心得て下さいよ」
「わかってるってー」

クウゴはそんな事を言いながら数歩後ろを歩いているアルトを見た。
アルトは先ほどの会話を聞き、額に青筋を浮かべていたのだが、この二人とここで争う気も無く、ただ監視に徹した。

「エレーナ様〜失礼します」

クウゴは軽くそう言って扉に手をかける。扉は少し重いのだが、簡単に開いた。
扉を通り抜け、その奥には相変わらず冷淡な雰囲気を醸し出すエレーナがいた。どうやら黒い翼の手入れをしていたらしい。飛ばしきった黒い翼は部屋の隅々まで達すほど大きかった。

「相変わらず綺麗な翼だな」
「うるさい」

クウゴが挨拶代りに褒めると、エレーナはつんとそっぽを向いた。アルトはそんな二人の雰囲気を、不機嫌に眺める。所詮嫉妬と言う奴だろう。ミキはアルトを観察しながらそんな事を思っていた。
暫く世間話をし、クウゴは話しを切り出した。

「突然だが、俺はここに秘宝なんてないと結論付けた」

理由を聞きたいだろう? そんな事を言わんとばかりにエレーナに視線を送る。
エレーナは興味なさげに一瞥しただけだ。クウゴはそんなエレーナに証拠だと言い、何か紙を突き付ける。
エレーナはそれを手にとり、しばらく眺めた。

「これ、調べたの?」
「まぁな」
「暇人。でもこれだけじゃあ証拠にならない」

クウゴの渡した紙にはこの城を訪れた人の名前がズラリと書かれていた。職業や年齢、住所など個人情報じみた物も全て印されている。手書らしく、筆圧や文字の太さは様々だ。
クウゴはこの紙を奪い返し、フンと笑って読み上げ始めた。それが終わるころ、クウゴはまた顔を上げる。

「俺達は一応筆鑑定とかもしてみたんだよ。じゃあ驚く事に一人の人物が異様に多く存在していた。そいつは来るたび名前を変えて、書き方も変えているが、癖が残っていた。職業は決まって商人だ。商人は商談の話と言えば多少警戒が薄れるからだろうな」
「何が言いたいの?」
「わからないのか? 俺が言いたいのはこいつがスパイかそれとも、刺客か……それともこの戦争の根源に近い人物かってことだよ」

そう言ったクウゴにエレーナは鼻で笑う。

「バカ。そんな重要人物が何故正門から入ってくるの? 普通、皆が寝静まった夜とかに忍び込んでくるでしょ?」

心底バカにしていると言った様子のエレーナだが、相変わらず表情筋がピクリとも動かない。
エレーナの言葉を待ってましたとばかりに、「それはどうかな」とクウゴが言葉を続けた。

「俺は地図も調べた。この城、普通に見えて夜中にはレーザーをいたる所に張り巡らせている上、警備兵もピンピンしてやがる。壁も高い、その高い壁の上には兵士が目をギラギラさせて四方八方に4,5人居やがった。一応このパルメキア王国が戦争の真っただ中だと言う事、ドラファーの奴らがいつ夜襲をかけるかわからない、そんな状況で警備を怠るはず無いだろ? そんな要塞にどう忍びこめって言うんだ。見てたらわかる。穴はない。セレンがこの作戦を立てたんだろ? あいつは綿密な作戦を立てるのがうまいからな」

現にクウゴは一度夜中逃げ出そうとしてみたのだそうだ。クウゴの能力を使ってでもこの城からは逃れられなかった。入るのはもっと困難だろう。
クウゴは続けた。

「こんな要塞にこの頻度で忍び込もうとするバカはいねぇよ。それなら朝や昼どきに商人に扮して訪れる方がよっぽど楽だ。客間に通されれば防音の壁が会話を閉じ込める。だが毎回同じ名前で入ってくれば自ずとリスクは高くなる。だから偽名や適当な住所を使うんだ。さて、ここまで勝手に憶測で話したんだが……間違っている所はあるか?」

尋ねるクウゴにエレーナはぐっと唇をかみしめた。

「……それと秘宝とどう関係あるって言うの?」

その質問にもクウゴは得意気に答えた。

「もしかしたらこの商人、ドラファー帝国にも通じているのかもしれねぇよなって話。例えばパルメキアに秘宝があるとドラファーに流しておけば、欲の強いドラファーはこのパルメキアを攻めるだろう。弱肉強食、あっちじゃ人殺しなんて日常茶飯事だ。こんな平和なパルメキアなんて一捻りと考えたんだろうなぁ」
「だけど私達がその申し出を確実に受けるなんて思わないでしょ?」
「そんなの簡単だ。必然にするにはこちらにも利益を申し出ればいい。さしずめ商人は戦争を受ければ、こちらに本当の秘宝のありかを流すと約束したんじゃないのか? 一見疑わしいが、お前達は優秀だ。ドラファー帝国の戦略や戦闘法を学んだ上、数か月で済ませれば、後は多少のリスクを負う覚悟で和解をすればいいと考えていた。損失は最小限に、防衛に励む。そうすれば秘宝がこちらの手に入る。なおかつ、それをドラファーに売ればもっと儲かる。……だが、お前は違った」

クウゴはワントーン落としてエレーナを指差す。

「先代の王……名前は知らんがそいつにお前は恩を感じている。だが、王は戦争に、ドラファー帝国の兵士に殺された。お前は憎いんじゃないのか? ドラファー帝国の全てが。だから壊そうと考えた。それも徹底的に……だ」

そこまで言いきったクウゴはチラリとエレーナの顔色を窺う。エレーナの顔はおぞましく歪んでいた。
やっぱりな、クウゴはそう言って「間違って無いだろ」とミキに視線を送る。意見が対立していたらしい。ミキは眉をハの字にして肩を落とした。

「……調べたの……? 私の過去を」

静かに響くエレーナの声。アルトはそんなエレーナの傍に駆け寄り、落ちつかそうと肩に触れたが、エレーナはアルトを睨む。アルトはその貫くような視線で怖じ気づき、一歩下がった。

「お前の過去なんて調べてない。ただ単純に戦争を終わらせない理由を探っていたら行きついた結論だ。要は俺の憶測。あてずっぽ。だから辻褄の合わない所や、憶測の過ぎている所はある。だがお前は否定しなかった。それって肯定と言う意味にとっていいんだろ?」

ふふんと鼻を鳴らすクウゴは、満足したのかニコニコと笑っている。対照的にエレーナの顔は怒りで染まっていた。
それに追い打ちをかける様にクウゴは小馬鹿にした様子でエレーナを見る。

「お前の私情で多くの犠牲者が生まれている。我儘もほどほどにしろよ、エレーナ女王陛下」

最後につけたされたクウゴの言葉に、とうとうエレーナは怒りが頂点に達したらしい。どこに置いていたのか刀を抜き、クウゴに斬りかかってきていた。