複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【8/20更新】 ( No.336 )
- 日時: 2014/08/25 21:19
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4ib6ORSN)
第三十八話 最前線基地
セレンのキャンピングカーにゆられてグライト達は1週間足らずでドラファー帝国の領地へとたどり着いていた。この先にドラファー帝国軍の最前線基地があるらしい。
最前線基地は難攻不落と言われていて、砦の形をしている。パルメキア王国軍は何度もここに進行してきたのだが、そのたび大敗させられていると言う。
この砦の周りには堀や城壁が作られており、中に入ったとしても罠等が邪魔して真っ直ぐ進めることは無い。
グライトはそんな所にどう入って行くのかと尋ねた。
「お前達はエターナル王国の王と女王通行許可証をもらったんだろ? ならばそれを見せればいい。だが私は行けない。顔が知られているからな。ほら、そこで降ろしてやるから、歩けばすぐ見えてくる城壁をぐるっと回れば裏口が出てくる。そこでそれを見せれば入れてもらえると思うぞ」
そう言われてグライトはやっともらった手紙の存在に気がつく。鞄を探ればそれは出てきた。
セレンはそれを見てほほ笑むと、城壁の近くで降ろしてくれた。そのままセレンのキャンピングカーは来た道を戻る。グライト達は力の限りお礼を告げると、言われた通りぐるっと歩いてみることにした。
探していた物はすぐ見つかった。鉄の塊の様なそれはグライト達を圧迫するように天へと聳え立つ。
三人は感嘆の声を上げていると、空から言葉が降ってきた。
「お前達はなんだ?」
グライト達は通行証である手紙を見せながら名乗りを上げる。
その声に反応し、門番と思わしき大きな魔族の男が二人空から降りてくる。背中には大きな羽があり、それぞれ頭は牛と馬だ。さしずめ悪魔と言ったところだろう。
そんな面持ちに一瞬怯んだグライト達だが、手紙を差し出し説明すると、魔族の男の片割れが城壁を悠々とび越え中へと確認をとりに行く。
大人しく待っていると鉄の塊が地に落ちた。重々しい音を立てながら地面につくそれの奥から、きっとこの基地の将軍であろう男が現れる。黒い大鎧に兜をかぶったその男は、鉄の扉と同じぐらい重そうな口を開いた。
「そなた等は何用でかの偉大なゼルフ・ニーグラス様を尋ねてきた?」
重々しい口調に遅れをとりながらグライト達はたどたどしい口調で対応する。
「——ふむ、だとするとそなた等はゼルフ様に戦争について話しに来たと言う事だな?」
「えぇ、まぁ」
グライトがそう肯定するや否や、将軍の男は鋭い眼光をさらに鋭く研ぎ澄まし、重そうな両手剣を抜いた。
「そうはさせぬ。お主ら、パルメキアの差し金だな? あのエターナル王国なんて信用するに足らん。あいつらが寝返ったか、それとも、この手紙自体が巧妙な偽物か。この際どうでもよい! ここで打ち取ってくれる!」
将軍はそう言ってグライト達に斬りかかってきた。将軍の言葉を合図にその後ろで控えていた兵士たちも弾ける様に飛びかかってくる。
グライト達は飛びかかってきた魔族たちの剣をうまくかわしながら、戦闘態勢を整えた。リュウは雷を纏った双剣を、ユーノは鍵爪を、グライトは青く光る剣をとりだした。
三人は悪態をつく間もなく、次から次に飛びかかってくる魔族の者達を相手する。だがタフな魔族の事だ。どう薙ぎ払おうとも一向に諦める気が無い。
「殺しちゃだめだよ、二人とも!」
「わかってる! でも、体力がもたねぇぞ!!」
「ボクもリュウの意見に同意。どうするの!?」
三人はそう叫びながらも手を休めない。
「お前等! 何をガキ三人にてこずっている! ゼルフ様にこの騒ぎを聞きつけられる前に片をつけるぞ!」
将軍の叫びに魔族の兵士は士気を上げた。さらに強力な力で襲い来る数十名の兵士。グライト達は足や腕に傷を作りながらも、どうにかこうにか策をめぐらそうと頭を捻る。だが良案は浮かぶはずもなく、敵から自分を守るので精一杯になってしまった。
◆
そんな喧騒が何分続いただろう。あたりには脱落する魔人も増えてきた。グライト達もそうだ。今にも足から崩れ落ちそうになりながらも、どうにかこうにか生きようと足掻く。
三人のうち、ユーノがとうとう態勢を崩した。
「ユーノ!」
慌ててかばうグライト。隙をついてやってきた魔人の剣がグライトの背中につきささる。
流石に体力や気力も落ちてきている今の状態で後ろから突き刺されたとなると、さすがにグライトは走馬灯を見た。
ユーノはそんなグライトに悲鳴に近い声を上げた。リュウもこちらへ駆け寄ろうと油断をした結果、わき腹辺りを斬りつけられ、とうとうその場でバランスを崩し倒れてしまう。
「討ち取ったりィ!!」
将軍はそう言って素早くユーノに近づいて行くと無慈悲に剣を振り下ろそうと体を捻る。——そこに真っ黒な鎧兜を纏った威圧感を放つ男が現れた。
その威圧感は周りに立っている魔人たちを凍らせるのに十分な存在感を放っている。黒い鎧かぶとの男はそんな魔人の真ん中を悠々と歩く。
「殺すな」
冷え切った声で呟くように言うその男に、斬りかかっていた将軍は思わず体を硬直させる。
「……ぜ、ゼルフ様……しかし、この者どもは……」
今まであれだけ威勢を張っていたと言うのに、将軍はとたんに縮こまり、まごつくようにそう言った。
「ベルガン・ローレンス将軍。お前は俺の言う事が聞けぬと言うのか?」
威圧を孕んだその声は地を這うように、聞くものすべてを緊張で飲み込む。
ベルガンと言われた将軍の男はその声色にさらに小さくなる。そんなベルガンの様子を見て、ゼルフは鼻で笑った。
「おいガキ三人。俺がお前達の求めていたゼルフ・ニーグラスだ。俺に用があるんだろう? エターナル王国第一王女、リリー・エルシリア王女から話しは窺っている。さっさと歩け。俺に続くんだ」
ゼルフはそう言って気を失っているグライトを乱暴に引き摺ると、真っ青な顔をしていたユーノと、足をついて唖然としているリュウに目配らせをする。
二人は瀕死の体を引き摺るように立ちあがると、言われた通りゼルフの後に続いた。ゼルフはそれを見て満足げに口の端を上げると振り返らず歩いて行く。
ゼルフがその場から居なくなると共に魔人達は将軍、ベルガンに駆け寄った。指示を待っているようだ。
ベルガンは悔しそうに唇をかむと魔人達にさっさと中に入れと怒鳴る。魔人達は大人しく砦へと帰って行った。
それを遠くで隠れて見て居たセレンは今度こそ静かに車を走らせ、自国へと帰国した。