複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【8/25更新】 ( No.339 )
日時: 2014/08/30 22:27
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4ib6ORSN)

第三十九話 ゼルフ・ニーグラスと言う男

 ゼルフに連れられて城へと訪れた三人。グライトは途中で目を覚まし、自力で歩けると見栄を張ったので歩いている。それでもまだ血は流れているし、ユーノの応急処置で多少は軽減されたものの体は重い。
そんなグライトを心配するように寄り添うユーノ。リュウはそんな二人をかばうようにゼルフのすぐ後ろを歩いていた。
このゼルフと言う男は噂では残虐で人を人とも思わないそんな奴なのだが、実際はどうなのだろう? エターナル王国やパルメキア王国のように、実はいい人なんて言う淡い期待をまだ持っているグライトだが、そうではなさそうだ。
彼から放たれる異様な威圧と、命令に逆らえば殺すと言う意志が見え隠れする様子がうかがえる。
国の様子も重苦しく、常に後ろ暗い何かがついているような雰囲気だった。
グライトはそんな国の様子に吐き気を覚えたのだが、ここで怖じ気づいては居られない。

 例の如く客間へと案内された三人。無表情な召使に運ばれてきた紅茶に口をつけていると、再びゼルフが現れた。
ゼルフは優雅な足取りでグライト達の前の席に腰をかけると、話しを促すように視線をよこした。
グライトは蛇に睨まれた様に息を飲んだ。だが自分の使命を改めて心の中で確認し、前のゼルフに負けない様強がりな視線を送る。

「お……僕達は、旅人です。名前は……」
「右からユーノ、グライト、リュウ……。そんな情報はいらない。把握済みだ。俺は先ほど名乗ったからもう名乗らない。さて、面倒な建前は全て省き、速やかに要求を告げるんだ。俺は暇じゃないんだ」

冷たく響くゼルフの声は本当に興味がないと言った雰囲気を漂わせている。
異様な緊張に苛まれたグライトはそこでぐっと言葉を詰まらせた。本当にこの人に言ったところで戦争が止まるんだろうか? クウゴは出来ると言っていたけど、正直ゼルフを目の前にしてその意思が揺らぐ。
そんなグライトの迷いに気付いたゼルフはフンと鼻を鳴らし、言葉を待たずして口を開いた。

「お前達の目的は戦争の終結、和解同盟。パルメキアにも行ってきたのだろう? さっきセレン・ルシェレルの気を感じた。あいつの車に乗ってわざわざここまで御足労ありがとう。だが、俺は戦争を止めない。知っているだろう? 俺達の目的を……」

ゼルフは鈍く黒い瞳を光らせた。野望を秘めたその黒は、見ていると底なし沼にはまったような焦燥を覚える。
ゼルフはグライトの言葉を待つ。グライトは彼らの目的を知っていたので、その要望にこたえた。

「秘宝。パルメキア王国にある秘宝を狙っている」
「正解だ」
「でも……」

そう言いかけたグライトにゼルフはそれ以上言うなと手を挙げる。思わず黙ってしまったグライトはなんだか負けたような気になり、眉間にしわを寄せた。

「パルメキアには秘宝が無いと言いたいんだろ? そんな事、俺が想定していないとでも思ったのか? 愚かしい……。お前、グライトだったな、お前は秘宝について詳しく知っている。俺の見る限り、先ほど使った青い剣、あれは秘宝の力だろう?」

黙っているグライトを見て、肯定と捉えたゼルフは続けた。

「お前は他にも二つ持っているな? 気配を感じる。それをどこで手に入れた?」
「……教えない」

やっと絞り出した声は緊張でカラカラだった。ゼルフは反抗的なグライトの態度に、不機嫌に眉を歪めた。

「……教えなければ殺すと言ってもか?」

一層声が低くなったゼルフ。傍で聞いていたリュウやユーノは一言も発せずにただただ難しい顔をしているだけだ。

「これはリーブルと俺の約束だから、だから教えられない。……それに貴方は神でさえも殺しそうだから」

そう言ったグライトの声は弱々しくふるえていた。ゼルフはそれでもグライトの態度が面白いとばかりに口角をあげる。

「俺が神殺しをすると……? バカバカしい。でもまぁそれで秘宝が手に入るなら神でも物の怪でも殺してしんぜよう。それで目的が達成されるのなら……」

重々しい口調に本気を感じさせる。
グライトは絶対教えないと心に誓った。たとえ殺されようが、この人に言えば全てが悪い方向へ進んでしまうような気がした。
それだけ彼の纏っているオーラは負にまみれていた。一体どのような人生と価値観を持てばこうなるのか、グライトは理解の範疇を越えた人物に、どう対応すれば正解なのかわからなかった。
それでも話し合いをしなければ、戦争をどうにか止めなければ後々恐ろしい未来が待ち受けている。そんな気がしてならないのだ。