複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【8/25更新】 ( No.340 )
- 日時: 2014/09/01 22:18
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: T4clHayF)
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しばらく沈黙が続いた客間。その口火を切ったのはグライトだ。
「戦争は、どうしても止めないの? 俺が出来る事なら何でもやる。だから、戦争を止めてくれないか? 戦争でパルメキア王国やその他の王国、果ては違う大陸まで迷惑を被っていると知っても無理なの?」
懇願するように言うグライトに、ゼルフは考える。そしてあくどい笑みになるとその条件を突き出した。
「お前の持っている秘宝をすべて俺にくれると言うのなら、承諾してやらない事もない」
それはできないだろう? そう続けるゼルフに、グライトは顔をしかめる。
「どうしてそこまでして秘宝を狙うの? 理由を聞かせてよ。理由によっちゃあ渡す」
そう言うグライトに、ゼルフは「いいだろう」と話しを始めた。
「俺が秘宝の存在を知ったのは齢にして6歳のころ。丁度父上に帝王学をたたき込まれていた時。その時俺は帝王学と共に戦闘も学んでいた。まぁ当然俺は優秀だったが、それ以上を目指すようになったんだ。それを父上に告げると、父上は喜んで滅多に見せない笑顔をあの時一度だけ見せてくれた。俺は強くなるため、人より優位な立場から全てを見通すための力を欲し、探した。その時だ。一冊の本で秘宝の存在を知った」
ゼルフはそう言って一息ついた。いつの間にか運ばれてきていた苦そうなコーヒーを口に含み、意味深な笑顔で話しを進めた。
「知りえた場所はドラファー帝国にある図書館だ。何でも秘宝は力を与えてくれると、神と同等の力をだ。俺はそれを欲して秘宝を探した。だがそんなもの簡単に見つかるわけもない。そんなある日、とある人物が情報をくれたんだ。そいつは名を名乗らず、情報屋とだけ告げて俺に秘宝のありかを教えてくれた。それがパルメキア王国だった。……と言っても、実際あるなんてこれっぽっちも信じてない。ただ、チャンスだと思った。パルメキア王国をとりこめばこのゴンドラ大陸を正式ではないが、支配した事になる。その上パルメキア王国をとりいれれば俺の捜査範囲も広げられる。そう考え、戦争を仕掛けた。あわよくば本当にあの国に秘宝があるのなら手に入れ、俺の足がかりにしてやろうと目論んだわけだ」
以上、そう言って興味無くグライト達を一瞥する。「さてどうする?」そう問いかけるゼルフは見透かした様に目を細めた。
「私利私欲のため秘宝を探していると言う事でいいの?」
グライトは眉根を寄せて心底毛嫌いするようにゼルフを見上げた。ゼルフはそんなグライトを鼻で笑い、肯定する。
「そんな事のために秘宝を使えば世界が本当におかしくなる。黒雲だけじゃない。もしかしたら影ノ皇も……その事はわかっているの?」
「当然だ。だが俺がもう一度世界を作ってやる。俺の世界を」
そう告げるゼルフの瞳は黒く渦巻いていた。
それをひとしきり睨んだグライトは哀しそうに顔を伏せた後、わなわなと肩を震えさせた。
「秘宝は……秘宝は、そんな事のためにあるものじゃない……!」
バンッと机を思い切りたたくグライト。振動のおかげで零れたコーヒーを見てゼルフは不愉快そうに眉根を寄せる。
すぐさまそれを片づけさせるゼルフ。その間もグライトの怒りは収まらない。
「秘宝は世界を均衡に保つためソレイユを作った神が人に唯一捧げる力だ。けっして私利私欲を満たすためにあるものじゃない。神から見ればお前の欲望なんてしょうもないもの。そんな小さな事のために秘宝を使うなんて言語道断。——……そもそも秘宝にはあんた求めるような力は無い」
グライトはそこまで一気に捲し立てて落ち着いたのか、ふうっと一息吐いた。
ゼルフはそれを一言一句聞き逃さず、無表情に聞いていた。そして最後の言葉にピクリと眉を動かす。
「……やはり何か知っているみたいだな?」
にやりと笑うゼルフ。グライトはしまったと慌てて目を泳がせる。
「教えろ。しがない村人、今は旅人か? まぁそんな事はどうでもいい。グライト教えろ。秘宝はどのようなものだ? どう言った力がある? どこにある?」
興味を示したゼルフ。逃がさないと言った様子でじっとグライトを見る。
グライトは「教えない」と先ほどの言葉を繰り返した。
ゼルフはそんなグライトの強情な態度にしびれを切らし、腰にかけていた魔剣をとりだす。流れるような動作でそれをグライトの首へ突き立てた。
「教えるか、死ぬか、ここで選べ。俺はこの国の王だ。お前の大切な仲間も死ぬまで拷問にかける。何か知っているかも知れないからな。それが嫌だと言うのなら、大人しく口を開く事だ、この愚民が」
ゼルフはそう言って剣をさらに突き付けた。グライトの首からは血が静かに流れてくる。
ユーリとリュウは慌てて叫んだ後、それぞれの得物を持ってゼルフに飛びかかるが、剣の一振りでその場へ崩れ落ちることになる。
大きな音を立てて床に倒れた二人を見てグライトは悔しそうに唇をかむ。
「ユーリ! リュウ!!」
二人に駆け寄ろうとするが、それは拒まれた。首につき立てられている魔剣のおかげで動けなかったのだ。
「さぁどうする? 大切なお仲間様はおねんねしてしまったようだが?」
意地悪く告げるゼルフにグライトは苛立ちを隠せない。
「教える。教えるから、その剣をどけてくれないか?」
怯えたようなグライトの申し出に、ゼルフはフンと鼻を鳴らし魔剣をどけた。その隙を狙い、グライトは青い剣を振り上げた。
「チッ……!」
舌打ちは部屋に響く。どちらの舌打ちかは分からない。
鈍い音を立て、混じり合う正反対の性質を持った剣。それは輝きと共に大きな爆発を響かせた。
客間の一室は半壊した。爆風と共に外へ放り出されたグライトとゼルフの身体。起き上がったユーノとリュウはそれを見て驚きの声と悲鳴を上げた。
二人はこの高さから落ちれば死ぬだろう。
だが二人はまったく臆さず、空中で剣を振り回す。気を抜けばやられる、そんな気迫が感じられた。