複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【9/1更新】 ( No.344 )
- 日時: 2014/09/02 22:26
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: T4clHayF)
第四十一話 あの場所
——ここはどこだ?
グライトは意識が混濁する中、目を開く。
見慣れない真っ黒な洞窟は、いつかの時の洞窟のようで——慌てて立ち上がったグライトのすぐ傍を、見知った彼が通り過ぎて行った。
「情けない」
冷たい言葉は突き刺すようにグライトを貫く。
「お前は甘い」
続けて発した言葉も真っ直ぐとグライトを刺してくる。
グライトはその声に聞き覚えがあった。彼の名は「影」。ある日突然現れたグライトの闇の心。
あの時、確かに倒したはずなのに、彼はなぜまだ自分の中に存在しているのだろうか? グライトは首を捻る。
「それはあれだ。私がお前の影だからだ」
影はグライトの心を簡単に読み取り、にこりと同じ顔で笑った。
相変わらず自分と同じ顔に笑いかけられたり、話しかけられたりする事に慣れない。グライトは苦い顔をするばかりだった。
「せっかく私が力を貸してやろうとしているのに……いつもお前は拒む。結局、一度しか私を使ってくれなかった」
影はグライトを責め立てるようにそう言った。影の言葉にはいつも精神をグラつかせられる。きっと影が自分の精神に巣食っているからだろう。
「それは君の力をうまく扱えないからだよ。あの時、意識が飛ばなかったのは運だ。むやみやたらに君の力を借りていれば、きっと俺は居なくなる」
グライトはうろうろと漂う影の腕を掴んだ。影はにやっと笑って「あたりまえだ」と答える。
「私はいつでもお前を乗っ取ろうとしているんだから……当然だ。これからも私を使わない気でいるだろう?」
「当たり前だよ」
「……それでお前は生きていけるのかな?」
クツクツと笑う影はグライトの心をまたグラつかせた。
「これからお前は沢山の血を見ることになるだろう。その時、ゼルフの様な対応で大丈夫なのか? 土壇場で敵の弱点を発見することなんてほとんどない。……相変わらずお前は運に頼り過ぎている」
厳しい口調で危険を促す影。グライトはまた揺らぐ。グラグラ、グラグラと揺れる心は動揺となってグライトの表情に現れる。
影はそんなグライトを見て愉快に笑う。
「どうだ、共生しないか? 私とお前で手を組むんだ。どちらにも利益がある様に……どちらにも得がある様に……」
グライトは眉根を寄せた。影の言葉はいささか信じられない。なぜなら、彼はグライトの闇なのだから。濃い光にはそれだけ濃い闇がまとわりつく。それをこの旅で学んだ。光が当たる場所が多ければ多いと同時に、闇も同じ様に増えて行くのだ。
「疑わしい……そんな目をしている。でも大丈夫。私は今後一切お前の体を乗っ取らないと約束しよう。お前は私の力を使うと約束しろ。発散させなければまた、私とお前で戦う事になるだろう。その時きっと……私はお前の力よりはるかに凌駕しているはずだ。なぜなら、今まで使わなかった分の蓄積があるからだ」
よく考えるんだ。影はそう言って消えて行く。気付けば足元にはリーブルが居た。影はどうやらリーブルの姿をも映せるようになったらしい。いや、前からだっただろうか? グライトは足元のリーブルを撫でながら再び目を閉じた。今度起きた時にはきっと元の世界へ戻っているはずだと願って。