複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【9/1更新】 ( No.345 )
日時: 2014/09/02 22:35
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: T4clHayF)

第四十二話 戦後

 目を覚ましたグライトの視界に広がったのは病院の白い天井。

「グライト!! よかった……また無茶して……ボク心配したんだからね!!」

顔を覗き込んでいたユーノはそう言って大きな瞳から大粒の涙を一筋流した。
それからリュウもベッドに近寄って、グライトの顔を覗きこむ。

「ここはエターナル王国だ。ドラファー帝国のすぐ隣にある、一番初めに尋ねた国だ。もうすぐクウゴさんやミキさんも来る。あれからドラファー帝国とパルメキア王国の戦争は終わった。あっちでクウゴさん達が頑張ってくれたんだ。もちろんお前の頑張りも伝えた」

リュウはそう言って快活な笑みを浮かべる。
グライトはその言葉を聞き、安堵のため息がこぼれた。ため息と共に背中や肩の傷も痛んだが、そんなものは気にならなかった。戦争が終わったんだ。その気持ちだけで満たされる。

「今は両国ともに復興と新たな目標を立てることに勤しんでいるらしいぞ。あんなに長い戦争をしていたのに、終わるとあっけないもんだな」
「まぁね……ってそんな事言っている間にクウゴさん達着たよ! グライト、ベッド起こしてあげるから大人しくしててね?」

ユーノはそう言ってベッドの端にあるレバーを押した。グライトの寝ころんでいるベッドはゆっくり、刺激を与えないようにそっと動く。
その時病室の扉が開くのが視界に入った。クウゴとミキだ。彼らは手土産を持って何かを話しながら入ってきた。グライトの顔を見るなりほっと安堵する二人は誰の目にも見て取れる。

「グライト大丈夫か? かなり無茶したようだが……まぁ数カ月、速くても数週間は病院暮らしらしいぞ」
「傷は開いていませんか? 痛む所は? 何かあればすぐ言って下さいね、ナースコールを押しますので」

入ってきてそうそう相変わらずの二人に、グライトは笑みを浮かべた。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。ところで二人ともパルメキア王国の軍隊に入ってたんだよね? 抜けてきて大丈夫なの?」

グライトは素朴な疑問を投げかけた。
クウゴとミキは声をそろえて聞いてくれと不満を浮かべる。

「あそこは地獄ですよ。教官はいつも怒っているし……稀に褒めてくれるんですけど。それに仲間の軍人達はこぞって昇進する事しか頭に無い。息苦しくてしかたがありませんでした」
「そうそうなんかいっつも俺達が教官に怒られるんだよな。理不尽すぎる。俺達はあの中でぶっちぎりに成績よかったのによぉ」

その話をグライトは相槌を打ちながら聞いていた。二人から聞く軍隊は人間関係が案外面白く、気付けば30分も回っていた。

「——ってなわけで、俺達は軍隊を抜けてきた。まぁ戦争が終わった瞬間からもう興味ない事だし。……あ、そうそうまた旅に出ようかと思ってるんだ」

クウゴは思い出したようにそう言った。

「此処での戦争は終わったけどさ、まだまだ世界では小規模な争いが多い。あくまで俺達の目的は戦争を世界から無くす事だからな。他の所を見て、また首突っ込んでくる。そんで俺達のやり方で止めるんだ。あんなもの、あってはならないものだからな」

クウゴの瞳は真剣みを帯びている。ミキもそれを聞き、頷いていた。

「またいずれどこかで会うかもしれません。その時は協力してもらうかもしれないので、よろしくお願いしますね」

にこりと愛想よく笑ったミキは「ね」とクウゴに目配らせを送った。クウゴは「そうだな」と呟いてよろしくと付け足した。

「道中は気をつけてね。俺に出来る事あるなら喜んで協力するよ」
「ボクも! 今回は役に立てなかったけど、次はもっと強くなって皆を守ってあげる!」
「俺も。実力をつけてちょっとでも役に立てるようがんばるよ」

グライト達はそう言って三者三様に笑った。クウゴとミキは「それは心強い」とおどけたように言ってクスクスと笑い始める。
それから病室が騒がしくなってきた頃、ナースがやってきた。「静かに」と厳しい口調で言った後、グライトの検査を始める。クウゴとミキはその時出て行った。次の土地に行くのに、休んでばかりもいられないと言っていた。
ユーノとリュウもグライトが目覚めた事により、気が抜けたのかうとうととし始める。結局その日は皆で寝た。規則正しい寝息を聞いたナースは、そんな三人に一枚ずつブランケットをかけてやるのだった。