複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【9/2更新】 ( No.349 )
- 日時: 2014/09/08 21:52
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: kAWEuRKf)
EPISODE1 生命の息吹
朗らかな太陽の元、うつらうつらと船を漕ぐ一人の少女。手に持っている物語は力無く地面に落ちた。
「……ハッ」
少女はその衝撃で目を覚ます。丁度その時遠くからもう一人の少女が、可愛いワンピースと艶やかな黒髪を慌ただしく乱しながら走ってきた。
「ちょっとエアリィ!! 何してるの!? こんな時に!」
「……ルナ? どんな時?」
「寝惚けないでよ! とにかくこっち来て!!」
ルナは慌ただしくエアリィを引っ張り、森の奥へと走って行った。
◆
森の奥、開けたところにその元凶はあった。
「なに……これ?」
エアリィの視界を覆ったのは斬り倒された木、木、木——…………。
今や残骸となったそれは確実に人の手により倒されたものだ。
「……誰が?」
驚きもつかの間、地面を割るような大きな音がエアリィとルナの鼓膜を揺らす。
「おい何をしている!! 怪しい奴等め! 名を名乗れ」
耳を割るような音とともに現れたのは一人の男。兵士のような格好をしている。見た所、大きな国の兵士のようだ。
体格の大きな男はエアリィとルナを睨みつけ、銃を突きつける。
「それはこっちのセリフよ!! ここをどうするつもり!? 私達の森が、こんなに木を切り倒したら腐ってしまうわ!!」
喰ってかかるルナに対し、エアリィは拳を握り震わせていた。同じ顔の双子なのに怒りの表し方はそれぞれ全く違う。
そんな二人などお構いなしに兵士は告げる。
「ここは今からグレイト王国の土地になる。我々がどうしようが勝手だろう? お前達はなんだ? さっさとこの土地から出て行ってもらおう」
フンと鼻を鳴らしそう言う兵士にルナは歯ぎしりを鳴らす。そんなルナを落ち着かせようとエアリィは肩を叩いた。
ルナをそのまま後ろへと引っ張ったエアリィは冷静に兵士の男を見上げる。
「……私達、この森……この森にある神木を守っている妖精。貴方達はまずダリダン様に挨拶と献上品、そして許可を頂かなければならない」
エアリィの言葉を聞いた兵士は大きな声で笑い出した。
何がそんなにおかしいのだろうかとエアリィは首を傾げる。
「ダリダン? 守護神のダリダンか? そんな者、この世に存在しているのか? 姿を一切現さないのにそんな面倒な事するわけないだろう。神木とやらは残してやるからさっさと立ち去れ。森の奥へ帰るがいい妖精共」
そう言った兵士はさらにバカにしたように笑う。
「ダリダン様はきっと力を無くされたのだよ。そうでなければ俺達に天罰でもくださるだろうに。黒雲も合間ってそう考えるのが当然だろう? その上お前達の様なガキに護衛を頼み出るとは……神も落ちぶれたもんだ」
兵士はそう言って唾を吐く。
それを聞いていたルナはカッと頭に血を上らせ、飛び出しそうになった。しかし、それより早く飛び出したのは普段穏やかなエアリィだった。
エアリィはいつの間にか持った杖を兵士に向け、早口で呪文を唱えるとそれをぶつける。
木を切り倒した時よりもすさまじい音が周囲を震えさせた。
兵士は飛んできた魔法——空気を圧縮されたそれを腹に直に受け、その衝撃で後ろに立っていた太い木にぶつかる。酷い音がその場に響く。甲冑があった事により背骨が折れるのは免れたのだろうが、その顔は苦々しく歪んでいた。
「ダリダン様は……力を失ってなどいない。貴方の様な人の前には一生現れないでしょう。……これ以上この森を枯らそうとするのならば、今の魔法をさらに威力を高めて放つ。…………わかった?」
語尾を強くしてそう言ったエアリィの顔は冷たく、蔑む視線が兵士を困惑と怒りに染める。
「ちょ、ちょっとエアリィ、やり過ぎじゃない?」
いつもは強気のルナも怯えて顔を青くしていた。エアリィはそれでもまだ攻撃を続けようとする。
腹の立つ兵士だが、またあの威力——いやそれ以上のものを受けたとなると死んでしまう。
ルナはエアリィの肩を引っ張り、自分の方へと顔を向けた。
「エアリィ! 落ち着きなさい。やり過ぎはよくないってわかっているでしょう!? ダリダン様に言いつけるわよ!」
そう言ってエアリィの頬を思い切りたたきつける。パシンと綺麗に鳴り響く平手打ち。エアリィは驚きで目を丸くしている。
「……言いつけるの、やだ……ご、ごめんなさい、ルナ……ごめん。思わず……」
「わかったらいいのよ。さて、この男をどうするか……」
反省したように項垂れるエアリィに笑いかけるルナ。その笑顔を見てエアリィは安堵の息を吐く。
二人のやり取りを木の根元でぐったりとしながら見ていた兵士は、冷や汗をかいてだらしなく口を開けていた。
「わ、わかった。司祭様に話しておこう。だから、許してくれ……ッ」
兵士の男はそう言って手を地面につき謝る。
「ふん、大の男が女の子に命乞いなんてだらしない。まぁいいわ。さっさと出て行きなさい。貴方達は呼ばれていない。あ、ダリダン様には報告するけどね」
ルナはそう言って虫を払うように手を振った。兵士はそれを合図に脱兎の如く森を駆けだした。それから仲間の居る所で何か叫んだと思うとすぐに荷物をまとめだす。
——こうして今日も森の平和は守られた。
しかし、兵士達が帰ったとしてもまだまだ受難がある。ダリダンに報告に行かなければならないと言う事だ。エアリィはその事に少しおびえていた。先ほどの事も言われると思うと、嫌われるかもしれない。そう思ったエアリィだが、ルナの励ましで少し元気になる。
二人は神木へと向かう足を進めた。