複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【9/2更新】 ( No.355 )
日時: 2014/09/14 21:23
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: kAWEuRKf)

EPISODE2 神々の……

 モート大陸中枢、始まりの樹と言われる場所にアメリアは住んでいる——否住んでいると言うより、宿っていると言った方が正確だろうか。
しかしこのモート大陸、アメリアを守護神として抱え込んでいるはずがもう一人神を迎えている。
それがマーティン・グレイブスだ。マーティンはこのモート大陸とその周辺を自身の力で守護している。このマーティンは元々人間だったのだが、モートの人々によって神格化された高貴な身分を持っている。
しかしマーティンはその身分を奢ることなく日々平和を願って慎ましやかに過ごしている。

そんなマーティンは今日、アメリアとの会議と言う名の報告に向けて始まりの樹へと向かっていた。
樹の前に立ち、手を合わせてしばしの祈りをささげる。

「めんどくさいけど……同じ場所を守る仲間だから仕方ない……」

そんな呟きをしつつマーティンは樹の中へと自身を投げた。
樹は平然とマーティンを受け止める。そして直行してアメリアの居る場所へと飛ばされた。
そう、なぜかマーティンがアメリアに会おうとしている時、樹はそれを受け取ってかすぐにその場へと飛ばしてくれる。きっとマーティンがこのモートを守護しているとわかっているのだろう。
アメリアの協力者に対しては優しい始まりの樹を通り、マーティンは大きな門の前へと立つ。

「相変わらず大層な門だ、あ、そう言えばグライトだっけ? あいつはどうしてんだろうなァ……」

あぁ独りで居たら独り言が増える、そんな言葉を続けてマーティンは古風な門を開けた。奥には微笑をたたえて王座へと座っているアメリアの姿があった。来る事がわかっていたかのようなその顔に、マーティンはため息を吐きたくなるのをぐっと耐えた。

「お待ちしていましたわ、マーティン様。ねぇ知ってる? 最近この大陸限定の食べ物が生まれたそうよ。大地の恵みと天の育みのおかげだわ。マーティン様、貴方のおかげもあるわ。有難う」

微笑んでそう言うアメリアにマーティンは気の抜けた返事を返すだけだ。
とりあえずマーティンが報告しようとしたのはグライトが戦争を止めたと言う事、秘宝を集めていると言う事だ。そして近隣の報告。ここの大陸は平和だと言っても小さな争いが絶えない。この間だって——そう思い出しているとアメリアは微笑んで再び口を開いた。

「私、守護神仲間のダリダン様に面白い話を聞いたのよ。なんでも、あの子、グライト君。あの子がゴンドラ大陸の戦争を止めたそうよ。ゴンドラ大陸は守護神がいないから、少し不安だったの。でも素晴らしいわね。そうだわ、あのドラファー帝国のゼルフ様、あの方中々のカリスマ性があると思うの。あと、私の思った通り秘宝も着々と……とは行かないけれど集めているようだわ。ねぇねぇマーティン様、貴方も知っているのでしょう? どう思いますか?」

マーティンはアメリアの話を聞きながら思っていた事の図星をつかれて驚く。
そう、いつもそうなのだ。
何せこのアメリアは報告なんていらないだろうと言うぐらい情報通で、マーティンが報告に来るといつもマーティンより先にその事について話す。それが毎回マーティンの思っている事だから恐ろしい。
本物の神はこうなのか、そう痛感させられる。
しかしアメリアは何を思ってかいつも帰り際に「また報告に来てもらえるかしら」と言うのだ。神の頼みを誰が断れようか。マーティンは渋々それを了承する。
それを繰り返して何年たつだろう、そう愁いを帯びた瞳でマーティンはアメリアを眺めた。彼女の性格はだいぶと理解が出来るようになった。優しくて、力もある。美貌も名声も知性もある。一見欠点のない女性だが、しかし彼女は腹の内が黒い。
何を考えているのかいつも読めない笑顔をたたえ、時に手の上で弄ぶがごとくその美貌を使い、男を使うのだ。

「マーティン様、聞いているかしら? 意見が欲しいわ。貴方の意見が」

アメリアの言葉にマーティンは現実へと戻される。何の話をしていたっけ? あぁ戦争か。戦争は生物の中で最も愚かしい行為。知性のかけらも感じないその行為をなぜ繰り返すのだろう? 生物には口も耳も脳みそもあるのだから、話し合えばいいんじゃないか。しかしそうはいかない。どうにもこうにも生物と言う者は欲深く、そして滑稽だ。
人にも神にもならない俺が言う事では無いのだろうが……マーティンはそうして思考をまとめ言葉にした。ウソかホントか、そんな事はどうでもいい。早く帰りたいと言う思いだけがマーティンを動かす。

「あ……あぁ俺の意見な。まぁ特にこれと言って……あいつならやれそうな気がするし、また戦争が起こった時はどうなるか分からねぇが、あっちには死神もいるらしいからな」
「死神?」
「あぁ変な死神だ。戦争を無くすと言って今動いているらしい。よくわからねぇが、そいつのおかげもあってグライトが動いたとか」
「あら、そうなの? ねぇそれは誰から聞いた情報?」
「秘密だ」
「女性かしら?」
「なぜそれを気にする?」
「……特に意味は無いわ。正直に言うなら貴方をからかいたいため一つでも多く弱みを握っておこうと思って」

相変わらずだな、そう言うマーティンにアメリアはコロコロと笑う。この笑顔だけを見れば可愛いもんなのだが、何せアメリアだ。何を考えているのか油断ならない。

(そもそもコイツは俺が自らに自分の弱みを暴露すると思っているのだろうか?)

マーティンの不信感は募るが、続けてリーフ大陸にグレイト王国の軍が攻めてきたという話しをした。これはリーフ大陸に居る護衛の双子から聞いた話だ。気の強い姉の方が自分から話してきたのだから、きっと大問題なのだろう。大人し妹は珍しくキレたとか……そんな話をマーティンは続けるが、アメリアはたいして興味もなさそうに頷く。

「まぁ以上だ。あとは黒雲の動きなのだが……」
「拡大したの?」
「微差であるが徐々に攻めてきているのは間違いない。警戒を怠るな」
「わかっているわ。あの影ノ皇はまだ出てきてないのね?」
「それはまだ大丈夫そうだ。だが時間も少ない。さっさと秘宝を集めてもらいたいもんだ」
「まぁゆっくり待ちしょう? あの子に託したんだから、口を挟むのは筋では無いわ」
「そうだが……」

難しい顔をするマーティンにアメリアは微笑んで「大丈夫よ」と告げた。

「ねぇそんな事より私と少しお話しませんこと?」

アメリアの唐突の申し出にマーティンは心底嫌な顔をした。そんな表情に気付かないのか、アメリアは何故か期待を込めた瞳でマーティンを見ている。

「それは嬉しい申し出ですが、俺にも色々予定というものがありまして……」

無難に言葉を並べてみた物の、これでアメリアが引くとは思わない。案の定アメリアはニコニコと笑って頬に手をやる。

「しらないわ、貴方の予定なんて。神の私がどうとでもしてあげるわよ。だからお話ししましょう?」
「他をあたっていただけたら……」

無理な申し出だ、そう言っているのにアメリアは折れない。
そもそも二人で何を話すと言うのだ。何もない。共通の話題と言えば先ほどの報告のように事務的になる。その上どこで話すと言うのだ。立ったまま数時間話せるほどマーティンも鍛えられちゃいないのだ。
そんな心の叫びなど全く無視してアメリアは理由を告げる。

「貴方とお話したいの。貴方の話が聞きたいわ。外であった些細な事でも何でもいいわ。ねぇダリダン様にはそう言うお友だちがいるのに、私にはいないのよ? いいでしょう? 恋だの愛だのまでは行かなくていいのよ。ダリダン様は甘い言葉を囁かれているけれど、そんな事は貴方の性格上、期待しないわ。話しがしたいだけなのよ」

ダメ押しのようにそう言うアメリア。ついには少女のように手と手を胸の前で合わせお願いのポーズを取った。
ここまでされて断るわけにもいかないマーティンは大きなため息と共に頷いた。

「……仕方ない。オレの話しでよければさせていただきますよ。つまらない話しで退屈するなよ」
「期待しているわ。貴方の事だからきっと素晴らしい武勇伝があるのでしょうね。楽しみだわ」

ルンルンと口で言うアメリアは本当に自分より年上なのだろうかと心の底から疑った。
マーティンが呆れている間にもアメリアはいつの間にか椅子を用意して、嬉々とし飲み物と茶菓子を選んでいた。

「さぁマーティン様、座って座って」
「はいはい」

これじゃあどっちが大人かわかったもんじゃない。マーティンは期待たっぷりな瞳をたたえ座っているアメリアの前にと腰をかけた。
さて何から話そうか……そう考え、口を開いた。アメリアは退屈する事も無く大人しく、いつもの作り笑いでは無い笑顔でその話を聞いている。
話し終え、「たまにはいいかもな」とそう呟いた声を目敏くアメリアに聞かれたマーティンは、これから報告ついでにおしゃべりもして行かなければならなくなった。