複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【9/14更新】 ( No.358 )
日時: 2014/09/15 15:59
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: g8t52Hd5)



 砂漠のど真ん中、そこの地下にグレイシアは居る。オアシスの水をバケツに組んで、振り返ったグレイシアはエースの姿を見つけ満面の笑みを向ける。

「エース、やっと来てくれた! 待っていたの。話したい事が沢山あるのよ! まず私が少し前から飼いだしたこの虫。ね、可愛くなったと思わない?」

バケツを置いて駆け寄ってきたグレイシアが、そう言って見せてきたのは尻尾にとげを持つ足の多い虫。一見サソリのように見えるそれだが、明らかにサソリでは無い。なぜなら、色が毒々しい斑で、尻尾にあるとげはサソリのそれよりはるかに大きいからだ。

「これは一体?」
「これはね、サソリとハチと、後何だったかしら……? とりあえずそんな感じの虫を色々組み合わせたらこうなってしまったの。でも可愛い色をしているでしょう? ピンクと黄色なんて、まさに乙女ね。そうだ、この子の名前オトメにしましょう! どうかしら?」

そう言ってきゃっきゃっとはしゃぐグレイシアに、エースは愛想笑いを向けた。
正直な感想は気持ち悪いとのことだが、そんな事は言わない。グレイシアに嫌われるのがいやだからだ。
代わりにあたりさわりのない返事をしてグレイシアの持っているバケツを代わりに持ってあげる。グレイシアは「ありがとう」と嬉しそうに告げてまだ手の中にあるサソリもどき、通称オトメを撫でている。オトメは案外大人しく、されるがままだ。

「あ、そうだ、新しいフルーツも手に入れたの。アメリアから届いたの。モート大陸限定の水分たっぷりな甘—いフルーツよ。一緒に食べようと思って……」
「へぇ珍しい。一人で食べてしまわなかったんだね?」
「まぁ心外だわ。私はそんなに食い意地が張っていませんよ」

そんな会話をしつついつもの席についた二人。白いテーブルと白い椅子はキラキラと輝くように綺麗だ。きっとさっきまで掃除でもしていたのだろう。

「掃除、俺が代わりにやるからもうちょっと早く呼んでくれればよかったのに」
「いいえ。自分が出来ることは自分でするとつい最近決めたばかりなの。それに、エースが来るんだもの、綺麗なお部屋で迎えたいわ」

グレイシアはそう言ってニコニコと笑っている。エースはなんだか少し嬉しくなり、微笑む。

「さて、食べましょう?」

グレイシアの出してきたフルーツは洋ナシ型の物だった。色は赤い色。熟れた甘い香りが部屋を覆う。
思わず涎が垂れてしまいそうになるエースだが、グレイシアの手前落ち着いてフルーツを剥いた。

「あ、知ってる? あのグライト君、ゴンドラ大陸の大きな戦争を止めたらしいわ。ドラファー帝国の国王までも倒した、なんて言う噂もあるのよ。……ねぇエース。彼らは嘘をついていなかったのよ。今度、ここに訪れたならその時は秘宝を託しましょうよ」

グレイシアはそう言ってじっとエースを見た。エースは難しい顔をしている。
グライト達の噂はエースも知っていた。あの少年にそんな力があるとは……あの時到底思えなかったのだがどうやら本当らしいと言う事も聞いていた。
そんなエースを窺うようにグレイシアはじっと見ている。守護神である彼女が全て決めればいいものを、わざわざエースにゆだねると言う事は自分の意見に自信が無いのだろうか。
エースはそんなグレイシアが心配でならなかった。

「確かに嘘をついていないのかもしれない、だけどもそれはこの大陸を任せると言う事になるんだよ? この大陸は他の大陸より大きい。砂漠だらけで、水も少ない。問題が多いこの大陸をあの少年が扱えるのか……俺はどうしても心配でならない。この心配は貴方の事もある」

エースの口調は重々しい。グレイシアは「私の事?」と不思議そうに首を傾げる。

「秘宝の半分は貴方の力も携わっているのはわかっているよね? 貴方の半分の力が少年に奪われて行くと考えると、もしもの時、貴方はどう自分を守って行くのか……半分の力だとどうにもやっぱり不安だよ」

エースはそう言ってフルーツを咀嚼する。甘い香りが口の中に広がり、溶けて行く。
今まで食べたフルーツの中のどれよりも美味しいと感じた。これはきっと大ブームを起こすだろう、そう考え頷く。
口の中のフルーツがほとんどなくなりかけた時、エースはグレイシアを見た。何やら悩ましげな表情だ。あぁ言いすぎたかな、余計なお世話だったか、そう思った時、グレイシアは笑顔を見せる。

「じゃあ貴方が守ってくればいいじゃない」

簡単に言いのけたグレイシア。エースは驚きで目を見開く。

「貴方のかなわない相手に、俺がかなうとでも……?」

恐る恐るそう言ったエースに、グレイシアは優しげな頬笑みを湛える。

「大丈夫、何故かそんな気がするの。何故だかわからないけど、貴方はきっと私を守って助けてくれるでしょう?」

嬉しそうで得意そうで誇らしげな……そんな笑顔に不覚にもエースはドキリと鼓動を鳴らす。

「貴方は、本当に困った方だよ」

エースは思わず苦い笑顔がこぼれた。そんなエースを見てグレイシアはクスクスと笑う。
穏やかで少し冷えた風が二人にはどうにも居心地がいい。
ふとエースは顔を机の下へと向ける。

「あ!? ちょ、グレイシア! さっきのサソリもどきが……!!」

エースは焦ったように飛びあがる。グレイシアはそんなエースの視線を追う。

「きゃあ! 大変、外に出ようとしてるわ!! このままじゃ……」

グレイシアは慌ててオトメを追う。しかし無情にもオトメはこの空間から外へ出た。
肩を落とすグレイシアと、やっちまったと言うようなエース。後にこのオトメ、大量に繁殖し、その姿を変化し続け、結果的に何故か巨大化した。そしてこの洞窟に新しい虫の仲間が増えた。それから数週間後にはたまたま地上に顔を出していた所、学者に見つかり、彼の手により新生物として百科事典にのったのは言うまでもない。グレイシアはそれを見て「地底サソリよりオトメの方がいいと思わない!?」なんて半分発狂しながらエースに伝えてきた時は逃げたくなった。