複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【9/15更新】 ( No.362 )
日時: 2014/09/16 22:00
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: g8t52Hd5)

EPISODE4 桜吹雪

 桜花和国。モート大陸とリーフ大陸の間にある桜が万年咲き続けると言う不思議な国。この国には華狼と言う種族が住んでいて、彼らは皆備兵として日々己を厳しく鍛えている。元々戦闘民族である彼らにとってそれはただの日常にすぎない。
そう、たとえどこで戦争が起きようが依頼されればそちらにつく。それだけだ。

そんな華狼の長は以外にも女性だ。気丈な女性で、美しい顔立ちには隙がない。名前はサクヤ・セリフィアムと言う。
サクヤは国民からの人気が高く、カリスマ性を兼ねそろえているのか、彼女に逆らおうなんて言う奴はいない。たとえ国の長が女だとしても反逆が起きない不思議な結束力を持っている。

サクヤはつい最近ゴンドラ大陸の戦争が終結したと言う事を聞いた。ドラファー帝国とパルメキア王国が盛大に争っていたはずなのだが、ある日唐突に終結が告げられた。あっけない終わりだった。参加していた身としては少し不満が漏れるぐらい。
不思議に思ったサクヤは何故戦争が止まったのか調べてみることにした。その報告を今屋敷で見ているのだ。

「あいつらか」

呟いた言葉は愁いを含んでいる。あいつら、と言うのはグライト達の事だ。グライト達はこの国を訪ねてきた。戦争をする真意を尋ねてきた不思議な旅人。クウゴという男が一番戦争について関心があったなと思いだす。

「成長したんだなァ。初めてみた時は生きていけるのかと心配だったが……」

そう言ってサクヤは足元で寝ころんでいるメイルを撫でた。メイルは嬉しそうに喉を鳴らす。
穏やかな時間がここには流れている。その時間を破る様に襖があいた。

「サクヤ殿、客人です」

男はそう言って一人の少女をサクヤの元へ通した。彼女はサクヤの知り合い、妖精のドライムアード通称ライムだ。久々の顔見せにサクヤは始め驚いたが、微笑むライムにお茶を出す。

「ねぇゴンドラ大陸の戦争終結したのはもう聞いた?」

ライムはお茶をすすった後そう言ってキラキラした瞳で問いかける。サクヤは黙って頷いた。

「あれ、聞いたの? ねぇグライト君達が終結させたんだよね? すごいよね! 私、初めて聞いた時びっくりしてゴンドラ大陸まで行っちゃったもん」

ライムは嬉しそうに和菓子に手をつける。サクヤも驚きを隠せなかったので同意した。
グライト達とライムを導いたのはサクヤだ。行先を決めていなかったグライト達にライムを探すよう言いだしたのがきっかけだ。それ以来ライムはグライトの事が気に入ったらしく、彼らの噂が流れてくると嬉しそうに話しに来るようになった。
ただ、グライト達も常に何かをしているわけでは無いので噂が聞けなくて残念がり、最近はめったに訪れなかった。

「ゴンドラ大陸はどうだった? しっかり終結していたのか? 戦死体は?」
「うぅ〜ん、まぁ復興が大変って感じだったかな。この際もう戦争はしないって決めたらいいのに、噂に聞く限りゼルフ・ニーグラスはまだ諦めてないらしいよ。秘宝がどうとかって」
「秘宝?」

サクヤは身を乗り出してライムの言葉を待つ。ライムは今回の戦争の目的である秘宝について話しを始めた。
簡単に言えばドラファー帝国はパルメキア王国に秘宝があると聞き、戦争を始めたと言う事だ。
サクヤは前、グライトに言った憶測の話を思い出した。
やはり裏で何かあったのだ、取引が、そう思い悩ましげに視線を彷徨わせる。

「エターナル王国はどうだった? ドラファー帝国と手を組んだ理由は?」
「さぁ、そこまではわからなかった。まぁエターナル王国も保身のため仕方なくじゃないかなァ? あ、そうそう、あくまで噂なんだけどどうもドラファーのゼルフがエターナル王国の王女が好きって言うのを聞いたよ。まさか、って思うだろうけどなんだか本当っぽい」

ライムはそう言って和菓子の最後の一欠片を口に放り込む。しばらくもごもごと口を動かしたと思ったら、ニコニコとし始めた。

「でもよかったよねぇ。戦争が終わって。もしかしたらこの国も巻き込まれてたかもしれないんだもん。心配で心配で……」
「あぁ、だが私達は負けない。華狼の誇りにかけて負けることは許されない」

厳しい口調で言い切ったサクヤにライムは「ちょっぷ!」と言いながら手刀を放った。小さな声で呻いたサクヤは突然なんなんだと睨む。

「あのねぇ、サクヤちゃん。私はそれでも貴方が心配なの〜わからないの? もし負けたら貴方達は誇りのため自決するんでしょう? そんなの許さないからねっ! サクヤちゃんは女の子なんだから、戦いよりオシャレしていい旦那さんを見つけるのが言いと思うんだよ」

プンプンと口で言いながら怒るライム。サクヤは苦い顔をした。

「私達は戦闘民族、華狼。気高く生きて後世にそれを伝えるのが仕事だ。恋だのなんだのにうつつを抜かして入られない」
「もぉ〜だめよ。生き遅れるよ、女として」

厳しいライムの意見にぐっと息を飲むサクヤ。確かにもう自分もいい年だ、夫でも囲い、子を育むのがいいとは思っているが……難しい。なにせサクヤは曲がりなりにも一国の王。中々夫になってやろうと申し出る輩は居ない。

「覚悟のある奴がいるのなら名乗りを上げてくれればすぐさま夫として迎えてやってもいい。ただし、条件は私より強く、素晴らしい王になれると言う事だ」
「そんな人少ないわ。一握りよ。サクヤちゃんは強いし立派な王だわ。逆転の発想よ、サクヤちゃんが尻に敷けるような男がいいんじゃない? 気弱で情けないぐらいがちょうどいいのよ」
「そんな腑抜けはいらない。王となるのなら、やはり強く逞しい猛獣の様な男でないと……」
「……まぁ探してみてあげるけど、絶対いないんだから、そんな奴。居たとしてもすぐ破局よ。意見が対立してどっちも譲らないなんて、目に見えてるよ」

ライムはむーっと頬を膨らませメイルと遊びだした。メイルは白髪をなびかせながらライムにじゃれる。メイルの方が大きいため、傍から見ればライムは襲われているように見えるだろう。だが、これが彼女たちのコミュニケーションだ。
サクヤはそんな彼女たちを眺めながら本気で結婚について悩んでいた。あわよくば自分だって恋愛と言うものを体験してみたい。だが、サクヤにもプライドがある。妥協は許さない。
うんうん悩むサクヤを見て、ライムは少しほほ笑んだ。

「悩めばいいよ。きっと素敵な彼が見つかるはずなの。そして儚く淡い恋愛が始まるの」

ライムはそう言って頬を赤く染め、うっとりと妄想を始める。

「年齢不詳の子供が何言ってるんだか」

サクヤは対抗とばかりに少し悪態付く。ライムはそれを聞き逃さず、またむっとした表情でサクヤをにらんだ。サクヤはそんなライムを見ながらニマニマしてやったり顔だ。
結局ライムはサクヤの屋敷に泊まって行く事になった。一日メイルの遊びにつきあっていたライムはお疲れで、夜10時を回るころにはもう寝ていた。サクヤはそんなライムを見てまた自分の仕事に戻った。戦争が終わったと言っても自分たちの仕事が無くなるわけじゃない。もしグライト達が戦争を無くすと言うのなら、その時は隠居していい夫と一生を過ごすのだろうか、そんな考えを途中までして止めた。うら若き乙女の恋愛はそう簡単ではないのだ。