複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【9/16更新】 ( No.365 )
日時: 2014/09/30 21:54
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: VEcYwvKo)

EPISODE5 幻と共に

 マケドニア大陸をご存じだろうか? この大陸は「ゼロ」と言う支配者の元、蜃気楼に隠れてひっそりとある静かな大陸だ。
この大陸に足を踏み入れた者は大抵出られないまま骸となり果てるか、ゼロに見つかり殺されるか、それとも「不思議な守り神」の力で静かに魂を刈り取られるか……そんな噂が絶えない。
そしてここに入り、唯一出た少年達がいる。その少年達は外で大きな戦争を止めたようだが、マケドニア大陸には関係の無い話しだ。

最近、そんなマケドニア大陸に侵略者が現れるようになった。自分達も外に出られると豪語し、侵略してくる姿は何とも滑稽だ。ゼロはそんな彼らを静かに見守る。勝手をされては困るから見張るが、進んで殺すわけではない。どうせ死ぬのだから、自分が手を貸さなくても大丈夫だと判断したまでだ。
そんなゼロが戦線に立つときは彼らがどうしても騒がしく、煩わしい時だけだ。
そして今回も、その汚らわしい輩が攻め込んできたようだ。あぁ嘆くべきことだ。全くなめ腐っている、そう思いゼロは彼らの前へと立とうとした時、異変に気付いた。

「人数が減ってる……?」

そう、彼らがこの大陸に来た時はざっと見30名は居た。間違いはない。彼らは下賤な盗人らしく、ここに組織を立てようと言うのだ。そうされる前に追い出そうとじっと見ていたのだが、おかしい。確かに今彼らは25名しかいない。5名はどこに行ったのだろうかと辺りを見渡す。

「あいつか……」

ゼロは旧友を思い浮かべる。名はニルヴァーナ、この大陸でも見られることは滅多にない言わば守護神の様なもの。この大陸一謎の多い人物だ。いつの間にか消えている人がいる、そう感じた時はニルヴァーナがその場に居る時。
ゼロは昔からニルヴァーナを知っていると言うものの、未だニルヴァーナがどういう人物で、普段何をしているのか、どこまで力を持っているのかは測りきれない。
そんなニルヴァーナは旅に出ていたはずだが、ついさっき帰還したらしい。そして人間を見つけ遊びの如し殺しを行っているらしい。

「……はぁ……まぁいいか」

ゼロはそう言って真っ白な仮面の奥で、深い深いため息を吐きだした。ニルヴァーナに何を言おうが意味がないことはこれまでの経験で学んでいる。
しかし得物を奪われると言うのは聊か腹立たしいものもある。ゼロはいつも裏でこっそり倒していく。だが、ここ数日人間がやたらに攻めてきて苛立ちも募っていた事だし、長らく姿を見せなかった友人に八つ当たり気味の腹を立てた。ゼロは苛立ちのままに侵入者の前に姿を現した。侵入者はざっと見て23名。また2名減っている。
唐突に空間に現れたゼロの佇まいに、初めうろたえていた侵入者だが、弾けたようにゼロに飛びかかってくる。

「ふん、人間が……塵となりこの大陸の肥やしになれ」

ゼロはそう言って大槌を構える。大槌の先端からは雷が発せられた。バリバリと空間を破る様に雷は全てを燃やす。
そんな様子を見ていた、と言うか予想していたニルヴァーナは今だとばかり飛び出した。

「ゼロ〜! なんだぁ、見つけてたのか。ニルヴァーナ、帰還しました〜! 元気だった? 体壊してない?」

ニルヴァーナの言葉が終わるや否や、ゼロは20人を一気に懲らしめた。焦げ臭いにおいが鼻につく。ニルヴァーナはその光景を前に、口の端を釣り上げ、瞳を細くした。
ゼロはそんなニルヴァーナに「うるさい」と短く言った。

「ふふふ、ゼロまだまだ人間は居るよ? 『I』確かめてきた。まあざっと見30人ってところだ。どうする?」

ニルヴァーナの問いかけに、最後の3人を殺したゼロは鼻を鳴らす。

「つべこべ言わず手伝え。久々に暴れたい気分だ」
「っしゃ! そうこなくっちゃ〜。まっかせとけ! 『I』とゼロが力を合わせれば百人力」
「甘いな、千人力だ」

ゼロは仮面の奥でにやっと笑う。ニルヴァーナもそれに応えるよう微笑んだ。
そうこうしている間に異変に気付いた30人の盗賊が二人を見つける。臨戦態勢になって突っ込んでくる盗賊は先ほどより手間取った。
だが二人にかかればそんなもの赤子の手を捻るが如し容易な事。圧倒的な連係プレーで敵を薙ぎ倒していく姿は爽快だ。
あっという間に30名ほどの盗人は息絶えた。ゼロの気持ちも幾分か晴れたとき、ニルヴァーナは思い出したように箱を取り出す。

「ふっふっふっゼロにお土産を持って帰ってきたよ!」
「お土産?」

受け取った箱を開けると洋ナシ型の甘い香りを放つフルーツが一つ、布に包まれてあった。

「なんだこれ」
「モート大陸で最近出来たフルーツ。甘いらしいから、ゼロすきだろ甘いの。『Me』が持って帰って来てやったんだからありがたく食えよ」
「……その言い方は腹が立つが、受け取ろう。お前もたべるだろ? ニルヴァーナ」
「あたぼうよ!」

ニルヴァーナはそう言ってさっそくフルーツを適当に投げた。うまく空中で斬り分けたニルヴァーナはその半分をゼロに投げる。

「頂きます」
「いっただきまーす」

二人はそれぞれ手を合わせフルーツにかじりつく。シャリシャリと音を立てながら弾ける甘味に思わず機嫌も直る。

「で、ゼロ。『I』がここを開けている間、何人の人間が来た?」
「……数えれるわけないだろ。そもそもお前がこの大陸を空けるから結界が弱まるんだ」
「だってぇ、『Me』だって外に出たいしぃ……ごめんよゼロ。でもな『I』は引き籠りじゃないんだ」
「俺の事を引き籠りって言ってるのかお前は」
「そうじゃないさぁハハハ」

ニルヴァーナはそう言って腕の鎖を弄ぶ。ゼロは疑わしい視線を一通り送ったあと、また気配を感じ、気を張り詰めた。
ニルヴァーナも感じ取ったらしく、にやにやと笑っている。

「もう一暴れしなければならないみたいだ」
「『I』疲れた。旅から帰ってきて早々働くのは嫌だなァ」
「ふざけんな、お前の責任もあるんだぞ」

渋るニルヴァーナにゼロは大鎚をふるう。寸でで避けたニルヴァーナは、ふくれっ面になりながらもゼロの後に続いた。

 それから数日ニルヴァーナは大陸で大人しく毎日を送っていたのだが、その後唐突に姿を消した。また何処かへ出かけたのだろう。ゼロは舌打ちを打ちながら今日も大陸の見回りを始める。心の底は今日も穏やかではない。今度はいつ帰ってくるのだろうか、そんな考えは数秒で止めた。