複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.372 )
日時: 2014/10/05 18:39
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)



 中へ入ると薄着の女性が座っていた。気の強そうな赤い瞳を爛々と輝かせ、にこりと笑う女性は豪快にビール樽を飲み干すと、グライト達を値踏みするように見た。

「ようこそ、あたしがこの大陸の守護神ダーダラ。よく辿り着いたな、小僧ども。で、あたしになんかようかい?」

ダーダラはおおよそ守護神に似つかわしくない態度でグライト達を手招いた。
グライトは呼ばれるがままそちらへ行く。気付けばリーブルはダーダラの足元で寝ころんでいた。役目を終えたと言うような態度に、グライトはやはり導かれたんだと自覚する。
グライト達がダーダラの前に立った頃、石の扉は大きな音を立てて倒れた。

「ここが女神の間か!!」

騒々しい彼はグライトと勝負をしていたスター、その後ろに隼人がオドオドとあたりを見渡している。

「ん? な、なんて言う事だ……私より先にたどり着いているとは!!」

スターはグライトの姿を捕えるなりそう言ってがっくりと肩を下ろす。「気を落とさないでください」と隼人はスターを慰めるが、あまり意味はなさそうだ。
リュウはそんなスターを見てニコッと笑う。

「俺達の勝ち、さっさと諦めて違う宝でも探しに行くんだな」

そんなリュウの挑発にスターはムッとした。

「まて、まつんだ。秘宝はまぁ諦めておこうか、だが君は少し気に入らない。言葉がトゲトゲしていて美しくない。……そうだ、私の弟子軽井沢隼人君と勝負をしてみないか?」

スターの申し出にリュウは眉根を寄せる。まさか、こんなオドオドしている子供と戦えと言うのだろうか? 蚊も殺せなさそうなこの子供に、俺が負けるわけないだろう。 もしやすごい奴なんだろうか? 探るような視線を隼人に向けると、隼人はビクリと肩を鳴らし、スターの後ろに隠れる。

「ぼ、ぼく、むりですよぉ」

小さな声でそう言った隼人に、スターは無情にも前へと引き摺りだした。

「軽井沢くん、そんな事を言っていればいつまでたっても強くなれないだろう? 君はすばらしい能力を有しているんだ。自信を持ってもいいぞ。それに、これは軽井沢くんのための試練の旅、最後の結果などどうでもいい。全力を出して彼と戦うんだ。そうすればこの旅は終わるだろう」

スターはそう言ってリュウを見る。リュウは嫌な予感しかしない。

「少し我々の旅の終わりにつきあってくれ。ここは私達が生まれたソリア大陸。旅の終わりは、華々しい終わりと決まっている。わかるだろう? 美しく終わるんだ。ここは丁度いい。美しい壁、あの青い宝物はサファイアかな? その隣はルビーだ。美しい!」

そう言って手を広げ、勝手な事をつらつらと述べるスター。何故俺なんだとリュウは頭を押さえた。まったく今になって不幸が襲ってくるとは思いもしない。急いでいると言うのに、だ。

「俺を選んだ理由も教えてくれ。お前等の余興につきあうのは嫌だけど、理由によっちゃあ受けてやるよ」
「あぁこたえてやろう! リュウ君、君の双剣は雷を纏い、稲妻を発生させる芸術性の高い双剣だろう? この薄暗さなら君の双剣は美しく舞う、そのはずだ。君の言葉使いは少々荒っぽく、美しくないが、君のそれは誇るべきものだろう。そんな君の双剣と軽井沢くんが戦うすがたは美しいはずだ。わかってくれたかな?」

あぁやっぱり碌な理由じゃない。面倒だし、時間を食うのも嫌だと思ったリュウはその申し出を断ろうと口を開こうとした、その時傍で聞いていたダーダラが口を挟んできた。

「なんだ、面白そうじゃないか。いいね、あたしは見たい。どうせお前達の目的は秘宝だろう? 戦いを見せてくれるのなら渡してやるよ。あたしはこの洞窟で随分暇を持て余した。久しぶりにそう言うのも見たくなってきた。さぁリングはここだ。何を使ってもいい。戦え! 楽しませてくれよ、小僧共」

ダーダラは実に愉快そうに笑う。リュウはとうとう断れなくなってしまった。グライトはそんなリュウを見て苦い顔だ。

「リュウ、嫌なら断っていいよ、どうにか秘宝を譲ってもらうようにするし」
「……いや、時間が無いんだろ? なら、やるしかない。交渉にかかる時間が惜しいからな。大丈夫だろ、あいつ弱そうだし」
「気をつけてね、なんせスターさんの弟子、隠し玉を持ってるかもしれないから」
「あぁ、油断大敵、わかった」

そう言いつつもリュウは何処か余裕な表情だ。グライトは心配だが、なんども言うのもどうかと思い、大人しくダーダラの隣に並ぶ。スターはグライト達と逆の方向へ並んだ。

「よし決まりだ、二人とも位置につけ、遠慮せず存分に暴れるといいぞ。ここはあたしの力でいくらでも修復可能だからな」

ダーダラは上機嫌でもう一樽を取り出し、観客になったつもりで座る。隣の床にリーブルと座っている不安げなグライトの顔を見て、ダーダラは快活な笑みを浮かべた。

「危険だと判断した時、ちゃんと指示を出すから安心しな」

頼りがいのあるその笑みに、なんだか安心をおぼえたグライトは微笑を浮かべ、頷いた。

「さぁて……じゃあ、始め!!」

ダーダラの掛け声で二人は構える。じりじりと距離を詰める二人、隼人の方は少し不安そうだが、どうなるのか予想もつかない。そもそも、隼人は何を武器に戦うのだろうか? まさか、素手で戦えるほどあのひ弱な体に力があるとは思えない。何か策があるのだろうか、グライトはやはり少し心配になった。