複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.375 )
- 日時: 2014/10/06 18:13
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
第四十五話 勝利の行方
リュウと隼人は睨みあって中々攻撃しない。リュウは多分、隼人に遠慮をしているのだろう。リュウは優しい人だ。この弱々しい少年を無情にも斬りつけることなんて、難しいのだろう。五つの年の差と言うのはこんな所で障害になる。
そんな二人を見てダーダラは既に退屈そうだ。ビールを仰ぐ手も先ほどより幾分か減る。
その時、リュウは口を開いた。
「おい、そっちから仕掛けてこい。俺から仕掛けたら、なんかいじめてるみたいになるだろ」
「うぅ……と言いましても、ぼくには攻撃手段はないのです。プロレスもまだまだで……ごめんなさい」
隼人はそう言って今にも逃げ出しそうだ。攻撃手段がない、と言う事は戦いには向いていないと言う事だ。何故そんな少年をスターは指名したのだろうか。リュウは困った。しかしこんな所で時間を食っている場合では無い。
「しかたない、なら俺から行くぞ。怪我しても恨むなよ、恨むならお前の師匠を恨んでくれ」
リュウはそう言って地面を一蹴り、高く飛躍したリュウはそのまま雷を纏った双剣を振り下ろす。
「ひぃぃ!」
隼人はその双剣を慌てて避けた。……なんだか後味が悪い。リュウはこの男の子が苦手だと思った。よく考えてみれば初めて人を苦手だと思った。ありえない事だ。だが、事実だった。
そんな思いを振り払うように、おぼつかない足取りで後ろへ下がった隼人を、リュウは双剣を回し、振り下ろす事で攻撃する。うまく避ける隼人はどうやらすばしっこいらしい。
つくづくへんな奴だとリュウは思った。
「降参してもいいぞ」
少ない同情でそう声をかけてみるが、隼人は首を横に振る。
「なんで?」
「……その、えっとぉ……」
隼人はリュウの双剣を避けながら戸惑った表情をする。
「はっきり言えよ、笑わないから」
優しくそう言ったつもりだが、隼人はそうとらえなかったらしい。気弱な表情で言い渋る。あぁ言葉づかいって難しい。今まで自分の言葉づかいを疑問に思った事は無いが、今回は気を使う相手だ。あまりきつい言い方をしたら隼人はさらに理由を言い渋るだろう。
「なら、なんで戦うの? お前……じゃなくて隼人だっけ? 隼人はなんでスターに弟子入りしたんだ? 何を教えてもらったの?」
教えてほしいな、少し声を弾ませてみた。今度は相手にも伝わる穏やかな口調で言えたと思う。自分で納得したリュウは隼人の言葉を待った。
隼人はそれまで言い渋っていたが、リュウが距離をはかろうとしている事を汲み取ってか、考えるような表情をしてからなんとか声を絞り出した。
「ぼく……ぼく、強くなりたいんですっ!!」
距離をとってそう言った隼人に、リュウは驚きの表情を浮かべる。
「強くなって、性格を直したいんです……その、ぼく、気が弱くて、いつもいじめられるから……貴方が羨ましい。誰とでも仲良くなれそうで、とても強い。ぼくだって、そんな人間になりたいんです!」
隼人はそう言ってぎゅっと両手に拳を握った。拳は力を入れ過ぎて震えている。一世一代の告白と言わんばかりの隼人の態度に、リュウは笑みがこぼれた。あぁそうか、そう何だか満足した気持ちだ。
「なんだ、そうだったのか。それで弟子入り、案外根性据わってんじゃねえか」
「ひぃ! ご、ごめんなさい!」
「あ? なんだ、謝らなくてもいいぞ。俺は元々この口調だから、気にするな。そんな事より、強くなりたいんだろ?」
リュウの問いかけに隼人は強く頷いた。
「なら全力でかかってこい、そうだな、俺だけ武器持ってるってのもずるいだろうから、なんか適当に見繕えよ」
リュウは少しの時間を隼人にあげた。本当は惜しいんだが、そんなことよりこの少年がこれからどう化けるのかが気になったからだ。まぁあのスターが選んだんだから、それなりの能力は持ち合わせているだろう。それを本人が出しきれるかどうかが問題だ。
先ほどより楽しくなってきたリュウは自然と口角が上がった。