複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/5更新】 ( No.376 )
- 日時: 2014/10/06 18:15
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: m7RL/.Cf)
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しばらく迷って隼人が持ってきた武器は、スターが持っていたダイアモンドの付いた手甲だった。おおよそ彼の様な細身には似合わないゴツイ武器だが、大丈夫なのだろうか?
当の本人、隼人はと言うと、それをつけて何だか満足げに微笑んでいる。
「それでいけるのか? 重いだろ?」
「な、なんだか強くなった気分です! よろしくお願いします」
隼人は先ほどとは打って変わってきりっとした表情だ。まぁモチベーションが上がるなら何でもいい、リュウはそう思って再び構える。
ダーダラはそれを見計らい、微笑むと「第二回戦、始め!」と元気よく言い放った。
その声を聞いたリュウと隼人は別人のように素早く動き始めた。二人とも先ほどの遠慮したような空気は無い。
「さあ楽しくなってきたぞ! もっとやれぇ!」
ダーダラは楽しそうに再びビールを仰ぎだした。
その間もリュウが放った双剣を隼人はうまく手甲でカバーする。うまく避けた隼人は左手でリュウのわき腹を狙った。リュウはギリギリでそれを避け、なんとか距離を持ち立て直す。だが、それを読んでいたのか右手でパンチを繰り出した。そのパンチを顔でまともに受けてしまったリュウは、力が弱いからあまり痛くは無かったが、驚きを隠せない。
「別人みたいだ」
リュウがそんな感想を抱くのも無理はない。隼人はやはり潜在能力が高かった。
スターはそんな隼人を見ながら満足気に頷き、ニコニコと笑顔でグライトを見ると我が子を自慢する父の様な態度で話しだした。
「どうだ、私の弟子は素晴らしいだろう? あの華麗な右ストレートは私が教えた。一番力を入れて教えた構えは芸術と等しい。本命のプロレス技はあまり教えてないのだが、この調子なら教えても大丈夫そうだ。ね、グライト君もそう思わないかい?」
「うーん、俺にはよくわからないかなァ。プロレスってどんな感じなの? なんか格闘技って言うより肉弾戦って言葉がぴったりだよね」
「ん? プロレスの魅力ということかな、それは——」
スターはそのまま話し続ける。話題選びを間違ったらしい、スターはプロレスについて熱く語りだした。グライトは軽く聞き流しつつ、リュウの行方を見る。
リュウは今、壁を蹴って飛び上がっている。飛躍したリュウはそのまま隼人の背中を斬りつけようと振り被る。隼人は慌てて体を捻るが、それも幾分か遅く、腕を斬りつけられてしまった。雷を纏った双剣はまるでチェーンソーのように肉を抉り、隼人の顔を苦々しく歪めた。
「いたっ……!!」
あまりの痛さに軽くよろけてしまった隼人は、そのまま尻もちをついてしまう。
「もらったッ!!」
リュウはその隙を見逃さず、隼人に飛び付き、双剣を振るう。
「ひっ!!」
慌てて頭を抱えた隼人はそのまま目を瞑り、丸くなった。
——しばらくそうしていても、痛みが襲ってこない事に気がつく。どう言う事だと目を開けると、頬のギリギリのところを双剣が停止しているのが目に入る。
「え……?」
キョトンとしてリュウを見上げると、リュウは人が好きそうな笑みを浮かべ口を開く。
「降参しろ、でないとこの刃がお前の顔を傷つけるぞ」
優しく言われた言葉はきっとリュウなりの思い遣りなのだろう。隼人は小さな声で「降参」と呟いた。力が抜けたのか、口からは空気を抜くような息が吐き出される。
リュウはそんな隼人を見て、ダーダラに視線を送った。
「わかった、いい試合だった。……勝者リュウ! お疲れ、二人とも。グライト達には秘宝を授けよう。案外早く試合が終わった、どうせなら、皆で食事でもしようじゃないか。スターと隼人の旅の終わり祝いだ!」
ダーダラはそう言って奥から沢山の肉や果物、野菜を持ちだしてきた。一体どうやって食材を手に入れているのか、グライトはあえて聞かない。
代わりに、お祝いの準備を始めた。奥の部屋には大きな長机が少しほこりをかぶって鎮座している。それを取り出し、綺麗に拭いた後真っ白なシーツをかぶせる。その上にユーノとダーダラが即席で作った食事が並べられた。有り余るような量に、隼人やグライト、リュウは目を輝かせる。
「守護神ダーダラ様、このようなお祝いをいただき嬉しい限りです。私は貴方の大陸に生まれて良かった、隼人君もきっとそう思っているでしょう。さ、椅子を引きますのでどうぞお座りください」
スターは紳士らしくダーダラをエスコートする。ダーダラはそんなスターに気を良くして、さらに酒を仰いだ。
「さぁ祝いだ! たんと食えよガキ共!! ん? あぁ、酒は止めとけ、まだ子供だからな。スターとあたし以外飲まないように!」
ダーダラはそう言ってにこりと笑う。シャンパンを見ていたリュウは不満顔だ。
「俺は子供じゃねぇよ」
「はっ! たかだか17のガキンチョだ。一杯ぐらいは許してやるが……後は止めとけよ」
ダーダラはそう言ってリュウの持っているシャンパンのボトルを貰った。ワイングラスに一杯注いでやると後は喇叭のみをしてしまう。
「さぁ乾杯だ。グラスを持て! スター達の旅の終わりを祝して、グライト達にはまだまだ成長を」
乾杯、カチンと小気味のいい音がなったグラスに皆一口口をつけた。甘い様な、ほんのり柑橘系の味が口いっぱいに広がった。