複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/6更新】 ( No.381 )
- 日時: 2014/10/07 21:11
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: jusjvnjl)
第四十六話 伝説の魚人
グライト達は次の秘宝を求め、再び海に出た。目的地はゴーラ大陸だ。
ゴーラ大陸と言うのは魚人や人魚が住む伝説の地、ダーダラが教えてくれたのだが、そこに守護神ブルーラが住んでいるらしい。ブルーラは多少話を聞かない節があるのだが、いい人らしいので秘宝も簡単に手に入るだろうとダーダラは言った。
グライト達はその情報を手に入れ、入口まで送ってくれたダーダラに感謝を告げ、別れた。
しかし、行きに貰った船は不幸にも流されていた。困り果てたグライト達に、スターが自分達が乗ってきた小さな筏のような船をくれた。何故これでここまで来られたのかいささか疑問は感じるものの、スターは誤魔化したので深くは突っ込まなかった。
とりあえず筏に三人座る。安定の悪い筏は三人座ると傾いた。これで本当にゴーラ大陸まで着けるのだろうか? グライトは心配になった。
◆
しばらく船を漕いでいると、案の定というか、波に巻き込まれ船は大破した。
命からがら三人で一枚の板につかまり、見慣れない岩場へ上がると一軒の家が見えた。何故こんな所に民家が、それも一軒建っているのだろうか? 怪しく思ったのだが、それ以外休める場所はなさそうだ。リュウは心配するグライトとユーノを見やり、背中を押すように言葉をかけた。
「しかたない、あそこで服を乾かしてもらおう」
まずリュウが岩によじ登り、ユーノ、グライトを引き上げる。
やっと一息つけた三人は、足に力が入らずよろけてしまった。自然と言うのは恐ろしいものだと改めて痛感する。
三人はよろける足で民家へ向かうと倒れ込むように扉をノックした。
「あぁ? なんじゃ?」
扉をあけて出てきたお爺さんに力の抜けた三人はドミノ倒しにもたれかかる。一番前に居たリュウが最後の力を振り絞り、そのお爺さんに頼んだ。
「こんな態勢で申し訳ないです……少し服を乾かしてもらえないでしょうか?」
お爺さんは快く迎えてくれた。三人は水に濡れた服を引き摺り玄関まで入った所、とうとう力尽き、三人とも床になだれ込む。
あの荒波を思い出して吐き気が催した。そんな様子で顔色の悪い三人を、褐色色の肌と筋肉質な体型で、軽く持ち上げた。そのまま適当に暖炉の前に降ろした。奥から取ってきた大きなタオルを三枚、三人にかけると温かい飲み物まで用意してくれた。
三人は嬉しそうに暖をとり、頭を下げる。
「本当に申し訳ございません」
「ありがとう、助かったぁ」
「ボク、死ぬかと思ったよォ」
三人はそれぞれ口々に海であった事を話した。それを聞いた家主は大声で笑い声をあげる。
「それは災難だったのぉ、まぁいくらでも体を温めて行くがいい。見た所、三人とも人間のようじゃな? ついてる奴らだ、普通人間なら死んでおったわい」
そう言う家主は自分の白い髭に覆われた顎を撫でる。おかしな言い回しをするな、まるで自分なら大丈夫だったと言うような口ぶりだ。グライトは首を傾げて老人をじっと見た。
「お爺さん、なんて名前?」
「ワシか? ワシはカントスじゃい。種族は魚人、シーラカンスじゃ」
「魚人!? 初めてみたよ!! ……ん? でもカントス爺さんはどうしてこんな辺境に?」
「カッカッカッ! ワシは単なる隠者って奴じゃ。しかしまだまだ肉体は20代! そんじょそこらの若造には負けん自信がある」
もう一度カッカッカッと笑うと半袖の服からでもわかる筋肉を見せつける。そんなカントスを見て、リュウは「あっ」と声を上げた。
「思い出した、爺さん年取ってるけどあの伝説の武道家、カントス・ラティズじゃねぇか!! ゴーラ大陸を代表する武道家だって聞いた事がある、俺の爺さんからだけどな。あんときはゴーラ大陸とか、魚人とか信じてなかったけど……ホントに居るんだ」
リュウは感心したようにカントスを眺める。カントスはそんなリュウをしげしげと見つめると手を叩いた。
「おぉ! 思い出しだぞ! お前バラル王国の爺さんの孫か? ほぉ、よく似ておる。お前の爺さんとは一度戦った事があるぞ、なかなか腕の立つ爺さんで、鈍ってた体が仇になって一発お見舞いされたわい」
あれは痛かった、そう言って頬をさするカントスは苦々しい顔をしている。相当悔しかったらしい。
結局勝ったと言っていたが、あまり嬉しそうでは無かった。
「そういやお前さん等、何しにこんな荒れた海をちんけな筏で渡ってきた?」
その質問にグライトはソリア大陸であったこと、自分達の目的をかいつまんで話し、ゴーラ大陸の守護神ブルーラの居場所を聞いた。
カントスはうんうん頷きながら静かにグライト達の言葉を聞いていた。黒雲辺りから顔が険しくなったが、グライトは続けた。
「——と言う事はお前さん等、秘宝を探して旅をしているってことだな?」
「うん、そうだよ。知ってたらでいいんだけど、教えてもらえないかな?」
「そうじゃのぉ……あ、ワシの家の手伝いをしてくれたら教えてやろう。どうじゃ? やるか?」
カントスは思いついたように手を打ち、にやりと笑った。
「手伝い……?」
食い付いたグライトに、手伝いの内容を話す。それは晩御飯の確保だった。森を抜けた所に大きな虎の様な生物が住んでいるらしい、それを倒し、肉を持ってくれば教えてくれるそうだ。
その説明にユーノが難しい顔になる。流石に魔物と戦うのは気が引けるらしい。
「ねぇカントス爺さん、どうしてもだめぇ?」
甘えた声でそう言うが、カントスは頑として首を縦に振らなかった。そんなカントスにユーノはぶーぶー言いながらも渋々頷いた。
カントスは最後に手ごわい相手だから、自分で行くのが面倒だと付け足した。
これを受けなければ情報は渡さない、強く言われたグライト達はその申し出に乗り、さっそく服が乾いたら家の裏へと足を踏み入れた。鬱葱と茂る草や木をかき分け、獣道を進むのは骨が折れた。一体いつになったら虎の様な生物が現れるのだろうか? 早々に気が遠くなってきた。