複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【10/7更新】 ( No.383 )
日時: 2014/10/22 21:25
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: /z9KW9Ro)

第四十七話 噂の人魚

 早朝、カントスに起こされてグライト達は車に乗り込んだ。しばらく走っていると、このゴーラ大陸の形が何となくわかってきた。
どうやらこの大陸は島が何個も集まって出来た土地らしく、様々な土地柄がある。カントスいわく、この下、深海にもゴーラ大陸は広がっているらしいが、人間は入れないとのことだ。
グライトはこの島を面白いと思った。それに水は豊富で食べ物がよく育つため、物資の獲得も簡単に出来たことも大いに喜んだ。
ゴーラ大陸を見ていると、全体的に彼らは穏やかで、生粋のソレイユの民らしかった。ももかして昔のソレイユの民は全て魚だったのかもしれないとグライトは勝手に想像を膨らませて楽しんでいた。

「ねぇカントス爺さんゴーラ大陸には国はあるの? 見た限り国と言うより村っぽいよね。国王は居ないし」
「国王? カッカッカッ! この土地には国王は居ないんじゃよ。国はこの土地全部じゃ。国王の代わりに守護神がいるじゃろうて。全て彼女が把握しているんじゃ。だからこの土地の土地民はブルーラを慕っている。他の国は国王なるものがおるんじゃろうが、この土地には必要ないというわけじゃ。そもそも国王は必要なのか? 全て同族じゃろう? 人間はおかしなことを考える」

カントスはそう言って首を捻る。グライトも同じ様に首を傾げた。

「おかしい? なんで? だって統率者がいなきゃ国がまとまらないよ?」
「統率者などいなくても生物は生きていけるわい。生物はそうバカじゃない、お前さん等も誰がリーダーとか特に決めてないんじゃろう?」
「……それは、そうだけど」

だけど何だか納得はいかなかった。それは今まで見てきた世界が全て統率されていたからかもしれない、それで国はまとまっていたのだ。だとすれば統率者は必要だ。どんな小規模な組織でもリーダー役がいなければまとまらない。——しかしそう考えると一体自分達はどうやって統率されてきたのだろうか? グライトはリュウやユーノ以外にも色々な人と旅をした。だが全てにおいてリーダーなどいない。自分達がそれぞれ考え、最良だと思った方法を使って生きてきた。

「……矛盾している」
「ん? 矛盾? どうした小僧、唐突に難しい言葉なんて使いおって」
「あのね、俺達はリーダーなんて決めないで今まで旅をしてきた。でも、統率者は必要だって思ってる。じゃあ今まで自分は誰に統率されてきたのか……分からないよ。俺達は勝手に動いていたんだ。皆で話し合って、いいと思う方法で動いてた。……ねぇ俺達のリーダーって誰だろう?」

グライトの素朴な疑問にカントスは笑いだした。カッカッカッと小気味よく笑うカントスに、グライトは首を傾げるばかりだ。

「そういうことじゃ、小僧。ワシらもそうやって生きてきたんだ。特にリーダーなんてものはいない。皆で話し合っていいと思う方法で過ごす。小僧の言うまとめ役は時に必要だが、それぞれ役割を分かっているんだから国王なんて言う独立した種族はいらないんじゃ。小僧、考えてみろ、国王が間違っていたら誰がそれを咎める? 国王は最高権力者じゃ、誰も咎めはせん。その場合国王はずっと間違ったままで生きて行く事になる。それがどれだけおかしな事でも何ら違和感を感じない」
「それってダメじゃないの? だって一国の王だよ? 間違ってることなんてあるの? その場合どうするの?」
「うむ、そのための国、組織、仲間、グループじゃ。ソレイユには色々な職種や血族がいる。全員異なる価値観を持ち、過ごしている。それを信じているんじゃ。その全員が差別なく、同じ立場ならば咎める人が出てくる。そうして色々な考えが合わさって素晴らしい考えが浮かぶんじゃよ」

カントスはそう言って褐色の肌によく映える白い歯を見せた。

「でもワシは国王を批判するつもりは毛頭ない。奴らは頭が切れる、カリスマ性もある、頼りがいもある、安心感を与えてくれる、力もある……彼らが与える物は生物の求めている単純なものじゃ。だがそれを与えるには多大な努力が必要となる。その努力をし、国王として指示を得ている彼らを見ると、自分も負けてられないといつも思わされるんじゃ」

カントスは言い終わりカッカッカッカッと笑った。
それを聞いていたグライトは、カントスの言葉が頭の中でこんがらがってよくわからなかった。結局国王はいるのか、いらないのか、国王とまとめ役はどう違うのか、人はどう生きていけるのか……。

そこでふと一つの言葉を思い浮かべた。それは「共存」。
昔、まだこのソレイユが出来たばかりの頃、国王もリーダーも無く、ソレイユの民は共存して生きていた。穏やかで、戦争の無い平和な世界。それが崩れ出した頃——丁度国王や国、組織が出てきた頃——どうにも生物と言うのは強欲らしく、地位を確保するため、簡単な方法として差別的対象を生み出してそれをいびる事が使われた。それで様々な大地が出来、土地が出来、繁栄していったんだ。しかし統率者が生み出した見事な光は同時に影おも生み出す。いびられ続けた対象は光に入りたくても入れず、結局影に逃げるしかない。そのような怨念や負の塊が作り出したのが影ノ皇だとしたら……?
そこまで想像してまさかと笑った。影ノ皇は人物だ、生きていた。母がいて父がいて——間違ってもマガイモノから産み出されたんじゃない。

「うぅん……よくわからないけど俺この土地好きだな。故郷を思い出す」
「おうそうかい、そうかい、うれしい事じゃわい!……あぁ、そろそろ着くぞ。用意はできておるか?」

カントスは振り返り、すっかり後ろで寝てしまっているリュウ達を見た。目をこすり起き上がる二人を笑うと車を適当な場所へと停める。
さて、とうとう会えるであろうブルーラはどう言った人魚なのだろうか? うまく秘宝を貰う事が出来るのだろうか?
美しい人魚とカントスが言っていたのでグライトは少し心を弾ませて車を飛び降りた。