複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/27更新】 ( No.393 )
- 日時: 2014/10/30 22:04
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)
◆
中に居たアルベラ・カガリと言う人物は女性だった。資料や本が床から壁にかけて大量に収容されているこの部屋のキッチンは奥にあったため、フィーはそちらへさっさと行ってしまった。
特にグライト達を紹介すると言う事も無く、居なくなったフィーを困ったような視線で追ったグライト達だが、カガリがこちらを振り返った事でフィーを追うのをやめた。
振り返ったカガリは髪がボサボサで眼鏡をかけていた。きっときっちり身だしなみを整えたら美人だろうとグライトは勝手に予想する。
「……で、聞きたいことがあるのでしょ? 聞きたい事、なぁに?」
眠そうな彼女の底抜けに碧い両目が謎めいた輝きを纏っている。それとは反対に、顔に纏わりつく髪をうっとおしそうに払う仕草はなんだか怠惰に映った。
当のグライト達はその瞳に委縮してしまいどう話しを切り出していいものか迷っていた。
暫くの間、迷っているグライト達を興味なさげに眺めていたカガリは、とうとう机へ向き直ってしまった。
カガリが原稿にペンを走らしていると、邪魔をしてはいけない気がしてならない。しかし声をかけなければ始まらない。そう迷っていると、唐突にカガリは思い出したようにもう一度振り返った。
「あなた、グライト?」
突然名前を呼ばれたグライトは驚き、返事が裏返る。カガリはそんな事気にも留めず、まじまじと遠慮なくグライトを見る。
「ふぅん、面白いわね。とうとうこの時が来たってわけ?」
「え?」
「困惑は後で、貴方達は秘宝を探しているんでしょう?」
図星をつかれた三人は驚きで目を見開く。
「わかる、わかってるのよ。さぁ連れてってあげる、守護神ドーバの元に。最後の秘宝、見つかるといいね」
そう言ったカガリは奥の厨房から料理を運んできたフィーに耳打ちする。フィーは心得たとばかりに笑顔になった。
「フィーについて行きなさい」
カガリは出来たての料理にありつきつつ、適当に指をさす。この部屋の奥だ。そこに何があると言うのだろう? グライト達はフィーを見た。
「私についてきて、案内するから」
フィーは楽しそうに奥の部屋の扉を引っ張る。堅いのか、何度かドアノブを引っ張り、とうとう明いた扉。埃が舞う事など気にせずフィーは進む。
めまぐるしく導かれる三人は先ほどの疑問など何処かへ追いやり、ついて行く事しかできなかった。
◆
部屋の中は書斎のようだ。長年使われていないのか、薄暗く、ジメジメとしていて気持ちがいいものではない。
本が足元に散らばり、絨毯のようになった場所をフィーは遠慮なく進んだ。
「さてここかな」
フィーはそう言って一つの本棚の前に立つ。埃っぽいそれはよくわからない文字で書かれた本がびっしり詰まっていた。
フィーが本棚の丁度7段目らへんを触る。すると、カチッと言う音が聞こえた。
「えぇっと、トールク・ビルト!」
フィーがそう唱えると本棚がすぅっと半透明になって行った。驚くグライト達、本棚が完全に消え去った時、石の階段が出てきた。フィーが一歩足を踏み入れると壁一面に蝋燭の炎が灯る。完全に浮き彫りになった階段、これがドーバの元に本当に続くのか……不安になったが行くしかない。怖じ気づく事無く歩きだすフィーの後をグライト達もついて行った。