複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/30更新】 ( No.394 )
- 日時: 2014/10/30 22:09
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)
◆
石の階段を下りる音が響くだけの時間。特にしゃべったらダメだと言うわけでもなさそうだが、なんだか緊張して三人はぎこちない。そんな三人の先頭をフィーは軽い足取りで進んで行く。
この階段がしばらく続くのだろうかとグライトが思っていると、目の前に金色のプレートがかけられた扉が現れた。
「ついたのかな」
フィーがそう呟きドアノブに手をかける。三人は顔を見合わせた。
「なんか緊張するなァ」
「そうだね」
「こんな所に本当に守護神がいるのか?」
「うーん、嘘はついていないだろうけど……」
始まった会話をよそに、フィーは扉を開けた。
◆
一瞬真っ白な光に包まれたかと思うと、図書館のような場所が現れた。その奥の方で一人の女性が本を片手に優雅に紅茶をすすっている。まるで御話の中に入ってきたようだ。
もしかして、あのカガリと言う女性の話しへ入ってしまったのだろうか? そう錯覚するほど現実味が無い場所だった。
「あの、ドーバ様でしょうか?」
大きな声でフィーが呼びかける。女性はその声に反応し、顔をこちらに向けた。女性は小さく頷いた後、口の前に一本指を立てる。
「静かになさい」
小さく呟かれた言葉は驚くほど鮮明に聞こえる。フィーは慌てて口を押さえ、声を小さくした。
「あの、グライト君達が秘宝を探しているらしいので、話しを聞いてあげて下さい」
フィーはそう言ってグライト達の背中を押す。にこやかに送り出すフィーにグライトは小さな声でありがとうと告げ、ドーバの元へ歩いた。
ドーバは歩いてくるグライトを値踏みするように眺める。細めの瞳が彼女を神経質だと語るようだ。
美しく長い艶やかな黒の髪はさらさらと肩から流れ、つい目を奪われてしまう。そんな彼女の神秘的で引き締まった雰囲気はこの図書館に異様に溶け込んでいた。
「秘宝、あなた六個も集めたの」
落ち着いた口調でそう言うドーバにグライトは頷いた。
「最後、後一つで黒雲が祓えるんです。どうか、俺に譲ってくれないでしょうか?」
真剣なまなざしでそう言ったグライト。ドーバは「そうね」と短く言って視線を外す。そして、告げられた言葉はグライトを衝撃させるのに十分な威力があった。
「できないわ」
「……ッ! どうして……?」
てっきり譲ってもらえるものだと思っていたグライトは、言葉を詰まらせた。
ドーバはその反応を予測済みだとばかりに説明を始める。
「この土地の秘宝は数年前、アンブラーによって奪われたのよ。同時に私の守護神としての力も奪われて行った。……私は今、ただの殻。幻想にすぎない」
ドーバの語る事実はグライト達が知る由もない突拍子な事。グライト達は声も無く、黙って聞いている事しかできなかった。
「始まりは数年前、災害でソレイユがぐちゃぐちゃになった時、アンブラーはその実力をソレイユの民に見せ、この国の王として選ばれた。そしてさまざまな発展を促した。
それは魔力であったり、建物であったり、技術であったり——様々な事よ。アンブラーはこの土地のため、身を削って働いてくれた。だけど、それは全て自分の目的のためだった……。アンブラーはずっとこの世界を支配しようと考えていたのよ。そのための準備も同時に進められていた。でも、自分の力の限界を知った彼はとうとう神の力を使おうと考えた。秘宝を探し出し、その力を奪おうと……でもね、秘宝は七つ集まらなければその力を発揮しない。だから、私の力も奪い去って行ったの」
哀しく眉根を下げるドーバはゆらゆらと揺れて、本当に幻想になっているようだった。
「あぁ、私があんな奴、信頼なんてしなければ……。この事は誰にも言えてないの。カガリにも、この土地の民にも……。なぜ? そう思ったでしょ? 応えるわ。そんな事を言えばパニックになるからよ。守護神が守っていない土地なんて滅ぶだけなのよ」
あぁ、あぁ、と嘆きだすドーバはアンブラーを責めていると言うより、自分を責めているようだった。
グライトはその話を聞き、どう言葉を紡げばいいのか分からなかった。慰める? 罵る? 自分が何とかすると言えばいいのだろうか?
だが、なんとかすると言ったところでアンブラーの居場所もわからないようならそれは無責任な発言になってしまう。
そもそも神の力をも手に入れたアンブラーに自分が勝てるのか? 自分の言葉が通じるのか? ここにきて再び無力を感じなければならないと言う事にグライトは歯軋りを覚えた。