複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【10/31更新】 ( No.396 )
- 日時: 2014/11/02 12:34
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)
第五十話 走る
あれから数週間、グライト達はグレゴラ大陸を目指し、調達した車を走らせていた。
ドーバが消えた事をカガリに伝えるとカガリは「そっか」と言ったきり口を開かない。フィーは心配するような顔でカガリを見て、その後グライトたちを見送った。そしてフィーはいつものように厨房へ、いつもと違う暗い顔をして向かった。
色々な事が一気に起こってしまった、その上守護神の一角がいなくなったとなると、グライト達は心もとない。
黒雲の進行も早まった事により、きっともうこの土地以外全て呑まれているだろう。
車の中には沈黙が重くのしかかっている。
唯一呑気なのはグライトの足の上に乗っているリーブルぐらいだろうか。リーブルの呑気さを見習いたいとグライトは不覚にも思う。
そうしている間に車が丁度森に差し掛かろうとしていた。その時リーブルは鳴いた。
「どうしたの?」
グライトはリーブルを見る。リーブルは窓にへばりつき、何かを見ていた。視線の元を探るとそこに茶色の髭を蓄えた中年の男性が、切り株の上に座っている。
疲れたのか、しきりにため息を吐きだしていた。
「リュウ、止めて」
グライトはそう言って助手席から飛び出す。
「あの、大丈夫ですか?」
グライトは男性に話しかけた。男は微笑み、何も答えず頷いた。
「何処へ向かうんですか? よければ乗せて行きますよ。えっと……名前は?」
グライトの問いに男はゆっくり応えた。
「わしはバードン。鳥を捕るため、その名で呼ばれています」
穏やかな表情はなんだか妖精のような雰囲気だ。この森によく似合っている。グライトは頷き、リュウにバードンを乗せてあげるよう頼んだ。リュウは快く乗せてくれる。
「いや、面目ない。わしはグレゴラ大陸の手前の森まで行きたいのです。大丈夫ですか?」
「丁度いいや、俺達グレゴラ大陸のレイヤル王国目指してるんですよ。」
にこやかに答えたリュウに、バードンは驚きの顔を向ける。
「あそこに行くのですか?」
正気か? とでも問いたげな口ぶりでバードンは腰を下ろした。リュウは「え?」と言いながら車を走らせる。
「あの大陸は闇と氷に閉ざされた隔離的大陸ですよ。他の大陸の者を呑みこむような魔物がわんさか消息していて、そこにたどり着いた者はいないとか。探索隊が何回か探索に出かけたのですが、誰一人戻らなかったらしいです。そんな所へ行くつもりですか?」
バードンはそう言って心配そうな表情になる。
「でも、行かなきゃならないから。そこに目的地があるから」
応えたのはグライトだ。リーブルを撫でながらほほ笑む姿は迷っているようだった。バードンはそれを鋭く察知し、言葉を続けようとしたが呑み込んだ。
車内につかの間の沈黙が広がる。その沈黙を破ったのはユーノだった。明るい声で隣に座ったバードンに話しかける。
「おじさん何してる人なの?」
にこやかに尋ねられたバードンは緩く笑みを作り「菓子職人です」と答えた。
「お菓子作ってるの? すごいね! ボクお菓子好き! ねぇ一番簡単なお菓子って何かなぁ? 作ってみたいんだ」
目を輝かせてそう言うユーノ。バードンは小さく笑い、簡単なレシピを説明しだす。ユーノはそれを熱心にメモした。
話しを聞いているとグライトとリュウもお腹がすいてくる。何かないかとリュックを探り出し、出てきたチョコレートを皆で分け合って食べた。
◆
グレゴラ大陸へ間もなくたどり着こうと言う時、先にバードンを目的地へと送った。
バードンは最後まで穏やかに微笑んでいた。
ふと気付いたようにリーブルに視線を送るバードン。「これは珍しい」そう小さく呟いたのをグライトは聞き逃さなかった。
何が珍しいのか、尋ねようとした時バードンは言った。
「縁があったらまたあいましょう」
微笑みをグライトに向け、森の奥へ消えて行くバードン。グライト達はそれを見送ってからグレゴラ大陸へと向かった。