複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/2更新】 ( No.397 )
- 日時: 2014/11/02 12:48
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L43yfzZ2)
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案外すんなり入れたグレゴラ大陸。リーブルの導きにより、氷の隙間から入ったグライト達は黒い雲が空を覆った大陸を見て、黒雲の姿を思い出す。
苦々しい気持ちのまま車を進めた三人。しかし、運悪く車は途中でオーバーヒートしてしまった。一体何がダメだったのか、いくら修理を試みても直る事は無かった。
仕方なく歩く三人。
バードンはここに魔物がいると言っていた。その存在に怯えながら早足で進む。
暫くそうしていると、魔物は出てこなかったが、妙に静かな事に気付いた。魔物どころか、小物の獣でさえも見当たらない。一体どうなっているのだろうか?
グライト達がそう疑いだしたとき、空から鳥の甲高い鳴き声が降り注いだ。
その煩さに耳を押さえつつ、降り立ったであろう鳥の姿を確認する。
それはまるで、伝説の火の鳥。赤く燃えたぎるその体、ルビーのように輝く瞳。真っ暗な世界では目立つ。その鳥が放つ紅の炎の美しさにグライト達は息を飲んだ。
「綺麗……」
グライトの呟いた言葉により、鳥はこちらを向いた。鋭くつり上がるそのルビーの瞳は得物を見つけた獣のように激しさを帯びている。全身で危険を察知した三人、逃げ出そうと足を動かすが、動かなかった。
「どういうことだ!?」
「足が……!」
「ボクも動かないよぉ!」
口々にそう言ってどうにか動こうと体を捻ってみるが、足は地面に縫い付けられたように微動だにしない。
その間にも鳥はゆっくり一歩ずつグライト達と距離を縮める。
「キィエェェエェ——————!!」
鼓膜を割る勢いでそう鳴いた鳥は、くちばしから炎を吐きだした。勢いよく炎はグライト達を取り囲む。
逃げ場を失ったグライト達、今更になって体の自由が利くようになった。
「まさかあの鳥、魔法を使うんじゃ……」
リュウの予想は運悪く的中した。鳥は翼をバサバサと広げながら、グライト達を取り囲む炎のグラウンドの中へ入ってきた。鳥はにやりと笑ったような気がした。
「応戦するしかないよ! リュウ、ユーノ、援護をお願いしていい?」
「任せろ」
「わかったよ!」
グライトは蒼剣を構えた。鳥はその蒼剣をみて目の色を変え、もう一度鳴くと炎の渦を生み出した。
当たれば即火傷。グライト達三人はペースを乱されながらもその竜巻を必死で避ける。
鳥は面白がるようにそんなグライト達を見て、くちばしを鋭くし、地面を割る様につついてくる。
「いッ……!!」
グライトは鳥のくちばしに気を取られ、竜巻を忘れていたのか、避け切れず肩を火傷した。
じゅわっと言う音を立て肩は肉の焦げた臭いを放った。その隙をついてか、鳥は追い打ちをかけるようグライトに鋭いくちばしを突き立てた。
「あぶない!」
くちばしを避け切れないかと思われた時、リュウがその間に割って入る。雷を纏った双剣で受け止めると、雷が伝線したのか鳥は「ぎゃっ」と声を上げ後ろへのけ反った。
「気をつけろグライト!! 油断してたら死んじまうぞ」
怒鳴る様にそう言ったリュウにグライトは頷く。再び気を張り直したグライトは恨みがましく見てくる鳥に斬りかかった。
鳥は軽がるそれを避けたが、横からやってきたユーノにより片目を失う。悲鳴を上げて頭を揺する鳥に、今度はリュウが斬りかかった。
雷はバリバリと音を立て鳥に落ちる。
「ぎゃあぁぁあ!!」
鳥は悲痛な悲鳴を上げその場に伏せた。グルグルと唸るように鳴らした喉も、息を引き取ると共に聞こえなくなる。
同時にグライト達を囲っていた炎がゆらゆらと揺れて消えて行く。まるでこの鳥の命を現しているような消え方に、グライトは少し哀しげな表情になった。
そんなグライトの元にリュウとユーノが集まってくる。ユーノは心底ほっとした様子で呟いた。
「よかった、死ぬかと思った……」
「そうだね」とグライトは生返事を返した。いつもとは違う雰囲気のグライトにユーノは眉根を寄せて心配そうに瞳を泳がす。
「いくぞ」
リュウの声と共にグライトとユーノは再び歩き出した。
今度はどんな獣が襲ってくるのだろうか? 出来れば会いたくはない。片時も油断を許さないこの大陸に、グライトは恐怖を覚えた。