複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【11/2更新】 ( No.401 )
日時: 2014/11/06 18:05
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: rdOgUgjF)

第五十一話 レイヤル王国

 レイヤル王国まであと一歩手前と来た所、再び魔物が姿を現した。今度はライオンのような尻尾が蛇の俗に言うキメラと言うものだろう。
ここにたどりつくまでいちいち小物の獣を相手にしていた身としては体力の限界だ。
地団太を踏みたくなる気持ちを押さえ、グライト達は自分の武器を構えた。

「グォォオオオォオォ!!」

キメラは咆哮を上げた。絶対的王者の咆哮だ。周りでなりを潜めていた小物達は一目散に逃げ出した。
グライト達も逃げ出したかったが、この先に行かなければならないと言う事で逃げ出せずにいる。
キメラはそんなグライト達を鼻で笑ったかと思うと途端に猛突進してきた。体はビル何階分だろうか? きっとぶつかれば全身骨折どころじゃないだろう。
グライト達は猛突進してくるキメラをギリギリで避けた。風圧がバランスを崩させたが、命はある。
無防備に背中を向けたキメラにグライト達三人は一気に切りかかった。

「……ッ!!」

キメラの尻尾、蛇がギロリとこちらを見る。同時に毒の息を吐きだしてきた。溜まらず避けたグライト達だが、少し吸い込んでしまったのか体がビリビリとして自由が利きにくい。
そんなグライト達にまたキメラはその牙を剥く。

「やばいっ!」

どうにか横へ全身を持って避けるが、擦り傷が出来たことにより、さらに体の自由が利きにくくなる。

「リュウ、ユーノ! 大丈夫?」
「なんとか」
「微妙」

二人は苦い顔でグライトを見た。体力も無い事だし、これは早急に決着をつけなければと思ったグライトは自分の中に居るであろう影へ語りかける。

力を貸してくれ!
お安い御用だ。

影は上機嫌でその姿を現した。さすがに体力のない今、意識を途絶えさせれば影に乗っ取られるだろうと危機を感じたグライトだが、意外にも影はグライトの身を案じる言葉を投げかけた。

「……大丈夫」

小さく呟いて蒼剣を握る手に力を込めた。立ち込める黒い煙は禍々しいモノそのものだ。
グライトの力を感じ取ったリュウとユーノは四方へ散った。巻き込まれたらたまったものじゃないと思ったのだろう。
リュウとユーノが体力を削ってキメラに攻撃をかけていたと言うのに、キメラはその王者の風格を崩さず、むしろ爛々と瞳を輝かせていた。

「ぐぉぉおぉぉおおお!!」

キメラは叫んだ。周りの鬱陶しい虫けらが追い払えたとばかりに毛を揺する。グライトを捕えたキメラは口から毒の様な液体を吐きだした。グライトは影の力と自分の力が合わさった事を感じ取り、体が軽くなるのを感じる。
毒の液体を軽々避けたグライトはまず一太刀、キメラの尻尾を狙って刀を振るう。キメラの尻尾の蛇はそれを感じ取り、体をくねって胃液、元い酸を飛ばしてきた。地面をとかすそれは王水に似てなくもない。グライトはその酸を力任せに叩き斬るとその勢いのまま蛇を斬る。

「ぐぎゃあ!」

蛇は地面にひれ伏した。ドロドロの黒になって土に帰って行く姿をゆっくり見送る事も無く、グライトは次に体のバランスを失ったキメラに斬りかかった。思い切り首を斬るつもりだ。
キメラは抵抗した。鋭い牙でグライトを噛み砕こうとしたり、ダイアモンドの様な爪でグライトの肉を裂こうとした。
グライトは集中してキメラの隙を探す。

「いまだ!」

グライトは今まで守りだった態勢から一転、攻めの態勢に入った。キメラは真正面に飛んでくるグライトを丸のみしてやろうと構えた。口から覗く牙はグライトを今か今かと待ちかまえている。
しかしグライトはバカ正直に真正面に飛んで行ったわけでは無かった。猫だましのように、もしくは不意打ちのように口を開けて構えるキメラの首の後ろへ回る。
そして太刀を振るった。

「グギャッ!!」

キメラの首は宙を舞う。そのまま地面にボトリと落ちると泡を吹いて舌をだらんと垂らした。

「よっし!」

グライトはやっと一息つけるとほっと胸をなでおろした。間もなくグライトの元に端で小物を蹴散らしていたリュウとユーノがやってくる。

「さっさと走るぞ!」
「もう戦ってられない!」

リュウとユーノはそう言ってグライトを急かす。その後ろから小物の大群が追いかけてきていた。慌てて走る三人。小物はそんな三人を飢えたギラギラした瞳でとらえて離さない。
やっと見えてきたレイヤル王国の石の城壁、三人は用意してあったフードを目深に被り転がり込むようにその壁を叩いた。