複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【11/17更新】 ( No.410 )
日時: 2014/11/23 22:24
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: c6/fJCmS)

第五十三話 意志と意思

 グライト達が目を覚ました時はすっかり夜になっていた。ゼルファが起こしに来たのだ。晩御飯だと言うゼルファにそう言えば何も食べていないと思いたったグライト達は大人しくついて行く。
そのゼルファから聞いた言葉に、グライト達は目を見開いた。

「黒雲が……?」
「どういうことだよッ!?」
「ボク達の友達はみんなのまれちゃったってわけ……?」

一瞬で顔を蒼白にさせ、少しうろたえるグライト達。そんなグライト達とは対照に、ゼルファは穏やかだ。

「まぁまぁ……今更急いでも仕方ありません。ご飯、用意したので食べて行きなさい」

諭すようなゼルファの言葉に、唖然としたグライト達は従うしかなかった。
拙い足取りで食堂に向かうグライト達を、ゼルファは少し心配そうな目で見ていた。

 カチャカチャと食器が擦れ合う音しか響かない食堂。そう言えば周りに人がいない。閑散とした食堂は何処か寂しく見えた。一体皆はどこへ行ったのだろう? はたまた、ここはそんなに売れない宿なのだろうか? 見る限り綺麗に掃除されていて、後者の可能性は低かった。
不思議に思ったグライトは料理を運んでくるゼルファに尋ねることにした。

「他の皆はもう寝ているの?」
「いや、もうみんな逃げたんじゃないか? 我々は野性的本能と、しっかりした教祖様がいるからね」

穏やかな口調でそう言うゼルファに焦りは一切感じられない。
逃げたのか、グライトは納得して目の前の人物が此処に居ることに違和感を今度は覚えた。もしかして、自分たちを待っていたのだろうか? それならば悪い事をした。自分達に逃げると言う選択肢はないからだ。
そんなグライトの気持ちを代弁するようにユーノが口を開いた。

「ゼルファさんは逃げないの? ボク達を待っていたの?」
「そうだねえ……この年になると国から出る、家から出ると言うのはなかなか踏ん切りがつかないモノがあってね、私は大丈夫だよ。もう随分トラウマとは会っていないからね……たまにはそう言う気分もいいかもしれないだろう?」

ゼルファは感慨深そうにそう言った。遠い昔を思い出し、懐かしむような穏やかな表情で、まるでトラウマなど無いと言わんばかりの態度だった。
しかし、そうではないだろう。こういう時代だ、誰であれ何かしらのトラウマを抱えているはずだ。もしくは何かしらの劣等感、嫌悪感、その他負の感情を持っていないわけがない。
グライト達は首を捻った。どうして彼はこんなにも余裕があるのだろうと。一体彼は何を考えているのだろうかと。

「黒雲に飲み込まれたらたまにとかは言っていられない状況になるぞ? それでもいいのか?」

気遣うような、心配するような口調でリュウが再度そう言った。
そのリュウの気遣いでさえゼルファは頑なに首を横に振る。

「それでもいいさ。どうせ短い命。トラウマと過ごす時間はすごく短い」
「それでもやっぱり逃げた方がいいんじゃないのか? 俺達がどうにかするって言っても勝算は100%じゃない。むしろ50%を切っているかも知れないんだ。実質、秘宝を持っているのはグライトだけだから、俺達はお荷物になるかもしれない」
「じゃあ残りの半分に賭けるよ。私は此処でリン達が帰ってくるのを待っていなければならないからね」

ゼルファはそう言って遠い瞳をした。
そこでグライト達は思った。一体リン達はどこへ行ったのだろう? そんなに遠くへ行ったのか、新しい世界へ行ったのだろうか? 三人は生憎この大陸以外知らない。この大陸以外でこのように陸続きになっている所があるというのは、どうも違う世界へ足を踏み込むような気持ちになる。
ゼルファが食堂から去り、キッチンへ戻った。ガチャガチャと慣れない音で皿を洗っている。じっとその背中を見ていた三人だが、腹をくくった。この国を出て、アンブラーを止めよう、そしてゼルファが待っている国民を呼びもどし、自分達の国を覆っている黒い雲を追い払おう。再び美しい青色が広がるまで、がんばってみようと。
そうと決まったグライト達は、ゼルファに感謝の言葉を告げ挨拶を済まし、この国を出ることを告げた。ゼルファはほほ笑んで「いってらっしゃい」と言う。そして思い出したように手を叩いた。

「そうだ、地下道がある。そこをつかいなさい。この宿からつながっているよ、ほら角を曲がった所の……確か045号室、だったはず……がんばりなさい」

グライト達はゼルファの言った通りの部屋を通る。045号室は扉を開けた瞬間から階段になっていた。よそ見をしていたら落ちるかもしれないというぐらい急な階段だ。
グライト達は慎重に降りた。そして数分後、外へ出た。外へ出ると小物の魔物たちが怯えて身を寄せ合っていた。
——あぁ、果てが近づいている。
直感的にそう思ったグライト。リュウやユーノもそれを感じ取ったらしく眉根を下げてらしくない表情をしていた。
そんな二人を元気づけるようグライトは笑顔で言った。

「すんなり通れそうだね」
「あぁ、そうだな」
「うん」

二人はグライトの笑顔につられて少し口の端を上げた。
三人がどちらへ行こうか迷っている所にリーブルが現れた。どこから現れたのかわからないが、リーブルは三人についてくるよう意思を見せる。三人は大人しく従った。何故だかそうしなければならないような気がしたからだ。

 氷山がごつごつとした道。アンブラーがいる洞窟までは多分、そこまで長い道のりでは無いはずなのに、妙に圧迫感が付きまとい、足が自然と遅くなる。
先頭を歩くリーブルだけが軽快に滑るよう進んでいた。そんなリーブルにおいて行かれそうになるものの、三人は心持早歩きで歩く。
何度かそれを繰り返していると、とある石の塊が出てきた。ぱっくりと開いた入口は闇の根源とばかりに暗かった。リーブルはそこに迷わず入った。グライト達は足が止まりそうになるのを気のせいにしてリーブルの後を歩いた。