複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【11/24更新】 ( No.414 )
- 日時: 2014/12/13 14:43
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: QBvEkUjp)
久々に見たリーブルに、テオは深いため息を吐いて首を振る。
「めんどくさい。もしかしたら俺もあっちの世界に入ってしまうかもしれないだろう? 俺はもうあちらへ戻りたくないんだ。巻き込まないでくれ。そんなことより俺の昔話にでも付き合ってくれよ。なぁ友人よ」
テオはそう言ってリーブルの頭に乱暴に手を置いた。リーブルはその手を払いのけ、テオを睨みつける。
「ばっかじゃないの。あんたね、あっちの人間に裏切られたからっていつまで根に持っているわけ? ネチネチした男は嫌いなの。黙って言う事を聞きなさい。あと、私は貴方より年上なの。敬語使いなさいけ・い・ご!」
気が強いらしいリーブルはダメおやじを叱る娘のように見える。テオはそんなリーブルの声を聞こえない様耳に手を当て、首を横に振っている。酷く子供じみたその行為は大の大人がやると何と情けなく映るものなのだろうか。
グライトはそんな二人を置いて、空間を切り裂くと言うとんでもない事について考えていた。最初に疑問に思ったのは、どうやって空間を切り裂くのだろう? と言う事。
次にそれはどの場所を切り裂くのだろうと言う事。はっきり言ってこの場所は独立した空間として存在している。切り裂くと言うのは出来ない。空気を切るようなものだからだ。
先ほどの真っ暗な場所ならばそれはできたかもしれない。あそこは狭間だったはずだ。空間と空間の間にできた小さな空間。独立していないため不安定で長い間居られないが、なんとかなるはずだ。
そう考え、グライトはリーブルを見る。
「ねぇリーブル。またあの暗い空間に戻るの?」
「そうね、出来る事ならそうしたい。だけど無理よ。あれは奇跡だった。貴方は崖から落ちた時点で死んでいた。あそこはたまたま強い力に反応した空間が現れたにすぎない。だからあそこは不安定なの。あそこへ戻る事は叶わない」
「だったらどうするの? どうやってここでそのとんでもない作戦を行うわけ?」
「そうよ」
即答するリーブルにグライトは首を傾げた。リーブルはそんなグライトを見て得意気に胸を張る。
「この空間はわたし、リーブルが創った空間。この男テオはその昔影ノ皇と対決がつきそうな時、彼を封印しようとした。
しかし、ルォータ デラ フォルトーナにより貴方と同じ状況に陥った。あの真っ暗な空間、いや、テオが落ちたのは真っ白な空間だったかな? その空間は不安定なもので早くそこから逃げなければその空間もろとも呑みこまれる運命だったの……。
崩れ去る空間を背に、わたしはテオをどうにか助けようとこの空間を生み出した。初めは小さな物だったわ。それをテオはこの空間にリンクして広げた。もう何世紀も前の話しになるのだけど……ともかく! テオを使えばこの空間に風穴ぐらい開けられるかもしれないって事! リンクしている主がそこにいるのだから、それぐらいできなくちゃこまる」
リーブルは言い終え、じっとテオを見た。テオはイヤイヤと首を横に振っている。
「お願い、テオ。わたしに力を貸して? 貴方が守ったソレイユが今、また危機にさらされているの。もう貴方は秘宝を持っていないけど、力はあるでしょう? 彼、グライト君は秘宝を今5つ持っている。ソレイユを守るためにはグライト君をあちらへもどさなければならない。そしてディザイアを蘇らせ、再生を行わなければならない」
おねがい、そう言ってリーブルは可愛くおねだりするように小首を傾げた。
それでもテオはまだ渋っている。そんなテオに最後の念押しとばかり悪戯っぽく微笑んだリーブルは、テオが今一番憎いであろう人物の名前を口にする。
「貴方をこの空間へ追いやったアンブラーを倒してくれるかもしれないの」
アンブラーと言う名前にテオはピクリと反応を示した。
そう、テオをこの空間へ追いやるためルォータ デラ フォルトーナを創った人物は、アンブラーだったのだ。アンブラーは影ノ皇を倒し、英雄となったテオを陥れ、自分がその地へ上りつめた。
そして今、世界に終焉をもたらし新しい世界——自分が中心で回る世界を創ろうとしている。創造主になろうとしているのだ。それは大きな反逆であり、全知全能の神の教えに背く行為であった。
そんなアンブラーをテオは憎んでいる。自分をこの小さな空間へ追い詰めた人物であり、自分がかなわなかった人物であったからだ。
テオはその昔、正義を信じる勇敢な青年だった。果敢に敵へと飛び込んで行く姿に世の男達は憧れ、女達は魅入られた。
そんな彼が今ボロボロの布切れに身を包み、髭を生やし、胡散臭い顔でグライトを対応している。落ちぶれたものだと自分で自分を許せなかった。そしてなによりこのような状況を作ったアンブラーも許せなかった。
その為テオにとってアンブラーと言う言葉は禁句だった。その禁句を、リーブルは口にした。テオが苛立ちを隠せなくなる。余裕がなくなり、恨みがわき上がって自分を支配する。
「お前……」
テオはリーブルを睨みつけると、グライトを値踏みするように見た。グライトはその視線に少しおびえる。テオは不機嫌を体現したような声で問いかける。
「アンブラーを殺せると言うのか?」
ぞっとするような声だった。心底恨みがましいと言っているようだ。これが元英雄だと言うのだろうか? グライトにはそうは思えなかった。