複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/13更新】 ( No.415 )
- 日時: 2014/12/13 14:46
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: QBvEkUjp)
——だが怯えている場合じゃない。グライトは頷いた。緊張で冷や汗が出てきたが、その瞳は強い光を宿していた。
テオはその光を感じ取った。それでもしばらくは黙ったまま何かを考える様に顎に手をやる。
最後のひと押しとばかりに、リーブルは続けた。
「こう言っている事だし、テオ、手伝ってくれるよね?」
ね、と念を押すようにリーブルはじっとテオを見た。テオはとうとう折れたのか「はぁ」と深いため息を吐きだした。
「……あぁ、わかった。空間に亀裂を入れるぐらいはしてやる。その後のことは自分でどうにかしろよ」
先ほどの声とは打って変わって呑気な雰囲気になったテオは「どっこいしょ」と言う掛け声とともに大木の幹へ近づいた。幹に手をかざし、周りの光を集める。花弁が、強い風力により舞い上がった。キラキラとした粒子が花弁に相まってその主張を増す。
その美しい光景にグライトは息を飲んだ。今からしようとしている空間に亀裂を入れるなど物騒な事が起きなさそうな、そんな和かい雰囲気だった。
それはものの数秒で終わる。
テオの手に魔力が十分に集まった。その時、テオはおもむろに口を開いた。
「——……そうだ、お前に伝えておく。影ノ皇は悪い奴ではない。あいつは可哀想な奴だ。人々から差別され、何もかも失った。裏切りを生身で体験し、誠実さを失い、理性をわざと取り去った。あいつは可哀想な奴だ。だから、もし奴と口をきく事があったなら伝えてくれ。テオが箱庭で待っている。お疲れ様と……伝えてくれ。頼んだぞ。あと、お前、秘宝を全部集めてどうするつもりだ?」
ニコリと優しくほほ笑んで、その先の答えなど知っているとばかりのテオ。
そんなテオにグライトは自分の出した答えを、自信たっぷりに胸を張って伝えた。
「俺はソレイユに平和を取り戻して、俺の大切な人を助けるんだ」
「よく言った。その願い、叶うだろう」
テオはグライトの答えに満足げに頷いた。そして「準備はできたか?」と尋ねる。グライトは力強く頷いた。
3……2……1
カウントダウンを終わったテオは幹に優しく触れた。すると幹は大きな音を立ててはじけ飛んだ。
先ほどの穏やかな風景とは一変、木片をばらまきながら木は歪に、小さなボールぐらいの空洞を作った。
あまりの爆風にグライトはよろけたが、そんな事よりもその力に驚き、少し恐怖を覚え体から力が抜けていた。
小さな空洞を創りだしたテオの額には汗が流れている。しびれを切らしたテオはグライトを睨みつけた。
「さっさとしろ!」
テオが緊迫した様子で叫ぶ。グライトは態勢を整え、慌ててテオに駆け寄り、手に持っていた蒼剣を突き立てる。重くて堅い重量感のあるものに刃を突き立てた時のように手はビリビリと震えた。
キーンと耳をつんざく音が不快だったが、グライトはさらに力を込め、剣を捻じった。バリッと嫌な音がした。その音はどんどん広がっていく。出来たのは人一人が通れるぐらいの風穴だ。その先に映っていたのはグライトがいたあの洞窟。今や見る影もないぐらいに崩壊していて、その中心にアンブラーがなにやら呪文を唱えて浮いている。手で触れている黒いものはきっと影ノ皇だろう。
本当にこんな事が出来ると思っていなかったグライトは、ついぼうっと眺めていた。そんなグライトの傍にいつの間にかリーブルが立っていた。
「速く行きなさい!」
そう言ってグライトを無理矢理風穴へ押し込むリーブル。慌ててグライトは頭を風穴へと入れた。その勢いで体もねじ込んで行く。風穴はどんどん小さくなる。
グライトが向こうへ渡っただろうその時、リーブルは猫の姿に変わりチラリとテオを見て飛び込んだ。テオは軽く微笑み、リーブルに「またこいよ」と言って見送った。