複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/13更新】 ( No.422 )
- 日時: 2014/12/18 21:32
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: pLBaa8kf)
第五十五話 空白の歴史は動き始めた
洞窟は今にも崩れそうだった。
アンブラーから放たれた一本の光の柱は見事天を貫き黒雲に穴を開けた。すると黒雲は雷を伴い、豪雨を降らし始めた。
「最高の天気……!」
アンブラーはにやにやと笑いながら天を仰ぐ。
「さて、影ノ皇様? さっさと目を覚ましましょう。そして貴方を苦しめたソレイユの民を滅ぼして下さい。そしたら私がこの世界に終焉をもたらしましょう! その後、美しい世界を、理想の世界を創るんだ……!」
アンブラーはそんな事を言いながら魔力を凝縮させる。凝縮させた魔力はそのまま水晶の壁へぶつける。
水晶の壁は耳をつんざく様な音を立て、砕け散った。バラバラと破片がアンブラーに降り注ぐ。鏡が割れたように散らばる水晶は、アンブラーの歪んだ半身を映しだしていた。
——そうして影ノ皇は野に放たれた。
石像ほどある大柄な体、封印が溶けた影ノ皇は静かにその鋭い瞳をギラギラと輝かせた。影ノ皇は獣のような雄叫びをあげ、狂ったように暴れ出す。
そんな影ノ皇を見てアンブラーは勝利を確信したとばかりに嗤い出した。愉快な笑いはそのまま瓦礫に呑まれ、洞窟に共鳴を始めた。
◆
あちらの世界から出てきたグライトは洞窟のありさまを見て心を痛めた。それは隣に立っていたリーブルも一緒だ。リーブルはグライトが気付かないうちに黒い猫に戻っていた。先の話しを聞こうにももう「にゃあ」としか言わない。
まだアンブラーはこちらに気づいていないらしい。グライトは最初に自分と同じように下へ落ちて行ったリュウとユーノを探した。
だが、真っ黒な穴は二人の姿を隠したままだ。
どうしようか迷っている時、グライトの腕についていた金色の腕輪が光り出した。淡い青色に光るその腕輪は真っ直ぐと一定の場所を示すかのようにグライトを導く。
グライトは一つの穴の前に立った。一段と暗いそれに一筋の青い光が伴っている。
金の腕輪はその奥を照らし、何かを伝えようと必死に輝く。グライトは金の腕輪が言わんとしている事がわかった。ここに二人がいるのだと。
「ユーノ!! リュウ!! そこにいるの!? 大丈夫?」
グライトは穴に向かって叫ぶ。返事は帰ってこない。焦れて、下へ自分も降りようと思った時、アンブラーが目敏くグライトを見つけた。
にやにやと笑っている口元、秘宝と一体化した半身は異形のものと化している。手は獣のように鋭い爪があり、皮膚はただれ、目をそむけたくなる様な姿のアンブラー。
一体彼はどうしてこのような事になってしまったのだろうか、グライトはアンブラーの紅い片目に捕えられ動けなくなった。
「生きていたのですね」
アンブラーは誰かとダブったような声でそう言った。その声を聞くだけで脳はピリピリと緊張していき、正常に動かない。
アンブラーはフワフワとグライトに近づいた。鋭い爪を持った手がグライトの首へと延びてくる。
「私がこの手を横にすれば、貴方の首を掻っ切る事が出来ます。貴方の頭は宙を舞い、血を乱舞させ、地面に不時着する前にあそこで暴れている彼にぐちゃぐちゃにされるでしょうね」
にやにやと笑ってそう言う。グライトは冷や汗をかきながらもアンブラーを睨みつけた。
「一体何が言いたい?」
「私に秘宝を全部くださいよ」
アンブラーは即答だった。その声に反応し、その半身に反応し、グライトの持っている5つの秘宝は輝きだした。
そしてグライトの足下で淡く輝く後1つの秘宝。
「さて、全知全能の神のお出ましだ」
アンブラーは静かに呟いた。
アンブラーの言葉と同時に空洞の開いていた黒雲から真っ白な光が駆け下りてくる。その光は地面に近づくにつれ増幅して行った。光は地面にぶつかった。勢いよくぶつかったため、四方八方にその欠片を散ばせる。
——現れたのは真っ白な天女だった。天にまで届く大きさ、大きな真っ白な手、目はふさがれていてきっと見えてはいない。穏やかな表情で天女はグライトとアンブラーを見ていた。