複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【12/18更新】 ( No.425 )
日時: 2014/12/21 22:52
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)



 降りてきた天女はその優雅で雄大な姿を惜しげもなく魅せた。キラキラと輝く様な髪は海の様に碧く、美しい肌は陶器の様に儚げで脆い。
天女は言った。

<——ディザイア、それはわたくしが授ける唯一絶対な宝石。その力は天を割り、地を裂き、時にはソレイユに平和をもたらすでしょう——。>

第一声、天女は穏やかな声でそう告げた。
その言葉を聞き、にやりと笑ったのはアンブラーだ。アンブラーは彼女の前に立ち、問う。

「そのディザイアは絶対的な力も与えるのでしょうか?」

天女はその問いに微笑をこぼすと頷いた。

<——ディザイアにはかなえられない願いは無いのです。貴方の望むものはなんでしょう? ディザイアはその願いを素直に従います——。>

天女はそう言って両手を広げた。真っ白な光が集まりだす。ボロボロになっていた水晶はその光に反応し、吸い込まれていった。
真っ白な光は全てを吸い込んでいく。洞窟の壁、地面、空、全てを吸い込み始めた白い光にアンブラーは目を怪しく輝かせ、見入っていた。

グライトは一体何が起きているのかわからなかった。全てを呑みこみ始めた天女の光、穏やかだが、なぜかそれはおぞましいものに思えたのだ。

——その時だった。

鋭い地響きが真っ白な地面を割った。地響きはその黒々とした穴を広げ、天女を呑みこもうと蛇のように這う。その異変に気付いた天女はうろたえ、音の主を探すように周りを見渡した。
その音の主は先ほどまで壁を壊して回っていた影ノ皇だった。影ノ皇は苦しげな唸り声を上げながら猛り狂い、真っ黒で鋭い大剣を天女へ向かって振り下ろした。

ブオンと強い風が真下へ響く。

<——キャアアアアァアアァァァァッァアッァァアアア——……!!!!>

天女はヒステリックな悲鳴を上げてその体を真っ二つにした。集まっていた光が四方八方へ散漫して行く。

そして……跡形もなくその姿を打ち消した。

残された物は何もない。空間も空も、そこだけぽっかりと穴が開いたように何もない。
アンブラーはここに来て初めて焦りを見せた。うろたえ、空中で体を揺する。禍々しい半身をだらりと垂らしたままだが、そこから魔力があふれ出てきた。どうやら彼の感情に反応しているらしい。

「おい!! 何をしてるんだ! クソッ!!」

汚く罵り、影ノ皇を睨みつけるアンブラー。影ノ皇はそれに気付いたのか、アンブラーに向かって大剣を振り下ろそうと重々しい剣を持ち上げる。
瘴気に当てられたその剣は魔力があふれかえっていて当たればアンブラーも存在ごと消えるだろうと簡単に予想できる。

「チッ、これだから野蛮な民族は嫌なんだ!」

アンブラーは影ノ皇の勢いのある剣をギリギリでかわすと上へと舞い上がる。
アンブラーの目の前にいたグライトは反応が遅れ、暴風により後ろへ飛ばされた。背中に鈍い痛みが走る中、起き上がろうともがくグライト。
それを目敏くとらえた影ノ皇は大剣を横へ薙ぎ払った。大剣は不思議な事にその身長を伸ばしグライトに襲いかかる。

「ッ!! え!! まって!!」

グライトは情けなくもう一度転がった。影ノ皇はそのままグライトを追おうと一歩踏み出し、だがそれは拒まれた。
後ろへまわっていたアンブラーの放った火の玉により態勢を崩したのだ。
アンブラーは苛立ちのまま魔力を暴走させだす。秘宝の半身により、アンブラーの魔力は増加しているようだ。

「あぁもう! 計画が台無しだ!! お前なんてもういらない!!」

アンブラーは取り乱したようにそう叫ぶと無数の大きな岩を構えた。岩は全て鋭く尖っていて当たれば貫かれるだろう。アンブラーはその岩を容赦なく発射させた。
岩は勢いを増して影ノ皇を貫こうと向かってくる。このままいけばグライトも確実に貫かれるだろう。
だがそんな事よりもグライトは影ノ皇を気遣った。テオに言われた言葉を思い出したからだ。

「大変……!!」

どうにもならないのだが、足は止まらない。大きな影ノ皇を全て守ることはできないのだが、それでも少しでも助けなければとグライトは岩の前に立ちはだかっていた。
蒼剣を構え、岩を斬ろうと力を込める。その力に反応した蒼剣は輝きを増した。そしてグライトは叫んだ。

「どうにでもなれぇええ!!!」

グライトは蒼剣を振るう。蒼剣は鋭く光り、岩にぶつかった。金属が擦れ合うような嫌な音が数秒続いた。一瞬であるはずなのに、グライトにはその数秒が長く感じる。
力を込める腕がビリビリとして耐えれそうになかった。グライトはそれでも力を緩めない。
そんなグライトの態度にアンブラーは心底面倒そうな顔をした。

「邪魔しないでもらえますか?」

魔力のこもった岩がグライトの方に集まった。ただでさえ耐えられそうになかったと言うのに増えた岩に耐えられるわけもなく、グライトは悲鳴にならない悲鳴を上げ岩に呑まれそうになった。
その時、金色の腕輪が輝きだす。
輝きはグライトの腕を伝って登っていき、グライトの前に集まった。その光にはじかれた様に岩はバラバラに粉砕された。

あまりの光景にグライトは驚く暇もない。暫く唖然としていると後ろに気配を感じ、反射的に飛びのいた。
その気配は影ノ皇のものだった。グライトは体をこわばらせた。すぐさま大剣が振り下ろされると思っていたのだが、いつまでたっても衝撃は無く、影ノ皇はただ黙ってグライトを見下げていた。

「?」

グライトは首を傾げる。それでも力は抜かない。影ノ皇はグライトを見ながら重そうな口を開いた。

「——……なぜ、助けた?」

低い声だ。だが思った以上に穏やかで、先ほどまで暴れていたとは思えない。影ノ皇はそのままグライトを睨みつけている。グライトは言葉がうまく出てこない。

「お前はあいつとよく似た気配を持っている。……お前は誰だ?」

影ノ皇の言葉にグライトは驚いて、目を見開く。

「え……? えっと、ぐ、グライト。俺はグライト。……貴方の言っているのはテオさんの事ですか?」

神妙な面持ちで応えたグライトに、影ノ皇は頷いた。期待でグライトは顔を輝かせる。覚えていたんだ、理性があったんだ、そんな思いが一気に駆け巡り、テオからの言葉を伝えるには今しかないと思った。

「あの! テオさんから伝言が!!」

グライトがそう言って伝言を言いかけた時、爆発音が耳元でした。一瞬何処で爆発音がしたのか分からなかった。
だがそれはすぐにわかる。前の——影ノ皇の顔がアンブラーの放った炎に弾かれた音だった。
弾かれ後ろへとバランスを崩す影ノ皇。アンブラーはそんな彼を見てペッと唾を吐きだした。