複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【12/21更新】 ( No.426 )
日時: 2014/12/21 23:23
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)



 不機嫌をあらわに空中で半身を禍々しく変形させたアンブラーは二人を見て問いかけた。

「いつまでちんたら話しているんですか? もう貴方はいらない。もう自分の力で世界を終わらせてやる」

アンブラーは半ばやけくそでもう一度唱えた。

「ルォータ デラ フォルトーナ!!」

今度は黒い渦が天に向かって伸びた。空は真っ暗になり、嵐が激しくなる。近くに海があるのか、津波の音までしてくる。
流石にグライトは焦った。
どうしようかうろたえていると、グライトの後ろにいた影ノ皇が起き上がる。額に血管を浮かび上がらせ、目が真っ黒になった影ノ皇。殺気がグライトを呑みこむようで慌てて横へと道を外れた。

「お前……あの時の男だな?」
「あぁ、覚えていたのですね。お久しぶりです。あの時は素晴らしい最期でしたねぇ、まぁ最終封印されていましたけど」
「五月蠅いっ……黙れ!! ……お前はまだこんな事をやっているのか?」
「当たり前でしょう? だってまだディザイアを手に入れていませんから。私はディザイアを手に入れ神になり創造主になるのです」

アンブラーはフンと鼻を鳴らした。影ノ皇は苛立ちをさらに募らせる。

「お前は何故そこまでしてディザイアにこだわる?」

影ノ皇は地を這うような声で問いかけた。ゴォゴォとなっている風はさらに力を増した。アンブラーはその声に少し緊張を走らせ、しかし全くの無表情で答えを渡す。

「この腐った世界を潰すためですよ。貴方はわかるでしょう? この世界は腐っている。……腐っているんだッ」

悔しそうに、憎らしそうにそう言ったアンブラーは顔をひきつらせて、せせら笑った。

「この世界は昔、とても平和な世界だった。人々は平等に生まれ、平等に死んでいく。輪廻の歯車の一部となり、誰も人を怨まず、憎まず、まるで真っ直ぐ伸びる一本の木のようだった。
だが、それも数世紀経てば終わる。木は枝分かれをしすぎたんだ。枝分かれを起こした木はあちらこちらで芽が生まれ、どんどん、どんどん広がり、その体を大きくした——そして、一人の悪魔を生みだした。そいつは人を憎み、恨み、壊していく」

アンブラーは続けた。
グライトと影ノ皇は一体急に何を言い出したのかわからなかったが、聞く事にする。聞かねばならない気がしたからだ。

「……だがそいつが生まれたのは何故でしょう? そう、答えは簡単。周りの人間のせいだ。周りの人間はそいつが秀でて優秀だったから、少しの嫉妬を心の片隅に産み出した。人は弱い。だからその嫉妬を肥やす羽目になった。
嫉妬に狂った人間は迫害を始め、そいつを捕え、思いつく限りの罵倒と蔑みの目をくれてやった。
そして迫害された人間は本物の悪魔になるのです。
悪魔は人を騙すのが大好きです。悲惨な結果が大好きです。悪魔は欲望に忠実です。
自分を貶めた人間をこの手でつぶす快感は忘れられない……。そして悪魔は快感を得るため外へと飛び出した。あっちこっちでイタズラを始めた。……悪魔はどうしてそんな事をしたのでしょうね?」

アンブラーの質問にグライトは応えた。

「仲間に入れてほしかったから?」

アンブラーはその答えに頷き大袈裟に呆れた。

「まさか、そんなものは原動力にならない。全ての原動力は負の感情。寂しさなんて一時のもの。一生残るものは辛み、嫉み、僻み……。誰かが言った愛の反対は無関心。それは愛を知っているからの発言で、愛を知らない人はその言葉を理解できない。何故愛と定義し、何故無関心と定義する? それを教えてくれる人物はどこに居る? 聖女はもういないんだ」

アンブラーはそう言って自虐的に笑った。

「全て無に返し、私が神となれば新しい木が生まれる。その木は真っ直ぐ伸び、また枝を広げるでしょう。そして再び廻中間の時、素晴らしい指導者がいれば、素晴らしい信仰があれば世の中平等に、皆が幸せになれると思うんです。……今更、この世界で信仰を広げられないので私はそちらに賭けることにしたんです。そのためにはこの世界はもういらない。古いものは消えてもらわなければ新しいものは生まれない、そうでしょう?」

アンブラーはそう言って何やら難しい言葉を重ねて唱えた。
グライトには理解できない、魔法の呪文だろう。止めようにも上に浮かんでいる彼をどう降ろせばいいのだろうか?

そんなグライトの少し先で影ノ皇は黙ってアンブラーを見上げていた。彼が何を思っているのかは分からないが、遠い目をしてアンブラーを見ている。
影ノ皇は小さく口を開いた。だがしっかりした声色だった。

「お前は昔の俺と同じ過ちを繰り返そうとしている」

影ノ皇の言葉にアンブラーはピクリと反応を示した。心底不快だと言うような表情でアンブラーは影ノ皇を見下ろす。影ノ皇はそんな視線に臆さず睨み続けた。

「お前のような野蛮なものと同じ? はぁ? わけがわからない」
「いや、同じだ。お前は俺と同じ考えを持っている」

影ノ皇は自身の思いを語りだす。それはアンブラーのものと一致しているような、そうでないような事だった。

「我々もそう思い、お前と同じ様に新しい世界を創ろうとしたんだ。ただお前とは違う所は、我々はこの世界でそれを実行したと言う事だ。
我々は全てを終えた時、気付いた……悟ったんだ。人は同じである必要があるだろうかと……」
「……どう言う事だ? 何が言いたい!」

アンブラーは影ノ皇の言葉につっかかりを覚え、喚いた。うるさい、うるさいと言うアンブラーは子供のようで、半身の禍々しさはさらにましていく。
アンブラーは半身に呑まれかけていた。秘宝を宿した体はその膨大な魔力に耐えられず、ボロボロと皮膚が砂のように落ちていく。
影ノ皇はそんなアンブラーを見て哀しげな顔をした。

「我らの時代はもう終わったんだ」

影ノ皇はそう言って飛躍した。
一踏みでアンブラーの居る所まで飛びあがると黒い剣を振り下ろす。ブォンと音を鳴らして剣はアンブラーを真っ二つにする。
唖然と見守るグライトは振ってきた血に顔を青ざめ、目を見開いた。

——アンブラーはそのまま悲鳴も上げずに地面に帰す。その最期はあまりにあっけな過ぎた。

影ノ皇は地面に戻り、アンブラーの死体に向かって手を合わせる。
アンブラーが死んだ事により、中途半端な魔法陣は暴走を始めた。影ノ皇はその中心で立ち暗雲立ち込める空を見上げていた。
放心していたグライトは、その空の異変にいち早く気付き、ユーノ達がいるであろう穴へ走った。
暴走を始めた魔法ほど危険なものは無い。洞窟の残りの壁はみるみる魔力により崩れていく。
グライが慌てて穴を覗きこむと金の腕輪が再び光る。ホッとしたのもつかの間、グライトは迷わず飛びこんだ。